そこは彼の領域
「俺もこの家に入れた女性は君しかいない。
できれば、休みの日は迎えて欲しいと思っている」
その言葉を聞いたとき、彼女はきょとんとしたような顔をしていた。
「……駄目だっただろうか?」
「構いませんが、忙しいときには弟子が出るかもしれません」
「それは断る」
「では、帰ってくるときは大体の時間教えてください。調整します」
「そうする」
なんだかとても事務的に処理されてしまった。それに謎の敗北感があった。
鍵を渡したいも、部屋を用意したいも、やはり、通じてなかったようだ。そもそも周りから固めていくようなやり方も好ましくはないのだろうが、好意だけで勝負できると思えるほど自信もない。
「……なんか、間違いました?」
「間違ってはいないと思う。俺の言い方が悪かった」
なんとなく逃げ道を用意したような話では、だめなのだろう。
「君が、この家にいてくれたらうれしい。
できれば住んでほしいし、帰ってきたときに、お帰りと言ってもらいたい」
驚いたように見返され、徐々に赤くなっていき、ついには顔を覆ってしまった。
「嫌だっただろうか?」
「違いますって!
でも、見ないでください、ほんとダメですからねっ」
「なぜ?」
「締まりのない顔してるからに決まってるじゃないですかっ! 見せられません」
「残念だ」
「なにがですかっ」
「それでもシオリさんはかわいいと思う」
「……そーゆとこ、そーゆーとこですよっ! こう言う顔や寝顔すら可愛い言い始めるのは末期です」
「……起きてた」
「半分寝てました」
「忘れてればよかったのに」
「可愛いはもれなく覚えておきます。希少価値があります」
そういって顔を見せたときには、やや顔に赤みが残っているようではあるがいつも通りに見えた。
熱いと言いながらぱたぱたと手で扇いでいる。
「とりあえずは、ここで営業する日はいることにします。いつでも、帰ってきていいですよ。
でも、それってなんか……」
「ん?」
「新婚さん、みたいな?」
照れたようにそういう。
彼女の言い方を借りれば、そーゆーとこだよ、そーゆーとこ! である。




