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押しかけJK


 安藤さんによる謎のボディタッチ、いやむしろ攻撃と周囲の毒々しい視線を一身に受けながらも、なんとか校門に向かって歩みを進め、校舎を出る事に成功した。

 流石に校舎から出ればファンクラブの皆様はパタリといなくなる。どうやらプライベートにおけるストーカー行為は厳しく禁止されているようだ。


 今日も一日、無傷で校舎を出られたことに感謝だ……。神様、ありがとう……。


「あ、そうそう、今日は太陽に言っておかなきゃならん事があるんだ」


「なんだよ、急に……。それよりも早くお前の従妹の挙動を注意してくれよ、お願いだからさぁ。それにさっきから地味に痛いし……」


「私と達兄ぃが従妹なのは間違いありませんのでそこは認めますが、いい加減ちゃんとみゆと名前で呼んで下さい。みゆです、みゆ。難しくも何ともないですよね? ひらがなで二文字ですよ?」


 どうやら名前で呼ばれない事が不服で俺の背中に八つ当たりしているらしい。そしてその手は一向に止める気配はない。まるでキツツキのように何度もブスブスと刺してくる。


 ちなみにキツツキの木を突つくあの習性も、あのドラミングと同じらしいですよ? ウホ。 


 さて、話を戻しましょうか。辛うじて自己申告によりご不満の原因は分かりましたが、残念ながらそのご期待に応える訳にはいきません。


 男子校の姫に名前呼びなんて出来る筈が無いですよね? 貴女相手にそんなチャラ男感を出そうものなら、マジでその日の内に俺、〆られちゃいます。


 ここ、ご存じの通りほぼ男子校で血の気の多い童貞の集団なんですよ? 俺をそんなに亡き者にしたいのですか? 前世で何か深い罪でも犯してしまったのでしょうか?

 

「太陽ってさ、一人暮らししてるじゃんか? 悪いけどさ、みゆをお前んちで預かってくんないか? この高校までの通学時間が馬鹿にならないらしく、学校の近くに住みたいんだってさ」


「不束者ですがよろしくお願いいたします」


「ふ~ん、それは大変……はぁぁぁぁっ!? おまっ!? 何言ってんだよ!? なんで俺ん家なんだよ!? てめえの親族だろ!? てめえん家で引き取れよっ!? てか安藤さん、俺まだ了承してないから!」


 未だしつこく俺の背中の経絡秘孔を打ち抜こうと模索している安藤さんを気にしていたら、隣と背後からとんでもない内容をぶち込まれた。


 どうしてJKの従妹を押し付けるの? しかもこの学校の唯一の女子生徒、ましてやそこらの神を越えてる始神だぞ!?


 そんなお方を俺ん家で預かるなんて出来る訳ないだろう……。もはや名前呼び以前のハードルの高さだぞ? バーが目視出来ねえよ。


「不服……のようですね。それでは和宮先輩は私にこれからローカル線を乗り継ぎ、環状線に乗り換え、快速に乗って新幹線を経由した後、バスに揺られて山越え谷越え、海を泳いで自転車に乗って、最後はランで家に帰れとおっしゃるのですか? 酷いです、あんまりです。そんなの過酷な通学、三年間無理です」


「そりゃあ確実に無理でしょうねぇ!? 一体何処から通ってるのか、ものすんごく興味ありますけど、あえてそこは聞かないでおきますね!? てか最後、トライアスロンもしてるよねぇ!? 今まで入学して何日間かはそうやって通学してたの!? 安藤さんって体力お化けですか!?」


 安藤さんの方に振り返り、全身全霊のツッコみをぶっ放した。おかげで経絡秘孔を突く動作は止まってくれた。


 ただ、ほぼ怒鳴るに近い勢いで言葉を発してしまった。天地開闢の始神に対して大変罰当たりな行為だが、我慢出来なかったのだ。


 後悔はしていない。俺だって言う時は言うのだ。


「そ、そんなに怒らなくても……わ、私、私……」


 はい、秒で後悔しましたぁ~。


 安藤さんはなよなよと足を崩し、地面に座り込んでしまった。天に唾を吐くとこうなるのか……。全て不幸になって返ってきやがる……。


 てか感慨にふけっている場合では無い! なんとか、なんとかせねば……うん、なんか彼女、目が潤み出しているですけどぉぉ!? 泣きかけてます!?


 待って!? そうですね、今のは俺が悪かったです! 勢いできつく言い過ぎました! 


「大丈夫か? そうだよな、辛いよな。頭ごなしのいきなりの否定だもんな……」


 その場に座り込む安藤さんの横に腰を落として肩に手を置き、同じく悲しい眼をしてこちらを見ながら慰める達也。


 従妹同士でより一層の悲壮感を出され、更に深まる俺の罪悪感……。なんの茶番だ? これ……。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 自宅からの通学時間が長くかかるのは俺も同じ境遇だし、気持ちは分かるのだけれども、達也の家も学校の近所だよな!? 身内ならそちらに泊まるのが、誰に聞いても正解だと思うのだが!?」


「すまん。俺の家はペットを飼う事すら禁止なんだ。だから親戚も受け入れる事が出来ないんだ。無念だ……」


「何が『無念だ……』だ! どういう理屈だよ、それぇ!? 人とペットを混同しちゃダメだろう!? しかも我がの親戚だぞ!? それに達也の家って何度もお邪魔してるけども、クッソデカい家だったけどな!? 執事さんとか居たぐらいだし、絶対に部屋だって余ってるよな!?」


 達也の実家はこの辺りの大地主らしく、超が付くほどのお金持ちだ。初めて家に行った時はあまりの家のデカさに半笑いになって一歩引いたぐらいだ。


「いいよ、達兄ぃ……私、頑張って通学するから。片道八時間半かけて」


「そんなに時間かかるんだぁ!? 移動だけで一日終わっちゃうよね!!」


 ……あれ? ちょっと待って? ということは往復で十七時間かかるの? なら学校で過ごす時間は自ずと七時間になるから……あれちょっと学校に居る時間足りなくない? てか不眠不休?


 仮に八時に登校して十六時に下校すると考えると、学校に滞在する時間は八時間になる訳で……あれ? やっぱり一時間程つじつまが合わないような。


 なによりちょいちょい達也の家に居た過去も知ってるから、実家はそれほど遠い場所にあるとは思えないのですが……。


「はい、そこ。計算するんじゃない。それより可哀そうだろ? そう思うよな? はい、じゃあそう言う訳でみゆの事、よろしくな」


「達也のその一気に畳みこむ姿勢、嫌いじゃない。けれども少し物申してよろしいでしょうかね? この際、通学時間の真偽は一旦置いておくとして、まずはですね、仮に、仮にですよ? 通学にそれほどの距離と時間を費やしているのなら、相当な金額が必要になりますよね? それだけのお金をかけるなら、十分学校の近くのアパートか何かを借りれるんじゃないかな~って……」


 先程半泣きにしてしまった安藤さんをこれ以上刺激しないように、下手に出てお話してみた。


「そう言われればそうですね……。確かに通学費を住居費に割り振れば、一人暮らしが出来るかも知れません」


 俺の丁寧な言葉選びが功を奏したのか、目の端を拭いながらも冷静に言葉を返してくれた。


 やっと理解してくれたようだ……。でもここまで言わないと分からない問題だったかな? 普通じゃないね、安藤さんは。


「はい、学生向けのセキュリティーがしっかりしたアパートもありますし、是非ともそちらの方向で検討してみて下さい。家具やなんかを一から揃えていくのも結構楽しいものですよ?」


 誰が聞いても間違いのない質疑応答、それに笑顔で頷く美少女。少々話がこじれてしまったが、これで万事解決——


「大変魅力的なご提案です……しかしお断りします。ここは是が非でもノーを突き付けさせてもらいます」


 出来なかった。その雄々しい表情と共に立ち上がった姿勢には、先程の泣きっ面の面影は一切無く、まさに威風堂々としたものだった。


 まるで背景に『ゴゴゴッ……』という文字が吹き出てきそうな程に雄々しい。筋肉質ではないけど胸は大きく柔らかそう——ゲフンゲフン。


 でもどうして断るんですかねえ? ねえ、どうしてぇ? 飲んで下さいよぉ。適当に学校の近くを選んで住めばいいじゃないですかぁ……。


「そもそも本日申し込みをしても、本日中に住む事は不可能です。そして実は電車の定期も本日で切れてしまいます……。どうやら私は家に帰る事が出来ず、野宿せざるを得ないようですね。春の夜露はさそかし身に染みるでしょうね……」


「すまない、みゆ。俺の家がペット禁止じゃなかったらこんな事には……」


「ううん、達兄ぃは悪くないです。悪いのは私を縛る運命ですから……。あとちょっとは和宮先輩のせいですね。七割、いえ八割ぐらいはもっていってます」


 そうだね、春の夜は寒いよねぇ~。流石に風邪ひいちゃうかな? でも最悪ホテルとかを利用……とか言っても聞いてくれないでしょうね。


 あと、定期は夕方には切れないと思うよ? 多分今日の23時59分59秒で期限切れになると思うので、今日はギリ帰れるのでは? 

 

 しかし確かにアパートなりを借りるにしても、いきなりはおっしゃる通り難しい。ある程度の準備期間は必要だろうけどさ……。でもそういうのは入学する前にしておくものではないでしょうか?


 そしてかなりの責任が俺に押し付けられているんだけど? 

 

 それとこの際だからもうひとつツッコんでおくけど、まずペットの件ね? 達也の家ってさ、シベリアンハスキー二匹いたよね? あの超恰好良いイッヌ様、確実にペット枠だよね?


 でもこの流れで反論してもきっと『あいつらはペットじゃない。家族だ』とか言われるに違いない。


 つまり、何を言ってもダメなのだろう。従妹がペット以下の扱いってどうなのよ……。イッヌ様同様に家族にしてやるべきだろ。 


 ちなみに俺、あの二匹にやたらと懐かれてるんだよなぁ。毎回家に行く度に過剰に懐かれて顔面をベッロベロに舐められるんだけど? 体格はとても立派なのだが性格が番犬向きじゃないんじゃね?


「はぁ……もういいや……。分かりました、俺の家で良かったらどうぞご自由に使って下さい……」


「ありがとうございます。流石は和宮先輩ですね。諦めが鮮やかです」


 麗らかな春、意味も分からず強引に後輩と同居生活をさせられる事になった……。ところで諦めが鮮やかって、それ、褒めてるの? 貶してるの?


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