最後の一片の
「叔父が言うには、なにかおかしいから、気をつけたほうがいい。ということでした」
シディがルイスに声をかけたのは夕食の最中だった。野営して5日が過ぎていたが、特に動きもなく少し緊張がゆるんできているところではあった。
「理由は?」
「勘。だから、大々的には言わない。ただ、前に来た時と違う感じがする。らしいです。
本当は本人が言えればいいんでしょうけど、良くも悪くも叔父は目立ってまして。二人で話をされると中身の憶測が」
「わかってる」
ライオットが現役を退いてもう10年もたつ。彼の現役時代のことはルイスの記憶にほとんどない。そのころにはもう寄宿舎にいて、王都にはほとんど帰ってこなかったから。でも、冷ややかで怖い人、という印象はあった。
若くして騎士となり、第二王子であるアズールの右腕としていた。あの事件さえなければ、今も騎士としてそこにいたであろうと言われている。
近衛騎士にとっては、扱い難い人だ。
親兄弟からあの人はすごいと聞かされていた騎士とそうでない騎士では温度差がある。そして、親兄弟の言うことを信用できないと疑ってかかるものも。
今も強い人である、ということはルイスは疑ってはいない。ただ、師匠に対する態度が気に入らないだけで。
思えば師匠は前々から彼が気に入っていた風ではあった。
お城の厨房の主が面白い人でねと言いだした時に手を打っておけばよかった。ルイスは仕事の話も用語もよくわからなかったから楽しそうだなと思っていたのは、ダメだったのだ。
今更遅いが。
「それから、これ、やる、とかぶっきらぼうに出されまして。
これが最後だって、わかります?」
茶色の紙に包まれたもの。その紙をルイスはよく知っている。店で使っていた包み紙だ。中身は軽い。一つ、二つくらいしか入っていなそうだった。
「礼をいっておいてくれ」
最後の一片をくれたのは、やさしさからではないだろう。それでも食べて、さっさと終わらせて、帰らせろ、だ。
気に入らないが、あの人をちゃんと師匠のところに戻してあげないといけないなと苦笑する。
残りのクッキーを口に放り込む。ちゃんと甘くて、やさしい味だった。




