薔薇の騎士
「ほんと我が従妹は、無鉄砲」
「そうだな」
彼らは聖女の凱旋を家の二階から見ていた。
彼の親戚の家で都合よく大通りに面した窓があったのだ。当の家主は外に出ている。一体感を味わいたいのだそうだ。
事前に連絡の有った通り、聖女を乗せた屋根のない馬車とその横につけた馬に婚約者の従妹が乗馬していた。
乗馬できたっけ? と思うが、寄宿舎で乗っていたような気もする。そろいの衣装の騎士も続き、目立つことこの上ない。
一周年の記念としてだけでなく、パーティーで着せたら宣伝効果抜群だろうなとご機嫌に監修した婚約者が苦笑いをしていた。別の使われ方をすることになろうとは思っていなかったのだろう。
予定外の使い方をするので、関係各所に黙っているようにと通達されている。あれはもうお蔵入りするしかない。
「そのまま騎士をやるのかい?」
「しないでしょ。そういうの、好きじゃないと思うわ」
あっさりと彼女はそういう。
名誉ある名の残るものだとしても、必要としないのだろう。まあ、彼にしてもそういう名誉職はお断りしたい。名もなきとまではいわないが、一般人でいい。
「それでも、聖女様には護衛がいるだろう? 無理を言われないか?」
「ないわ。
あの聖女様がさせないでしょう。だって、お菓子大好きなんですもの。ここの世界は、悪くないけどお菓子だけはねぇ……。甘さ控えめで控えすぎて味がしないとかまだあるし、良くなるのはもう何年もかかりそうだから」
ため息をつく彼女も自分で好きなものを作っている。
菓子類は元々対象が違うのだから、仕方ないだろう。食事はそこまででもないが、菓子類は嗜好品として財力や権力の象徴としやすかった。手に入りにくいものをこんなに使うことができるのだという考えは次第に改められるだろう。
家で作られる子供のためや軽食の代わりでも、目立つためのものでもなく、ちょっとした楽しみのために。
「まあ、とりあえず、この先の予定とか会計とか手伝いしないとね。
お店の修繕の報告とかあるし。色んなツケの支払いやらなんやら。その上、イベント企画とか忙しいわよ」
「僕も役に立つかな」
「掃除くらい……できないわね。スライム改良したものを進呈したら? 最近許可でたんでしょ?」
「まあ、そこはギルドを通してやるよ」
そんな話をしている間に隊列は過ぎ去っていく。
それは今日限りの幻だ。
明日からは普通の日。




