婚約破棄しましょ
「あなたは何を考えているんだ!」
私はその言葉に微笑んだ。
「その言葉、そのまま返すわ。
婚約破棄しましょ」
私はものすごく、怒っている。婚約者となった殿下にも、後ろ盾になった教会にも、この提案をしたやつらにも。
そして、浮かれて何もかもを見逃した自分にも。
「私は、世界を自由に回り、祈りをささげる、これを婚約の条件としました。
一つの国にとどまるのは誰にも良くないから。
ご納得いただけたとおもっていたんですが、間違いでした。
すぐにも誤りは訂正しなければいけません」
他国に通達を出していたのだ。
聖女はこの地から安寧を願うと。
ここに聖地を作りそこに住まう、らしい。
私が知らない間に、決めていた。
そう、最初から彼らはそうだったじゃないか。と思い出す。勝手に、こっちの希望を想像して、それを実行した後に言う。
あなたのためだと。
「国も出ていきます。
まずは、隣国に」
「待ってくれ、そんなつもりはなかった」
「そんなつもりも、なにもないでしょう? 今のこの現状が、すべて」
好きだったから、許せない。
「痴話げんかは他所でしてほしいんですけどぉ」
そんな声が聞こえてきた。冷ややかで、今すぐ出ていけという雰囲気がした。
きっと、彼女とも終わりだろう。巻き込んでしまった。そんなつもりはなかった、というつもりはない。ほかに、甘えてもいいと思えるところがなかった。
「今後の話を、しましょう。
その前に、メイ。あーんして?」
言われた通りに口を開けたら、マカロンを突っ込まれた。
「最新作、アプリコットジャム入り。
さて、殿下はなにを召しあがります? 最後の一つだけは選ばせてあげます」
無表情で問う。ものすっごい、怒ってる。
「うちで勝手したやつは、反省文です。
聖女様も反省文。それまで出禁。
もっとも、うち、しばらく閉店しますけどね」
「なぜ?」
「なぜって? あなた方の護衛が店壊したからでしょうがっ! 弁償しなさいよっ!」
仁王立ちする彼女は、鬼将軍などと呼ばれていた噂通りに怖かった。
「ごめんなさい」
思わず立ち上がって、頭を下げるほどに。
見れば殿下も同じように頭を下げていた。
「家も無くなりましたよ。どうしてくれるんです。
罰として、全容を教えなさい」
ため息をついて彼女はそういうとお茶の準備してくるので逃げないようにと言い捨てて去っていった。
……あれ? そういえば、名前を呼んでくれたような?




