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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
新装開店。~支店営業始めます?

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かわいいはつくれる

「それではカレンちゃんのヘアアレンジ講座、始めます」


 ぱちぱちぱち。

 受講者は、私、シアさん、ローラさん。

 講師はカレン。のりのりである。助手コンラート。俺が何で? という顔をして椅子に座らせている。うちで一番髪の長い弟子だから呼ばれた。願掛けで伸ばし続けて数年だそうだ。


 ……なにが原因か。

 明日どうしようかなと思わずつぶやいたせいだった。

 カレンが、師匠が、シェフ宅を訪れるときの可愛いかの確認がひっじょうにうざかったので可愛いの作り方を教えてやると俺様な主張をした。

 きっと明日の出かける前も俺に言うんでしょ? かわいいかって?

 ……すまん。

 ほら、女の子にモテモテだし、やさしいし、なんか変でもやんわりと言ってくれるかなと思ったんだ……。ほかの弟子、直球過ぎる気がしてね。そもそも人に聞くなとか言う話なんだが、落ち着かなかったんだよ。


 そうして始まることになってしまった講習にお店にやってきたシアさんとローラさんも加わったというわけである。

 シアさんとローラさんはこの数日、シアさんの元雇用主のところに行っている。下町の歩き方、初級編をローラさんに指南してもらうためだ。ついでにテーブルコーディネートの相談とかもしてもらっている。

 使えそうな人は使い倒し、後でお礼をする。それで何とか乗り切るしかないのである……。自業自得だけど半月以上のロスが痛い。


 やや外は薄暗くなってきているが、カレンは手早く解説してくれた。生贄、いや、助手のコンラートが虚ろな目をしているので、すぐに覚えたい所存ではある。すまぬ。

 髪結いに抵抗がないのはカレンは双子の姉がおり、よくお互いで髪を結んで楽しんでいたかららしい。今でも誰かの髪を結ぶのは嫌いではなく、弟子の誰かが餌食になっている時がある。


「師匠は、可愛いんだから、別にそんなに気にしないでもいいと思うよ」


 実演と言いながら、私もそのまま髪を結ばれる。


「いやでも、黒髪だし、地味だし地味だし」


「誰に言われたか知らないけど、……いや、俺が言っちゃだめだな。

 あの人の前で、そういってみな」


「それは慰め待ちみたいでいや」


「わがままだなぁ。どうせ、俺は本気にならないと思ってんだろ」


「……え」


「なんてね。

 はい、可愛いししょーちゃんです」


 いま、なんか、ぞわってした。

 お、おう。地雷が埋まってるの確認したぞ。つつかないぞ。


「お次は、シアちゃん。

 ねぇ、今度、一緒にお出かけしない?」


 ……気のせいだった気がする。平常通りだ。

 その次のローラさんも俺と一緒に遊ばないとか言ってた。何の遊びかって、まずお茶して、リボンが可愛いお店行って買い物するそうだ。

 ど健全。しかもちょっと行ってもいいかなと思う感じ。

 モテる男はやはり違う。


 それから何時間かして最後の弟子も帰り一人店に残った。

 残業である。

 この先、パーティーが終わるまで休みなしの馬車馬生活が待ち受けている。明日出かけられるのは、前払いのご褒美のようなものだ。


「はー、もう、お風呂入ってから続きしよっ」


 さすがに疲れてきて、一度ペンを置いた。

 立ち上がり、伸びをして体をほぐす。あとでストレッチでもしよう。見るとはなしに、窓へ視線を向けるといつもと違う自分がいた。


 髪は最後は解いていこうとしたカレンを止めてそのままにしている。纏まっているほうが書類仕事しやすい。

 俺は知らないよと笑ったが、その理由は教えてはくれなかった。変に癖がつくとか実は解きにくいとかそういうやつなのだろうか。


 教えてくれた髪型はそんなに難しいものではなさそうだった。ファッション誌で簡単アレンジと書いてありながら実際やるとあれ? と首をかしげるようなものと同じくらい。いや、難しいじゃないと突っ込むところだったんだろうか。


 耳のあたりから細いみつあみをしているが、リボンを巻き込んでいるので華やかに見えた。そういえば、リボンが用意されていたということは元々するつもりだったということでは。三本それぞれ色違いで、選ばせてくれるのかと思えば、これねと決めてあったようだった。

 私のは濃い青。なにかよく似たものを知っているような気がしたが、なにかは思い出せなかった。


 カレンは髪型だけでなく、明日はちゃんと手袋付けていくようにとか、日傘は使わなくてももっていけとか、でかい鞄じゃなくて、小さい鞄にしろとか……。大変初級の注意もされた。

 いや、知ってるよ、知ってるけどね、今までそこまでじゃなかったんだって、ほんとだって。という言い訳はへぇ?と冷ややかに返されて終わった。

 もう、このジャンルではカレンのほうが師匠だ。

 おかげさまでよいとこのお嬢さんの擬態くらいまでは行けそうな気がする。しかし、顔色の良さについては化粧でも誤魔化す限界が。


「……寝るか」


 クマとか作ってたら、話にならない。そうでなくても最近寝不足。急ぎはないのだから、明後日の私がきっと頑張ってくれる! ということで寝よう。

 そう思っていたら、扉が叩かれる音がした。


 深夜でもないが、来客がある時間ではない。どうしようかと迷ったが、一応外を確認してみることにした。遮光カーテンでもないので、明かりは多少は漏れるから誰かいるのかは外にわかるだろう。

 無視したところで強盗だったら窓を割られるだけだ。


 一応明かりを手元に窓から外を照らしてみた。


「……あれ?」


 予想外の人がいた。


「どうしたんですか? ライオットさん」


 鍵を開け、尋ねる。なんだか、ちょっと焦っているような顔に見えたけど。

 私を通り越して店内を見ると顔をしかめた。


「こんな時間まで、一人で何をしてたんだ」


「残業です。

 明日でかけるために、こう、前倒しが前倒しで」


 できれば、眠れなくてとか言いたいところだが、現実は現実としてそこにある。


「……そうか」


「もう、寝ようとは思ってましたよ。

 ちょっと上がっていきます?」


「いや、君が無事ならそれでいい」


 なにか、心配されること、あったっけ?


「兄が無礼な態度をとったと聞いて、巻き込んで申し訳ない」


 あった。

 思い返したら腹が立ったので、忘れようとしていた。いらっとしたとか表に出したら最後、水面下でなにか始まりそうな予感がしていたのだ。

 ほんとに、扱いづらい弟子に化けてきた。いや、素が出てきたってところかもしれない。ああいうのは他の用事で忙しくさせておくに限る。


「ライオットさんが悪いわけではないので」


「それでも、俺のせいだから」


「では、お詫びに、明日の買い物を割り増ししておきます。

 まあ、立ち話もなんなんで、どうぞ、中に」


「もう遅いから」


「私にあんなことがあったんですから、ライオットさんの方も何かあったでしょう?

 明日はそんな話聞きたくないので」


「知らせるほどでは」


「聞きたいので!」


 ごり押しした。

 シェフを部屋に入れて、鍵をかけた。防犯大事の意識だったが、なんか密室作ったなという気も……。

 明かりをテーブルの上に戻して、広げていた紙をまとめる。部屋の方に持ち帰るつもりだった。


「話すなら、ここでいい」


「お茶も出せませんよ?」


「長い話にはならない」


「まあ、そういうなら」


 書類を横に避けておく。そして、向かい合って座った。


 シェフが言うには、予定通りに交渉決裂からの絶縁になりそうなところで、私の話が出たらしい。あんな平民認めんと。だが、こちらの条件を飲めば認めてやってもいいとか。

 ……わざと煽ってるのかってほどの悪手。

 もちろん、即絶縁宣言して帰ろうとしたら、家の護衛が出てきて帰さないという態度だったらしい。シェフは素手で何もできないと思っていたらしい。

 いや、その人、素手でも十分蹴散らして帰りそうですが、と思った。

 面倒だから大人しく部屋に監禁されて夜に抜け出して、今だそうだ。


 プライドが高いから、あちらから絶縁してやったという話が出るという見通しらしい。騎士を辞めたような息子から絶縁を言われるのは許せないだろうと。

 シェフに少しばかり傷ついたような顔で言われると、あ、出禁にしてやろ、と思った。


「勝手な言い分だと思うが、店への出入りまでは禁止しないでほしい」


「……迷惑行為があった時点で、出禁にしますからね」


「それで十分だ。

 ありがとう」


 うーん。制裁したい衝動よ。人の家の事情に半端に首を突っ込んではいけない。その気持ちでいないと余計なことをしてしまう。

 私は、部外者。

 嫁になってからはわからないが、今のところ婚約者でもない。やりすぎ、ダメ絶対。


 ちょっとだけ重い沈黙よ。何か楽しい話題で終わらせたいが、仕事の話しか……。いっそ、賃貸契約書できたから見るかとかそういう話を……。


「……いつもと違う」


 ふと気がついたように、そういわれた。


「え、ちょっと色々あって結んでもらいました」


「シアさんに?」


「いえ、カレンに。手先器用なんですよね」


 おや? なぜ、立ち上がられたので?

 おやおや?と思ううちに後ろに立たれた。なんだろう、冷気というか殺気めいたものを感じるんだけど、何が悪かったのか全く分からない。


「ど、どうしたんですか?」


 それに答えず、シェフに髪に触れられる。


「外すよ」


 確認ですらなかった。器用に解かれていく髪。

 するすると落ちたリボンが床に着く前に捕まえる。可愛いのに。


「私のかわいいが」


「そのままでも十分だ」


「ええ、でも、可愛くなかったですか?」


「かわいいが、ほかの男に触られたかと思うと嫌だった」


「……弟子は男のうちに入れておりませんが、嫌なら次はしません」


「そうしてくれ」


 その声はいつも通りのような気がした。ただ、指先が私の髪を梳いた感触にどきどきする。撫でられるとも違うそれに慣れることは出来そうにない。

 赤い顔のまま思わず手元に残ったリボンを見つめた。


「……どうした」


「い、いえっ」


 気がついた。

 これはライオットさんの目の色とよく似ている。


 ……カレンの意味ありげな笑いの意味がよーくわかった。

完全プライベート案件のため、カレンは師匠に対しても雑対応です。いつもはもうちょっとちゃんとしてるはず。

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