実家帰省
本日二話目です。
「え、鎧引き取るって? 叔父さんなんかするんですか?」
シディはその日、実家に帰っていた。いつもは城に部屋があり、そちらに寝泊まりしていた。上司の招集にすぐに応じられるように、というところなので特権というより、仕事しろよという感じである。
叔父が家に来ると連絡を入れていたので、父と祖父から引き止めておけという密命を受けてである。
気が重い。
どうせ、アズール閣下のところに戻れなんて話をする気だ。何年同じこと言ってるのか。毎回、断られているというのに。今は事情が違うとか言っていたが、そんなの叔父が望んでいるとは思えない。
今までは聞き流していた叔父も今回の件で、言葉以外で意思表示するだろう。
そう思っていたので、鎧を処分すると思っていたのだ。騎士として、大事なものだからこそ、もう戻らないという意志を示すために。
「家の方に保管しておく。時々手入れくらいは出来そうになる予定だから」
そういう叔父はなんだか楽しそうだった。いつもこの家に来るときはしかめっ面か不機嫌そうなのに、今日は大変機嫌が良い。
逆に不安になってくる。
「あの家に住むつもりですか? 城に通うのたいへんじゃないですか?」
「城もやめる」
「え!? なにするんです?」
「しばらくは雇われ店主」
「……甲斐性のあるお嫁さん羨ましい」
ねぇ、シディ君と優しい声で呼んでくれたその人は叔父の恋人である。優しくて料理の上手な奥さん、その上、経営者やってる。素直に羨ましいとシディは思う。
叔父は少しばかり困ったような顔をしている。
「まだ、婚約者でもない」
「そうなんですよね。婚約式とかするつもりですか?」
貴族的な常識で言えば、恋人状態とは婚約からはじまるものである。婚姻が家同士の利益などのために行われるから、先に家の都合があってその次に好きなるとかがある。今どきは違ってきているが、それでも家の意向は優先される。
だから、婚約したと公表する婚約式には重きを置かれる。
「届け出は書くがそれだけで済ます」
「おじいさまが許してくれますかね?」
「許さないだろうから家とも本格的に縁を切るし、騎士爵も返上するつもりだ。
そうでもしないと、嫁だからと無理を言いだすだろう?」
「あぁ、そうですね……。シオリさん、叔父さんの立場とか考えて色々譲ってくれそうですからね」
そこを利用されそうではある。と思ったのだが叔父は首を横に振っている。
「いや、そのあたりは厳しい。出禁で済むか、わからん」
「え?」
「意外と容赦ない。
兄さんや父さんはどうでもいいが、義姉さんや母さんが肩身を狭い思いをするのはちょっとな。関わらないほうがましだろう。お客なら普通に客対応してくれるはずだ」
「お菓子一つのために縁を切るのか、とか父さんたちは言いそう」
それだけでなく、皆の平和のためでもあるのだろうけど。シディはあの優しそうなお姉さんがそんなこと言いだすのかと想像は出来なかった。
……いや、意外とするかもしれない。シディは彼女から妙な威圧感を感じたことがあったと思い出す。
「ただの、菓子ではないんだが」
「おいしかったですよね。叔父さんにもらったやつは特別元気が出るというか」
「……そうだな」
微妙な返しにシディは首を傾げた。
「剣のほうはいくつか処分するつもりだが、いるか?」
「え? いいの!? あの、青い石がついてるやつ欲しい!」
「わかった。
やるから、もし、どこか監禁されたら助けてくれ」
「うっかり、鍵をかけ忘れておく」
全面戦争始まるなと思いつつシディは叔父の味方をすることにした。母や妹の機嫌にも関わることだし、少しばかり話をしておくこともいいかもしれない。




