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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
新装開店。~支店営業始めます?

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改修計画と

 少々長い散歩を経て、シェフの家に着いた私たちは、最初に図面を確認することにした。キッチンのテーブルに二枚紙を広げる。この図面はシェフが一時的に家に帰っていた時に探しておいたものだ。


 一般的家というのは階級別で定義がある。

 都会の一般庶民となると2Kか1DK程度、場合によりワンルーム。ただ、この場合のキッチンというのは料理するというよりは水場というニュアンスが近い。買ってきたものを切ったり、場合により火鉢や七輪のようなもので温める程度。トイレは共同、風呂はなし、というのも別に珍しくない。

 王都などの大都市だと間取りにより税金のかかり方が違うそうなので、一人暮らしでも家族で暮らす場合でも広さは違っても間取りは一緒の場合が多いそうだ。これは使える面積が決まっているので、より多くの人を住まわせるために考えらえたことらしい。

 部屋数増やしたければ、金払えということだ。


 中流階級になると主寝室と子供部屋、使用人の部屋が追加され、4LDK~といった感じ。メイドさんを雇うのもこのあたり。つまりは部屋数をお金で買えるくらいの収入アリ。シャワー程度はあるが、バスタブまでは個人差くらい。見栄を張って大き家を持ちたがる者は多いそうだ。で、破産して6月ごろに売りによく出ているそうだ。リアルで怖い。


 私の家である店の二階はこの中間といったところ。店舗の施設というところなので、家としての税金はかからない。まあ、店としてはそれなりに……。


 上流階級となると話が変わってくる。

 主に貴族であるので、最低限の部屋数が決まっている。王都に住むための別邸であっても、である。

 なんと、6LDK。最低6部屋。どこのお屋敷だ。いや、お屋敷か。

 シェフの持ち家はこういう家なんですよ……。

 しかも庭付き。庭付きは王都でも少ないそうだ。税金で部屋数を制限しているような場所なのだから当たり前だ。


「お部屋いっぱい」


 見せてもらった図面を見て思わず言ってしまった。二階に4部屋あったとは……。一階は3部屋とキッチン、浴室などがあった。


「各部屋はそんなに広くない。建てる最低条件に合わせただけだろう。

 それに備品部屋も使用人の部屋も数に入れているから」


「それでも庭あるって時点でもう自慢できますよ」


「管理が面倒だけどな」


「なんで、買ったんですか?」


 つるっと出てきてしまった。なんか、ものすっごい、デリケートな質問では? と言ってから気がつく。


「売ってたから。

 建物は築100年を超える古いものなんだが、そのわりに管理はちゃんとされていたし、急ぎの売却だったから相場よりは安かった」


 なぜ買ったのか。そういう疑問はそこに残りっぱなしである。

 知りたいが聞きずらいが、聞きたいなぁと脳内を5巡したが、詳細は聞かないことにした。


「今後、王都で物件買うときの参考までに聞きたいんですけど、いくらくらいですか?」


 聞いた金額は、立地や建物など色々込みで考えればお手頃、ではあったけど、大金だ。

 なお、現在、同じような立地で家を買おうとすると倍以上するそうだ。でしょうね……という感じはする。今までも売らないかという話はあったそうだが、その金額で同じレベルの家は絶対に買えないと売りはしなかったらしい。

 そもそもこの立地は売りに出ないレベルだそうで……。遊ばせておくのはもったいない家である。そして、貸しだすという手間をかける暇もなく今、ここにある。


「借りることができてよかったです。

 買うなんて夢のまた夢……。

 さて、家の中を見てもいいですか? ここくらいしかよく見てなくて」


「ここにはなにもないだろ」


「鍋も包丁もその他いろいろもあってライオットさんっぽいところだなと思いましたよ」


「……そう」


 なぜか、嬉しそうだった。


 家の中は多少の修繕は必要そうだった。壁紙が一部剥がれてたり、床の傷がちょっと目立っていたり。二階のお部屋には家具があり、布をかけてあった。元々置いていった家具らしい。

 家具の重厚感もあり、広い感じはあまりしなかった。全部どかせばそれなりに広そうではあるんだけど、重そうだからこのままかな……。

 シェフは客間のほうを使っているそうだ。主寝室を一人で使う気にはならないそうだ……。寂しさが増加しそうなのでわかる。

 主寝室と子供部屋は白っぽい系統の家具が置いてあった。ほかは全体的に茶色と黒。歴史の重みがありそうである。


「二階は店には向いてませんね。

 一階は家具をちょっと配置換えしなきゃいけないかな。場合により倉庫に預けてもいいですか? 保管料その他払うので」


「そこは好きにしていい」


「ありがとうございます。

 着替えなんかは、使用人の部屋を使って、テーブルクロスとかはリネン室に置けばいいかな」


 シェフは色々考えている私を見ている。見てるだけで楽しいみたいな雰囲気が、すごく、こそばゆいというか刺さる。

 そ、そんなに見ないでくださいと隠れたくなるが、隠れたら誤解されるのが目に見えている。なのでなんでもない顔で見返しておいた。


「……なんですか?」


「楽しそうだなと思って」


「楽しいですよ。責任もありますけどね」


「重くないか?」


「重いですけど投げるわけにもいきません。

 私の大事なものですから」


 私はお店が欲しかった。それをくれる夫も。

 でも、本当に欲しかったのは、ここでの居場所だったのかもしれない。

 もう帰れないと諦めてここにいるための理由がなければ、何もできそうな気がしなかった。二度と何かを始めようと思えない気がした。


 今は、帰れると言われても、帰らないだろう。

 残してきたことに未練がないとは言わないが、ここで生きていく。少しずつ、そう思えてきたのだ。


「さて、これかれ図面に書き込んでおしまいですね。思いのほか長くかかりました。

 先に休憩します?」


「そうだな」


 ティーポットは以前使っていたものとは違うものが置いてあった。私の家に持ってきたものとお揃いらしい。ティーカップもあったが、2客である。普通のティーセットは4~6客くらいのカップがついている。


「……なんか、素敵なのに死蔵してたのわかります」


 あんまりにも露骨すぎて嫌になる。というやつである。あのお皿セットといい……。親というのは心配なのはわかるけどさぁということをしてくるときがある。

 まあ、私は、もうそういうことはないんだけども。そう思ったときに感じたちょっとした痛みをやり過ごす。

 少々、感傷が過ぎる気がした。


「今使えるなら、無駄ではないだろう」


「物はモノですけどね……」


 お茶を入れて、アプリコットジャムを塗ったビスケットを用意する。チーズとかも冷蔵庫に入っていたようなので、このビスケットは晩酌用だったっぽい。昨日開けたワインの残りと楽しむつもりだったのか、ビーフシチューを作りながら飲む気だったのか。


「明々後日には契約する準備を整えますね。そこから大工さんと打合せして、簡単な補修になるですけど、家の鍵はお預かりしてもいいですか?」


「予備の鍵は渡しておく。

 返さなくていい」


 ……。

 合鍵もらった系でいいのか。いや、仕事の話だしな。


「ちゃんと預かっておきます」


「それから、二階の使っていなかった客間は片付けておくから、遅くなった日は泊まっていってほしい。

 危ないから」


 お部屋ももらったと……。いやいや、夜道キケンという話だよね。

 過剰反応よろしくない。


 いや、でも、ほら、婚約の話ってのもあったわけでして、もしやあの頃から好かれていたのではないかと思うと……うん。落ち着こう。


「ありがたく使わせてもらいますね」


「たぶん、週に一度くらいは顔を出せると思う」


「わかりました。その時はちょっと静かにするようにしますね。

 あ、落ち着かないようでしたら、私の家の方で休んでもらってもいいですよ」


「……もっと落ち着かないだろ」


「そうですか。残念です」


「前々から思っていたが、男を部屋に入れようとするのはなぜだ」


「え、ライオットさんだから、ですけど?」


 絶句された。

 おや、刺激が強すぎた?


「誰でもじゃありませんよ。弟子もいれたことないです。用事があってきても玄関までです」


「なるほど、あの時にすごく驚いていたのはそういう」


「あの時?」


「旅に出ると話をしに行ったとき。

 弟子たちが驚いていたようだったから」


「そうでしたっけ? あの時は、お休みしていただきたかったんですよ。お疲れ度合いが半端なかったですし」


「……そうだったな」


 しばしの沈黙。耐えきれずにビスケットをかじった私。おいしい。甘くて酸っぱいのがいいのだ。さくっというよりぱりっとしたような食感とねっとりとしたジャムの相性がいい。

 やはり煮詰めて正解だった。果物感を残したさらっとしたものもいいけど、長期保管にはこっちのほうがいい。

 また、来年も収穫できたらいいのに。


「俺もこの家に入れた女性は君しかいない。

 できれば、休みの日は迎えて欲しいと思っている」


 ……?

 あれ? いま、なんか、すっごいこと言われたような?

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