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とりあえずのパンケーキ

今日2回目の更新です。

 苛ついて山ほど焼き上げてきたパンケーキ。

 それを昼食がわりにお茶を用意して、辛うじて問題がなかったテーブルの一角で事情聴取した。弟子や護衛の人たちは襲撃者の監視やら、周囲の警戒やらで忙しくしている。


「そりゃあ、婚約破棄するわ」


 聖女様から話を聞けば、初手からもう失敗。私も呆れてそういうレベル。


「でしょぉ?」


 山盛りパンケーキを嬉しそうに取り分けながら聖女様は言う。ジャムやクリームなど勢ぞろいのトッピングが豪華だ。

 ちなみにお隣には元になりかけている婚約者の第三王子殿下が肩身狭そうに座っている。自業自得だ。


 聖女様の襲撃事件。

 その発端は先日の婚約の夜会の時に、他国の使者から今後の訪問について聞かれたことのようだ。


 彼女としては、婚約、結婚後も世界を回るつもりだった。聖地を作ろうという話は断って、私がその場にいなければいけないこともあるでしょうと。

 だから、婚約の条件に今後も聖女として世界をめぐることを入れていた。これが出来ないならば、誰とも婚約しないというほど大事な条項。

 思った以上にちゃんと聖女してる。


 ところが、そんな彼女をここに置いておきたい勢がいる。

 旅に出ては怪我や病気をしてしまうかもしれない、体調が心配だという話だった。しかし、彼らが心配したのは彼女の心変わり。ほかの国にとられるんじゃないかって、こと。

 婚約しても、信用はしていなかったと言える。そして、とられるという発想がもう駄目なのだけど、そのあたり無自覚そう。

 聖女という立場ですら、人権ないのかよ、と思わなくもない。

 国家間の取引材料で道具。待遇の良い住処を与えておけば動かないだろうと高をくくって、彼女に同意を得ることなく、夜会で彼女のいないときにこんなことを言ってしまった。


 ここに聖地を作りそこから祈りをささげる。それも彼女の望みだと言って。


 聖女様が聖地を作って出ないという話は各国を回り、一人占めするつもりかと反感を買った。当たり前の話である。

 しかも、聖女様もやはりただの女かと評価が下方修正。積み上げてきた信頼が崩れるのは一瞬である。


 ブチ切れるなというほうが無理筋。

 しかも、その話は脅迫状から知ったらしい。それくらい、彼女には隠蔽していた。

 信用信頼失墜するの当たり前である。


 千年の恋も醒める。


「その婚約破棄は考え直してくれないかな。いろいろ改めるから」


「嫌。

 出直してきて」


「……シオリ殿からとりなしは」


「あら、新装開店費用全額払っていただけるのでしたら考えますわ」


 ふふふ。

 微笑んだら殿下から引きつった笑みを返された。

 今も昔も味方だったことがあると思ってるのだろうか。甘すぎる。殿下とは仕事の付き合いしかない。


「でも、そこから襲撃って手際が良すぎなのは気にかかるところですね」


 殿下はほっといて話を進める。


「前から気に入らないから、攫って行く準備はしていたんじゃないかって気はするの。

 この国は豊かな方だし、これ以上の加護はいらないだろうっていう」


「欲しいもんは奪っていく思想ってどうですかね」


「でも、頂戴って言ってもくれないし、仕方ないから回ってくる順番待ちしようとしてたのに、聖女来ないっていうし。覚悟決めちゃってもおかしくないと思う」


「それはわかりました。

 で、なんで、私が巻き込まれたんです? そもそも、脅迫状なんて周囲に知らせないとダメじゃないですか」


「外出禁止になるし、本当のことなにも知らないままになるでしょ。

 それからシオリはとっても強いってみんな言ってたから大丈夫かなって」


「みんなって誰」


 嫌な予感がする。


「ルイス君他、デルス寄宿舎出身の子」


「ああ、そういえば、兄も弟もそう言ってた」


「……」


 なぜ、知っている。

 私は普通のお菓子屋さんで、武闘派とかじゃないんだ。朝、ちょっと素振りしてたりするくらい。弟子にビビられたことはあるけど、それは私が素振りなんてするなんて思わなかったから。

 そ、そうだよね!?

 ここにいない弟子に問いかけたくなってきた。


「巻き込んだのはごめんなさい。

 色々焦ってたの。わからないことだらけだったから」


「それは反省文で書いてください」


「やっぱり出すの?」


「当たり前です。口先の謝罪なんて残りません。

 あ、殿下も要提出です。反省してください。

 しないなら、ご家族ごと出禁」


「わかった」


 ものすごく嫌そうなわかった、だった。王族出禁するとかすごいな私と思わなくもない。


「まあ、話を戻しましょう。

 今回の襲撃と国境の話は別なんですかね?」


「繋がってはいるけど直接関係はないだろう」


 答えてくれたのは殿下だった。


「回収するために入り込んではいるだろうけど、上手くいかなかったら適当にやって帰っていくはずだ。帰れば定型文の抗議を送っておしまい。建前が嘘であると証明するのは難しい」


「でも、今回は違うようになりますよね?」


「どうしてそう思う?」


「聖女に手出しをしたから。

 それを理由に開戦するでしょう? 制裁は必要です。それも、二度とそんな馬鹿なことを考える国が出ないように。徹底的に、潰す必要がある」


 これは私だけの考えではない。

 弟子たちが青ざめて、私を引っ張って早口で説明したところによる。今回は絶対に、見逃したりなんてしないと。手始めに、入ってきた隣国の兵を殲滅せよと伝令が飛ぶだろう。一人も残すなと。


 そして、そんな話は絶対に聖女様にはしない。適当に濁して、止められないようになってから言うだろうと。

 あなたのためなのだと。


 そして、そのくらいのことを覚悟している隣国というのは厄介だろう。


「襲撃は、なかった。でいいんじゃないかしら」


「そうできます?」


 じっと殿下を二人で見たのは、そうする権力があるのは彼だからだ。

 彼はしばし考えこんでいたが、首を横に振った。


「……反対されると思う。ついでに鬱陶しいから叩いておけ、と言われるだろう。

 それにこの荒れた店内はどうするんだ?」


 襲撃者は5人。そのうち、3人は家のほうにきていた。残り2人は裏口から襲撃していたらしい。おとりとして。厨房のほうに入り込まれ、適度なところで逃げ出そうとして表の店舗のほうに。

 そこで取り押さえられたらしいが、言いわけできないほど荒れている。


「うーん。

 気は進みませんが、あいつを出しましょう」


「あいつ?」


 店の床下にいる人造スライム君。おいしいものを食べさせてあげるから、悪いけど、討伐されてくれ。



 床下からあふれる人造スライムによりローゼンリッターの厨房及び、店内は荒らされた。幸い、当日訪れていた聖女様の護衛のおかげで店外に出ることはなかった。

 しかし荒れた店内はすぐに復元できず、しばしの休店を余儀なくされた。


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