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よくある朝の風景?

 

 麗らかな春の日差しが差し込む中、香ばしい匂いが鼻につき、それがきっかけで目が覚めた。辺りを見渡すと、ベッドの隣に敷いてあった布団は部屋の隅に畳まれていた。


 どうやら安藤さんは既に起きて活動しているよう……んっ!?


「臭っ!? てかめっちゃ焦げ臭いんですけどっ!? 何、この匂いっ!?」


 一瞬、確かに優雅な朝を感じたのだが、このあまりにも香ばしい……、否、完全に炭の匂いが部屋に充満していることに思わず飛び起きた。


 そんな焦げた匂いが漂ってくるキッチンの方に顔を向けると、既に制服に着替えた安藤さんが、悩まし気な顔で真っ黒コゲになった食パンを持っていた。


 遠目から見ただけだが、持たれていたソレはただの四角い炭だった。どうやらトースト時間を間違えたらしい。ていうか何分焼いたらそんな事になるんだ?


「おはようございます、太陽先輩。今から朝ごはん作りますね」


 クールな笑顔を俺に向けながら、炭と化した食パンを三角コーナーに投げつけるように廃棄した。どうやら何もなかった事にするつもりらしい。


「みゆちゃん!? それ、確実に失敗してるよね!? 朝飯なら俺が作るから! ちょっと待ってて、すぐに着替えるから!」


 これ以上、食べ物を無駄にされる訳にはいかないと思い、返事を待たずに部屋の死角で服を着替えた。


 先日の晩御飯の調理といい、とことん料理下手なんだな、安藤さんって……。


 手早く着替えを済まし、パジャマを洗濯かごに投げ入れてキッチンに辿り着いた。ふと三角コーナーを見ると黒焦げになった食パンが合計四枚も廃棄されていた。


 どうやら既に一回失敗しているらしい。どうりで部屋中に焦げた臭いが充満してる訳だわ。


 とりあえず換気扇をフルパワーで稼働させ、手早く食パンをトースターに二枚放り込み、ケトルでお湯を沸かし、インスタントコーヒーの粉を注いだ。


 しばらくすると小気味良いトースターのタイマーの音が鳴り響いたので、焼き上がった食パンを手に取り、マーガリンを塗って皿に置いた。


 出来立てのトーストにとろりと染み込むマーガリンが食欲をそそる。やっぱ出来立てトーストは最高だよな。


 ちなみにバターは高級品だからマーガリンで代用は基本なのである。あんなリッチな物を普段使いは出来ない。


「はい、出来ましたよ。砂糖はスティックがあるのでお好きな本数をどうぞ」


 ケトルからお湯をカップに注ぎ、朝食セットをテーブルへと運んだ。時間にしてものの五分。どうしたらこの簡易作業を二回も失敗出来るのだろうか……。


「流れるような手さばき。素晴らしいですね、感動しました。お料理が出来る男性は素敵です」


 そんなに褒められるような事ではないのですけど……。パン焼いて珈琲を入れただけだよ? 特に調理と呼ばれるような特殊技術なんて微塵も使ってないですから。


「お褒めに預かり光栄です。さ、早く食べないと学校に遅れ……えっ?」


 何気に壁掛け時計に目をやったのだが、一瞬我が目を疑った。朝からバタバタしていたので見逃していたのだけれども、とっくに家を出る時間は過ぎている。つまり……。


「ぐぁぁぁあああっ!? ち、遅刻ぅぅう!? あ、安藤さん!? 悠長に食べてる暇ないですよぉぉぉ!?」


「呼び名はみゆとお伝えした筈ですが」


 昨日はなんだかんだ事件があって寝るのが遅くなったからな……。スマホの目覚ましも無意識にオフってしまってたのか……。


 そんな焦り倒す俺とは対照的に足を折り畳み、背筋をまっすぐ伸ばして優雅に珈琲をすする安藤さん。尚、脇にはスティックシュガーの残骸が三袋もある。


 入れ過ぎじゃないだろうか? しかしただ珈琲を飲んでいるだけなのに絵になりますね。流石は男子校の姫、開闢の始神。


 まあ、今はそれどころじゃないですけどね!?


「はいそうでしたぁ! その沈着冷静さ、見習わして下さいっ! とりあえずパン持ってぇ……すぐに出発しますよぉ!!」


 結果、二人してトーストを口に咥えて家を飛び出た。これが稀によくある光景、朝のトーストダッシュなるものだ。


 ただ、トーストを咥えて併走する、男女の高校生なんてのは聞いた事はないけどね……。


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