第二話 運命はひどく回る
神を信奉するサリデール王国の敬虔な人々に、私の黒い右腕が受け入れられるはずはなかった。
生まれつきの異形の黒い腕を切り落とされなかっただけでも幸いだ。だが、親兄弟、周囲は私を『悪魔の右腕を持った娘』と恐れ、遠ざけた。実際に私の右腕が悪魔のものなのかは分からない、しかし私が幼いころ数少ない両親とのふれあいの際に、自分の右腕は悪魔の右腕なのかと尋ねたとき、怒気をもって答えをはぐらかされた。そのことから、私は自分の常人とは違う右腕が、悪魔のもの、少なくとも人間以外のものなのだろうと知った。両親はもちろん、長兄、長姉、次姉、そして弟は、私とは違っていたって普通の人間だ。
ずっと、私は両親からは放置され、私を憐れんだ老メイドのシェリーの手で育てられた。しかし伯爵令嬢としてふさわしい教養を十二分に得ているか、と問われれば自信はない。できるかぎり本を読み、シェリーの知識の範囲で学んではきたが、おそらく不十分だろう。それを咎めない殿方をさっさと見つけて、このウォーガンド伯爵家を出ていったほうがいい、とシェリーは何度となく私へ言い聞かせたものだ。
だって、私の右腕は、年々異形の度合いを深めていった。別に肥大化や極度に変形しているというわけではないが、やはり普通の服を着ることができない、ということが私を傷つけた。何度か努力はしたのだ。手袋で隠そうとした、袖の長い服で隠そうとした。しかし、ざらざらの皮膚や角のような突起は布を引っ張り、裂き、どうしても出さなくてはならない指先も徐々に爪が筆のように尖ってきたせいで、手袋もできなくなった。年頃の少女の腕だというのに、形も色も悪魔そのものとあって——仕方なく、私はしなやかで頑丈な羊革を重ねた大きめのケープを右肩から大きくかぶり、私は悪魔の右腕を隠していた。
幸いにして、一年前、私が十五になってすぐ、屋敷に資金援助を求めてやってきたティリャード男爵アーリンが偶然私を見初めてくれた。もちろんウォーガンド伯爵家に対して何か下心はあっただろうけど、次第にアーリンと私の仲は深まり、婚約の申し込みもあった。ティリャード男爵として一財産を築くため奔走しているアーリンを、私は支えたいと思った。
そんなささやかな思いさえも、私の運命は嘲笑うかのようにぐるりと回して、回して、不幸へと誘う。