庭木
自宅というのは、誰も住んでいない家に等しい。あるが、帰ることもあまりない。荷物を置くだけの倉庫のようなもの。
家があるなら、帰ってくださいよと言われながらも城の寮に居ついて長い。だから、帰る家というとこっちのほうがしっくりきた。
ただ、今日は帰れそうにない。城の閉門時間を過ぎていた。
宿をとるか、埃っぽい家に帰るか悩むが、家に帰ることにした。どちらにしろ寄るつもりがあったからだ。
それはいいのだが、なにをしていたのかくらいは言われそうだ。いつもは閉門に間に合わないということはないのだから。そう思うと頭が痛い。
正直に答えるわけにはいかないだろう。
未婚女性の家に上がり込んで、寝ていたなんて。それも夜遅くなるまでずっと。
今まで人前であんなに眠っていたことなどない。疲れていたとしても有り得ない失態だ。呆れられたような表情を思い出して、恥ずかしくなる。
夢を見ていたと認識していたあれやこれも実は現実であったのかもしれない、ということを確認する勇気はない。
起きてください、ねぇと優しい声で促されたとか、つい、揺らす手をつい掴んでしまったとか。離しがたかったとか。
思い返すと何かに埋まりたくなってきた。
呆れていたのに食事をごちそうになり、さらに心配させてしまった。軽く、何でもないことのように言ったつもりだったが、何かを察したのかもしれない。
任務については親しい間柄でも言えない。今後もし同じことがあっても、ただの旅行というしかないのだ。
ため息がこぼれた。
考えたところで仕方ないことではある。
そんなことを考えているうちに家の前についていた。
本来は日が落ちる前に家の中を確認するつもりだった。いつもなら月一くらいでは昼間に掃除をしに行っていたのだが、ここ数か月はなにもしていない。
人を雇ってもいいのだが、そこまで手をかける気がしなかった。
住まない家なら売ればいいのだが、売るには惜しい立地なのだ。売った金で同じような家は買えない。今後の稼ぎなどを考えれば、売らないほうがいいが、いやしかしと置いて何年にもなる。
いっそ、貸出しすればいいと思いながらも手続きなどが面倒でやはり変わらなかった。
こじんまりとした家だが、王都にしては珍しく庭付きだ。庭木は剪定がいるなと思い出して、げんなりした。
「……アプリコットがあったな」
前の家の持ち主から切らないでほしいと言われたのでそのままだった。毎年大量の実をつけ、収穫してはジャムやコンポートにしていた。
今年もそろそろ収穫時期になる。
戻ってきたときには遅いだろう。
無駄にしないため。
そういう言いわけをして、鍵を渡してもいいだろうか。家の中も好きに使っていいと伝えて。
本当に言いたいことはそれでではないことに気がつき苦笑した。
ここで、待っててほしい。
そういえたら、良かった。