表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・ライト 双浄の退魔師  作者: 武池 柾斗
第1章 高校入学
7/49

1-6 二人の関係

 翌朝。


 早馬と聖菜はしっかりと朝食をとり、二人で学校に向かった。


 少し早めの登校だったが、学校にはすでに半数ほどの生徒が来ているようだ。新年度の朝らしい、活気に満ちた声があらゆるところから聞こえてくる。


 二人は特に会話も無く、本校舎の中央階段を上る。


 その途中、聖菜が首を傾げた。


「あれ? あたし生徒手帳どうしたっけ?」


「昨日、ポケットに入れてただろ? 入ってねぇのか?」


「うん。たぶん家に帰った後、リュックの中に入れたと思うんだけどなぁ……まあ、いいか。席着いたら確認してみよ」


 聖菜はそう言って、お気楽な調子で階段をゆっくりと上った。


 二階に足を踏み入れ、二人は寄り道することなく一年五組の教室に向かう。


 どういうわけか、教室の前には担任の谷口が立っていた。


 彼は廊下で数人の生徒と談笑していたが、聖菜の姿を見るや否や、谷口は彼女のもとへと駆け寄ってきた。


「いたいた! えーと、月宮聖菜さん、で合ってるよね?」


「え、あ、はい。そうですけど。先生、まだホームルームには早いですよ?」


 聖菜は穏やかな笑みで言う。


 彼女の言葉に、谷口は苦笑いをした。


「まあ確かにそうなんだけど、早めに渡してあげたほうがいいと思ってさ」


 谷口はそう言うと、聖菜に深緑色の手帳を差し出した。


 それを見た瞬間、彼女の目が見開いた。


「先生……これもしかして、あたしの……?」


「うん、そうだよ」


 谷口は爽やかな顔で頷く。


 それとは対照的に、聖菜は顔を引き攣らせた。


「どこで……拾いました……?」


「三階の廊下に落ちてたんだ。昨日、見回りしてた時に見つけてね」


 谷口の返答に、聖菜は冷や汗をかいた。


(やっべ……絶対これ、谷口を助けた時に落としたやつじゃん)


 聖菜は焦る。


 そんな彼女の横で、早馬は小馬鹿にするような笑みを浮かべる。彼はさりげなく右手を頭に添えて、霊力通信をおこなった。


『あれあれ~? リュックに入れたんじゃなかったんですか~? 聖菜さん?』


『うるさい! こんな時にテレパシー使わないで!』


 聖菜は心の中で声を上げるが、それにつられて思わずしかめ面になってしまう。


 谷口は不思議そうに彼女の顔を見る。


「ん? どうした?」


「ああ! いえいえ! なんでもありませんよ、ええ! 二年生の誰かが拾ってくれたのに、また落としちゃったんでしょうかね! 先生も無事でよかったです! とにかく、ありがとうございました!」


 聖菜は早口でまくし立て、谷口の手から生徒手帳を取り上げた。


 彼女は担任に背を向け、大きく息を吐いて苦い顔をする。


「やっちゃったぁ。これ目ぇつけられるやつだ……」


「いや、これくらいで不良認定はされねぇだろ」


 早馬は冷静に突っ込むが、ニヤニヤし続けている。


 聖菜が「先生も無事でよかったです!」などと余計なことまで言ってしまったということを、早馬はわかっている。聖菜は自分の過失に気づいていないようだが、谷口も聞き流しているようなので、特に問題は無い。早馬はあえて指摘せず、この状況を密かに楽しんでいた。


 谷口は少しの間黙っていたが、早馬と聖菜の様子を見て口を開く。


「月宮さんと山坂君ってさ」


 彼は頬を緩ませる。


「もしかして、付き合ってる?」


 その言葉に、早馬と聖菜は急に思考と言葉を失った。


 二人して口を開けて呆然とし、何もかもが止まってしまう。少し遅れて、谷口の言った意味を脳が自動的に理解してくれた。


 早馬と聖菜は怒り顔で後ろに振り返り、谷口を睨みつけながら叫ぶ。


「「付き合ってない!!!!」」


 二人の声が廊下に響いた。


 生徒たちの視線が一斉に二人へと集まり、谷口は愉快そうに笑う。


「あはは、そうか。そうなんだ。あまりにも仲が良さそうだからさ。ごめんごめん。ちなみに、交際自体は校則でも禁止されてないからね。じゃ、先生は職員の朝礼があるからこれで失礼するよ」


 谷口はそう言って歩き出し、早馬と聖菜の横を通り過ぎる。


 そこから数歩進んだところで、谷口は二人に振り返った。


「そうそう、不純異性交遊は校則違反だからね」


 谷口は悪戯な笑みでそう告げて、再び歩き出す。


 遠ざかっていく担任の背中に視線を突き刺しながら、二人はより一層顔を険しくした。


「「誰がこいつなんかと!」」


 早馬と聖菜は互いを指差しながら声を荒げる。


 二人はそこで一度固まった後、顔を合わせた。


「「ふんっ!」」


 早馬と聖菜は互いに顔を背け、口を尖らせて腕組みをする。


 ここで険悪な雰囲気になるのだが、すぐに二人は吹き出してしまい、校舎内は和やかな空気へと戻った。


 こうして、退魔師たちの高校生活が始まったのだった。




第1章完結です。第2章に続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ