達也と荷物とぬいぐるみ
「ほれ、学校の道具に着替え、他なんやかんやと必需品の布団だぞ。ちゃんと枕も持って来てやったからな」
「ありがとうございます、達兄ぃ。私、枕変わると眠れないので助かります」
達也の手によって1DKの部屋に旅行用の特大スーツケース三台に加え、布団が我が家に運び込まれた。一気に部屋が狭くなってしまったのだが?
てかその用意周到な荷物は何処から現れた? そして明らかに前もって準備されてたよね? 安藤さんの家ってここから八時間半のところにあるんですよね?
「おーい、ちょっと待って? 荷物の量なんだけど、ちょっとえぐくない? 人間三人と荷物でもう足の踏み場もないんだけど?」
スーツケースの中からは学校の教科書や道具を始め、普段着や着替えなども大量に出てきた。着替えが必須なのは分かるが、身内以外の男がいるのだから下着類は安易に見せないで欲しい。
とはいえ、なぜわざわざこの狭い部屋に住みたがるのか理解に苦しむが、人が一人増える以上、多少物が増えるのは仕方がない事。俗に言う物理ってやつである。
ただ、その中でどうしてもひとつだけ許せない物があった。
「ところで……その等身大のクッソデカいぬいぐるみは邪魔なので引き取ってもらえませんかね!? 俺よりデケぇんですけど!?」
実はスーツケース三つに加え、ベッドからはみ出る程の大きさのアザラシのぬいぐるみまで運び込まれ。我が家を占拠している。
達也が背負って持ってきたのだが、こんなデカぬいぐるみは見た事が無い。きっと特注品だろう。
「えぇ……。ですがゴンザレスがいないと夜が寂しいのですが……」
「寂しい寂しく無いはとりあえず置いておいて、ネーミングセンスがぶっ飛んでいますね? 女子がぬいぐるみに付ける名前じゃ無い事は確かだよね?」
「えへへ、いい名前だと思いませんか? この子、女の子なんです」
「いやいや褒めてませんよ? あと少し訂正させて下さい。ネーミングセンスがぶっ飛んでるではなく、トチ狂っていると」
どうしたクールビューティJK? 心、病んでる?
「ともかく! 他の生活用品は仕方がないとしても、そのデケぇぬいぐるみだけは引き取ってもらえませんかね!? じゃないと生活がままなりません! てか邪魔です!」
「そ、そんなぁ……。分かりました。厄介になる身で我儘を言ってはいけませんものね。達兄ぃ、マスカレイドを宜しくお願いいたします」
そのアザラシのぬいぐるみ、さっきゴンザレスって呼んでたよね? 名前変わってるじゃん。そしてやっぱり名前変だし……。
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達也はデケぇアザラシのぬいぐるみを再び背負い、挨拶もそこそこに早々に帰っていた。俺の家と達也の家は割かし近所だが、少しの距離とはいえ、あのアザラシのぬいぐるみを背負って普通に外を歩ける勇気を俺は称賛したい。
夕食も遅くなった上、達也と安藤さんと漫才していた為、すっかり夜も更けてしまい、荷物の片付けもそこそこに急いで交代でシャワーを浴びて今日は寝る事にした。尚、安藤さんのシャワータイム中は俺は外に出て待機しておいた。衣擦れの音も水音もシルエットも拝んでいない。
本人はそこまで気を使わなくても大丈夫とのことだったが、こっちがそういう訳にいかないので、断固たる意志を持って決行させていただいた。
そんなJKのシャワーという誘惑を辛うじて振り切ったものの、続いての誘惑が目の前に立ち塞がってる。
パジャマ姿のJKが存在しているのだ。
絶賛布団の準備中であり、ふくよかなお尻がこちらを向いており、薄手の生地のおかげでパンツラインが見えてしまっている。
……縞パンですか。ってどこを見てるんだ俺は。これじゃあただのエロガキじゃねえか……。エロガキだけどさ。
「あ、あの……一応確認なのですが、いつまでここで暮らすつもりですか?」
なんとか煩悩を振り払う為、至極真っ当な質問をしてみた。そうでもしないと理性を保っていられる自信が無い。何、この地獄……。これから毎日こんな感じなのか……。
「はい? そうですねぇ……。学校の近くで良い物件を見つけれるまで、となりますかね。ただ日中は学校がある上、今後は私も家事全般を手伝う事になりますので、物件探しはなかなかなに難しいかと思われます」
そう……かな? 全然学校帰りに不動産屋にでも寄っていただければと思うのですが……。家事は俺が今まで通りこなしておきますよ?
「じゃあ週末に不動産屋巡りをする感じで……?」
「いえ。週末はその週に学んだ勉強の復習がありますので。勉学は学生の本分ですから」
ごもっともなご意見ですが、じゃあいつ物件探すのさ……。