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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
食材探しの旅in東方 ~RTAは得意です?~

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パンケーキは山盛りで

「心底恥ずかしい」


 聖女付き騎士として限定爆誕した薔薇の騎士。実はマントどころか、衣装もありました。素面で着れない。それにこんなつもりで店名つけてない。

 先生、思わぬ形でこんなのになりました。と伝わらないであろう思念を送っておく。


 弟子たちも自分の身内の悪ノリに若干引いていたようだ。だよねぇ。仮装のたぐいだし。多分、一周年の仮装でつかってと笑いをかみ殺しながら押し付けられる予定だったんだろう。


「お似合いですよ。まあ、恥ずかしいのは同意しますけど」


 そういうシアさん用ももちろんあった。着替えたとき、なんか、どよめきがあった。私は、なかった。……いや、うん。いいんだ。シアさんはなんか凛々しい姫騎士って感じだ。

 私はなんか、違った。強そう、言われた。


 ……さて、国境から即帰宅となり、行きと同じ行程の一週間を過ごした。撤収作業などがあるから一部の人を置いてきたが、それも数日遅れで来るだろうということだった。彼らも待って、王都入りの予定である。

 先行した理由は王都ひとつ前の町で打合せをする予定だったからだ。相手の都合を考えてない一方的に来いという呼び出しが予定かというと微妙だけど。

 で、都合よく、時間が合うこともなく、待ち時間に衣装合わせをしていたわけである。


「まあ、一応様になっている、ような気はする」


 宿屋の一階にある食堂に集結すると場違い感が半端ない。

 元騎士がそろっているだけあってかっこいい、ような気はする。気がするなのはやはり弟子だからなというところだろう。あと、みんな微妙な顔しているし。

 得意げなのは、カレンくらいだろう。俺、似合ってるという顔してる。確かに弟子の中で一番の美貌は冴えわたっている。

 陰キャを自称するジュードが死にそうな顔で……。早めに切り上げよう。


「じゃあ、本番はしゃべらないように。

 色々バレたらめんどくさいことになる」


 そのあたりは、私より彼らのほうが理解しているだろう。怪しいかもしれないが確定しなければ怪しいで済む。

 現地にいた近衛の人たちには、聖女様が直々に制約をかけていた。約束を守る間は加護があるが、破ると激痛があるらしい。殿下たちにもかけようとしていたけど、断られていた。さすがに王族相手に無理は言わないのかと思えば、別の方法で脅していた……。


 解散というと皆がばらばらに部屋に戻っていく。そのまま外に出ようとする猛者カレンは、止められていた。まだお披露目は早い。

 俺はかわい子ちゃんに褒められたいとか、ごねるので仕方ないので、私が褒めておいた。シアさんも形ばかりの誉め言葉を言っていたが、ご機嫌に帰っていくあたりチョロい。

 え、俺も褒められたいという視線を私は気がつかなかったふりをする。シアさんはちょっと困り顔でお似合いですよとか言ってたけど。


 私はそのまま部屋に行くとさっさと食堂に戻る。

 その時には誰もいなかった。宿を貸し切りにしたので他の客はいない。


「あ、シオリ、いた。パンケーキちょうだい」


「息をするように食べ物ねだるのやめません?」


「ちょっと力使いすぎて腹ペコすぎてあおむし」


「なんですか、それ」


 ニュアンスは伝わる。月曜日にリンゴを一個たべたりするんだろう。土曜日にはチョコレートケーキからスイカまで食べてお腹を痛くする。


「ふむ。じゃあ、草を」


「やめて」


 真顔で止められた。


 厨房に入ると宿の料理人がいたが、少し使いたいことを言うと譲ってくれた。がっつり金を積んだ効果はすごい。

 パンケーキ。

 店が壊れた日に作った物である。あれが半月とちょっと前。怒涛の一か月だったなぁと遠い目をする。


 あれからシェフと話は全然してない。それとなく避けられている気がしているが、それだけでなく邪魔もされていた。

 主に聖女様に。

 まあ、私も積極的に話に行く感じでもなかった。


 いや、その、怒られるかもしれないじゃない? 冷静になって考えたら絶対無謀だし、考えなしなのバレバレで、説教コースだろう。

 いま、それやられるとメンタルが死ぬ。後回しにしたい。


 それから、目の前で立ち回りもしてしまったわけで、引いたかもしれんし……。

 婚活再開かなぁ。でもなぁ。


「誰でもいいわけでもないからなぁ」


 婚活と言っていたころは、条件が合えばだれでもよかった。この世界で、自分のために生きるには必要だったから。

 それが、好かれたいとか、他の人じゃいやだとか、わがままになったものである。


「手伝おうか?」


 その声に視線を向ければ、ルイス氏だった。さっきの衣装は彼の分もあったが、着ることはなかった。領主として行ったのだから、その立場でいなければならないということだった。しかし、他の考えもあったのではないかと心配にはなる。


「じゃ、混ぜて。

 メイちゃんは腹ペコさんだそうですよ」


「よく焼いてたよね。パンケーキ。お前らの胃袋は無限かとか言われた」


「そうだったね」


 火をつけるにも手間取っていたあの頃。今は慣れて、火力の調整もある程度できるようになった。それでも焼き加減は難しい。


「焦げてるとか生焼けとかでもよく食べたよね」


「そりゃあね。育ち盛りの食欲を舐めてもらっては困るよ」


「確かに」


 争奪戦だった。負ける子にはこっそり別に用意して、呼び出していたのは懐かしい。

 この弟子も負ける側だった。いつの間にか、参戦していたけど。それからいろいろねだるのがうまくなった。


「弟がいたら、こんなのかなって思ってた」


「うん。知ってる」


 フライパンにバターを落とす。じゅわっと溶けて、パンケーキの生地を落とす。

 ふつふつと穴が空くまで待つ。


「僕は、こんな姉はいらないな」


「こんな、とは」


「焦げるよ」


 はぐらかされた。そして、本当に焦げそうだった。

 そこからは無限にパンケーキを焼く作業だった。楽しいお料理ではない。作業。


 卵と牛乳、小麦粉とベーキングパウダー、砂糖はほどほどに。ぐるぐる回して、フライパンでまるく焼く。

 山盛りのパンケーキはなぜかやってきていたアザール閣下と聖女様の間に置かれた。


 なぜ来た。そして、なぜ、食べようとしている。

 というという話はすでに聖女様がしていた。

 本当は王太子が来ると言ったのを止めたという話らしい。で、お腹空いたから食べるという主張をされた。

 見苦しい取り合いの前に止めた。偉い人たちがなにしてんだ。

 追加のパンケーキはルイス氏が焼き、持って行っていた。それにアザール閣下はびっくりしていたようだった。私の弟子ではあるけど、本当に作っているとは思っていなかったようだ。


「うまく焼けているな」


「……別に」


 ルイス氏、反抗期男子のような反応している。

 おお、と思ってみていたらばっちり目が合って、そのままどすどすと厨房に戻っていった。

 あら。可愛らしい。


「シオリ殿には迷惑をかけた。

 この件にかかわったものは一掃した。教会も風通しが良くなっただろう」


 さらっとすごいこと言われた。

 先に説明されていたであろう聖女様もすごい渋い顔してる。


「聖地をつくるという嘘を広めた罪で、王太子殿下の親族が断罪されて毒杯を賜ったそう。

 それから、教会も聖女から手を引くことになった。

 独立組織をこれから立ち上げることになった。予定通りではあるけど、手回しが良すぎる」


「それは、シオリ殿の忠告が良く効いたからだな」


「へ? 私?」


「手紙に聖女は、独立した存在であるほうが良いと書いてくれたではないか」


「そういうこともありましたね」


 あれは、一国でコレの面倒を見るのはやめたほうがいいだろという判断とおまえらの手に負えないだろうという皮肉だ。あとは請求書送るからな、言い逃れしても無駄だぞと丁寧に書いてやった。


「彼女は予想を超えていく。

 違う世界から来たのだから、それをわきまえておくべきだった」


「ご理解いただいて嬉しいわ」


 むっとした顔のままの聖女様。なんか、同じこと散々言ったんですけどね? 他人からの話なら聞くんですかね? という雰囲気を感じなくもない。たぶん、それ、どっかの元婚約者に言うべきじゃないかな。

 アズール閣下、実務主義者っぽいから話は通りやすいと思うよ……。


「我が国からは弟を贈るので、好きに使えばいい。縁談先も探すのも無理だしな」


「は?」


 フリーズしてる。

 私としては、まあ、そうなるかなと思っていた。聖女に振られた男。どう扱えばいいのか困るだろう。幽閉するのも、左遷するのも度量としてどうなのか、ということだし。だからといってそのままでも周囲の目が気になる。

 完全なる事故物件。それなら原因に押し付けてしまえという厚かましさがなければ、国の偉い人をやっていけないんだろうな……。


 固まっている聖女様を見てアズール閣下はいじわるそうに笑った。それから、私のほうに向きなおる。


「聖女殿はその嘘を信じてしまった隣国のものを説得するため国境に赴いた。そして、説得し、帰ってきた。今後はそのようなことがないように、独自の組織を作るがそれまでの間この国に滞在する。

 そういうことだ」


 事実と違ってもそれで押し通すという釘差し。余計なことを言わぬように、伝えておけも含まれるだろう。

 弟子たちにもちゃんと伝達しておくのは彼らの身の安全のためにするが、黙ってするのも腹が立つ。


「……口止め料はいただいても? 支店が欲しいなって」


 無言で見られた。


「いい立地の家を持て余しているやつがいるので、紹介する。購入費用は、こちらでもつし、営業許可も与えよう。

 それから王族の出禁はといて欲しい」


「それは反省文によりますね。閣下も書いてくださいね。

 店、壊されたんですよ。私」


「……わかった」


 場合により、閉店の危機だったことはご理解いただけたらしい。俺がやってないしと言い訳しないところは評価しよう。

 そう思っているとちょいちょいと袖を引かれた。


「私も?」


「もちろん」


「えぇ。友人割引とか」


「友人なら、もっと誠実な対応を求めます」


「くっ。塩対応なシオリも懐かしい」


 なに言ってんだ。


「早く片付けて店に戻らなきゃいけなんですよ。

 一周年の企画何にも考えてないですから」


 子供が好きそうななんかってなに!?

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