散歩
旅行も5日目。折り返し地点を超えた。
この間に、聖女様は弟子たちに色々聞いていた。おばちゃんみたいに根掘り葉掘り聞かれるんですけどと弟子に相談されたので、釘を刺しておいた。
聖女様とシアさんはちょっと微妙に人見知りし合っていて、私を真ん中に挟んで会話をするという謎の状況がたびたび発生していた。
なんか、聖女様的には、ほ、ほんものメイドさん!? オールワークス!? はわわ、らしい。思ったよりオタクな反応だった。
そして、シアさん的には、せ、せいじょさま!? あ、うちの故郷、救っていただきありがとうございますっ! だそうで。
仲良くやっていただきたいものである。二人だけで。伝書バト役、地味につかれる。
殿下と言えば大人しい。いや、正確に言うと荷馬車に揺られるのに慣れなさ過ぎて元気ない。諦めて、馬を購入することになった。あまり良くないとか言ってたけど、贅沢言わないでほしい。そして、聖女様の塩対応を超えた対応に泣き言言われている。いや、自業自得。まあ、そのあたりの話は聞いたけど、ほとんど継承問題のなんかだったので、放置している。その事件現場は王都である。
そんな2日目、3日目を超え、昨夜は街で宿をとり久しぶりのベッドだった。女3人部屋なので女子トークしようぜ! と思ったら、布団が心地よすぎて爆睡してた……。
ほか2人も同様らしい。
やっぱり、野宿の連続はちょっときつい。
経験なしのシアさんがぐったりしているのはわかるけど、殿下もやられてた。まあ、どこいっても王族待遇だし仕方なしだろう。
逆に師匠と聖女様、なんで平気なの? という顔で見られていたんだけど……。平気ではない。ただ、キャンプとか連行されたことがあって、無経験というわけでもないんだ。野外の煮炊きも学校で経験しているし。意外とサバイバル経験させられているな。学校行事侮りがたし。
昨夜、早く寝すぎて日の出を見てしまった早朝。朝の自主練をこなしてから散歩に出てみた。聖女様もシアさんもまだ眠っていたから一人で。
それにしても田舎の町と王都しか知らないので、興味深い。
町の中心は広場になりがちなんだそうだ。集まったり、祭りをしたり、まあ色々使える平地は大事なんだそうな。色んなお知らせの立て看板も立つそうだ。今は掲示板のような板にご近所のお知らせが張ってある。子犬譲りますとか、アルバイトの募集とか、趣味の集まりとか。
広場のベンチに座ってみると意外と早朝でも仕事の準備などをしている人たちはいて誰もいない感じではない。見慣れない人にちらっと視線は送られるけど、声をかけてくるまでではない。
平和である。
いまのところは。
ため息が出てきた。今すぐ何かしてないと落ち着かない。
町の開門時間は決まっていて、それ以外に出ることは基本的にできないのもわかっているし、焦ったところで、何一つ好転はしない。というのは理解している。
私一人では、遠くに行くこともできない。
行ったところでなんとかするのは聖女様だし、私が出る幕はないと思う。
そもそもの話、大人しく待ってろよ、というところはある。しかしまあ、首を突っ込んでしまった以上、気になるし、聖女様にお任せというのも不安がありすぎるのは確かだ。行動力あり過ぎて周囲がついてけてないとこ今までもあったのではないかと思うんだよね……。
雑多な情報をまとめた結果、やっぱり国境やばくね? という結論が出た。まあ、ある意味最初から分かっていた結論ではある。
今の現状、まずい理由は二つある。
1,聖女の誘拐及び襲撃が隠蔽されたことにより、国のほうの把握が遅れた。これにより、国境への追加人員がされていない。つまり戦力が圧倒的に不足している。さらに国境にこの情報はまだ届いていない。
2,相手方もそれの予想をしていない。隠蔽されるとか想定していないだろうと。
普通、女性襲って返り討ち、逆に利用されるなんて考えませんとというのはグスタフの評である。確かに。
だから、向こうも相当困っているはずと予想される。
なぜなら、有効な宣戦布告をできなかったからだ。
本来の想定なら聖女を襲ってでも連れ帰る。あるいは、そういう意志を示すというのはもはや戦争になっても構わないという態度の現れであり、ほぼ宣戦布告してやっている。
おまえらが一人占めするから、じゃあ、奪ってやるよという話か、それとも意志に反して捕らわれた聖女を解放するという名目なのかはわからないが。
で、宣戦布告してないことにされてしまい動けなくなっている。
黙って予定通り進めないのは無言で侵攻すると侵攻した側が非難の的になるから、らしい。それにどんな理由があろうとも他国からも完全に信用されなくなり、国として詰む。周囲を黙らせるほどの実力があれば、終わった後に言ってましたよと捏造したりするらしいけど、今回はそんな感じじゃない。
相手の国としては、正当な理由を申し立てて、ほかの国も味方にして聖女を手に入れようとそういう考えではないかという話。
で、こちら側の対応としては見せしめとして完全に叩くか、すぐに聖地の件を撤回し、謝罪、聖女の自由を認めるという対処になる。
そういう予想を立てて対策をしていたのに、全部なかったことに。
そりゃあ、困っているだろう。もう一度、使者を立て話をするのかしないのか。
なかったことになっているけど、聖女自身は知っている。どうするのか?
という現状なので、上層部の判断待ち、今すぐ争いになることはないだろうという見通し。
例外として、現場でお互い会ってしまったときだ。その時には、運が悪かったと思ってあきらめるしかないっぽい。
そこだけ聞くとまだ大丈夫そう? と思えるんだけど、相手側の現場が焦れて行動を起こすことも想定される。士気が高いなら、より危険である。
正義感やら正しさやらが、判断を誤る。
そうなる前につかなければならない。
聖女様の待った! が届くうちに。
そうでないなら、と考えてやめた。最悪なんていくつもある。それを選ばないように信用できるかっていうと……。
弟子よりシェフのほうが、心配。わりとこう、弟子を逃がして、自分が残りそうなタイプというか。ふざけんなとか言いながら、弟子の身の安全を守るほうを優先しそうというか……。
ほんとお守り、仕事しろよと念を送っておこう。金貨一枚の仕事しろ。
「……ししょー、なにしてるんですか?」
「散歩」
声をかけられた方を見れば、弟子が3人ほどいた。
ほっとしたような顔されたので、あ、と思った。誰にも何も言わずに出てきてしまった。
「弟子を残してどこかに行ったりしないよ。約束する」
一人でどこかに行ってしまったと心配させたようだ。弟子に心配されるとは師匠失格である。
「一人で行こうとしたくせに」
「こら、イーザー」
「それは無謀だったとわかってるから。
みんながいたから、行けるってのも」
「それはよかったです。帰りましょう」
「え、もうちょっと散歩」
「ダメです」
「はぁい」
やっぱり信用がないのか、連行された。皆、背が高いからほんと連行って感じ。
宿に戻ればそわそわしたように待っていた聖女様に抱きつかれ、シアさんにお供しますからと苦言を呈された。
「ほんと悪かったって。なんも考えてなかったんだって」
単独行動はもうやめようと思った。
それとは別に何と殿下からも女性の一人歩きは感心しないとか言われたので。あ、女性の内に入れられているのかとなんだか妙に感心した。弟子たちには恐らくそういう意味の心配されてないので。




