彼女の従姉
少し場面は戻ります。
彼女の従姉は血縁だけあって似ていた。聖女も似ているところがあると思っていたが、こうして実際の血縁を見てしまえば明らかに違うことがわかる。
彼女はカメリアと名乗った。本来の名前はこちらでは珍しすぎて、問い返されるのに飽きたらしい。
シオリは言い換えができないから、そのまま通してるという話もあわせて聞いた。確かに珍しい名前ではある。ライオットは彼女以外で聞いたことはなかった。
ただ、サイゾウが東国ではよくある名であると言っていた。祖先が同じであるのかもしれんと勝手に納得していた。ライオットはそうかもなと適当に相槌をしておいた。おそらく、彼女はこの世界のどこの生まれでもない、という必要はないだろう。
聖女と彼女は共通認識の上で、話をしているように思えたのだ。特に食べ物に関しては近隣では見ない食材、珍しいものについても知っていた。食べられる環境にないにもかかわらず、おいしかったと食べたことがあるように話す。
この二人は同じ世界で生きていた。そう思わせるところがある。そして、おそらく従姉であるカメリアもおなじだろう。
だからと言って何かする気もないが。
「遠いところから来たからちょっとしたことが違ったりするのよね。
お節介だと思うけど、私も婚約するとき色々思い違いがあったから」
そういって切り出された雑談は、多少の違和感を解消してくれた。
彼女の言う恋人関係というのは、結婚前提ではなく、お試し期間に近い。相互で合意をとれた場合に、次の段階として婚約するという感じなのだろう。
家などの関係がなければ、そんなものかもしれないと思えた。
それと同時に過去の色々な間違いに気が付く。よく見捨てられなかったものである。
「まあ、二人の自由にすればいいと思うわ。
私、保護者でもないし」
それが一番の違和感かもしれなかった。
今の彼女ならもっと条件の良い相手がいるだろうと身内なら説得すると思えた。
「聞きたいことがあれば、秘密で答えてあげるわよ。
指輪のサイズとか?」
「俺なんかでいいと思ってますか?」
「んー、それこそシオリの好きにしたらいいじゃないってことだから。
という意味じゃないのよね。
家とかないから、困らないし、そもそもシオリにとって条件の良い結婚ではあるのよ」
「どのあたりが?」
「ちゃんと話を聞いてくれるって。前の見合い相手って聞き役が多くて、頷き人形みたいと虚ろな目してたもの。
行列も一緒に並んでくれて、待ち時間も退屈しないから、いいと思うんだけどなって」
「大したことでは」
「あと、そうね。
シェフの厨房はきれいで管理されててすごいんですよ。味見したことないですけど、仕事が丁寧でよく考えてあるのですっごいんですって」
「もう、いいです」
「あらあら、まだあるのに」
面白がるような声にライオットは机に突っ伏した。
なにもいいたくないし、聞きたくなかった。
彼女は、そんな話一度だってしなかった。
なにより、今までしてきたことを評価されたのが、ひどくうれしかったのだ。




