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物件探し


「早く新しい物件を見つけましょう!!」


 ある晩、俺は声高に叫んだ。自分で思った以上の音量が出てちょっとびっくりした。近所迷惑になったかもしれない。壁ドンが来ない事を祈りたい。


「私の方も日々検索しておりますが、未だに条件に合う物件は出てきておりません。快適な通学を保証する為の住まい、こればかりはいくら太陽先輩のお願いでも妥協する訳にはいきません」


 熱くたぎる思いを込めたこちらからの提案にも安藤さんも一歩も引いてくれない。安藤さんの物件探しは常々、口にしている事ではあるのだが、今日という今日は俺も腹をくくって物申そうと思う。


 なぜならこのところ、安藤さんの誘惑が度を過ぎて酷いのだ。


 この前だってオムライスにケチャップで好きって書いたりするし、あのデケぇアザラシのぬいぐるみがいないので寂しいとか言って俺のベッドに潜り込もうとしてきたりと、精神衛生上、童貞ハートには非常に毒となっている。


 安藤さんは非常に魅力的な女性なのだが、いかんせん親友の従妹だし、なにより男子校の姫でもある。

 有象無象の俺が手を出すなんてことは、八百万の神々にソロで反逆するに等しい行為であり、大変恐れ多いものとなっている。一緒に住んでる時点でもう手遅れかも知れないが……。しかしだからこそ、一刻も早く新しい物件を見つけて引っ越してもらわないと困るのだ。


「しかしこちらとしても驚いています。思ったよりも粘ることに。すぐに片が付くと思ったのですが……」


「最近の女の子は怖い事をサラっと言うんだね?」


 恐ろしい話である、これが肉食系女子と呼ばれる存在か。


「なにはともあれ、もっと意欲的に物件を探しましょう! 待つだけではダメです!」


「分かりました、私としてもずっと太陽先輩にご迷惑をおかけする訳にもいきません。探しましょう、物件を」


 やっと前向きになってくれたか……。ずっとこのままここに居座られると、俺も理性を保つのが難しくなってくる。まだ俺の正気が保てていれる間になんとかしなくてはならない。


「ではこちらへ……」


 いそいそと準備した布団の上に寝転がり、ぽんぽんと空いたスペースの布団を叩く安藤さん。まるでこちらに来いと誘われているようなのですが?


「早くして下さい、時間がもったいないですよ? それとももう消灯しますか?」


 ん? それってもしかして……? まさか女の子の布団で一緒に寝そべりながらスマホをポチる気なの? その距離感って彼女じゃん。ただのリア充じゃん。


「いや、流石にそれは……」


「じゃあ消灯します。おやすみなさいっ」


「ちょっと怒ってる!? 分かりました! 分かりましたよぉ……失礼しますぅ……」


 なにやら機嫌が悪くなって、冷たい目をし出したので渋々安藤さんの布団に寝転がった。ふんわり柔らかい感触と共に鼻孔をくすぐる優しい香りがした。


 いい匂い……。安藤さんの匂いだ……はっ!? 俺は一体何をしてるんだ!? こんなのただの変態じゃないか!! 


「……今、匂いを嗅ぎました?」


 バレてるぅぅ!! くんかくんかしたのぉぉ!! 恥ずかしい!! 死にたいっ! 


「み、みゆちゃん? は、早く物件を探しましょ? 今日は良い物件が見つかりそうな気がします!」


「どんな匂いがしました?」


「えっと、駅近でコンビニ近くだったよね!?」


「どんな匂いがしました?」


「……とっても優しい良い香りがしましたぁ……」


 粘着されてしまい、遂にはゲロってしまった。ご本人、かなりご満悦な様子である。俺は恥ずかしくて死にたいまであるけどね?


 しかしもう過ぎ去った事を気にするのはやめよう。


 気を取り直してスマホに視線を移した。途端、肩と肩が触れ合った。いや、これは仕方がない。スマホを二人で見ているのだ、自然と寄り添うのは仕方のないことだ。


「それではいろいろ検索していくとしましょうか」


「そ、そうですね……」


 軽快にスマホをポチポチし出す安藤さん、その微振動につられてお胸が……。おっと、エロい視線で見るのはここまでだ。こんなところでおっきさせる訳にいかない。


「やはりマンションが無難でしょうか」


 そんな煩悩にまみれている俺とは対称的に、いつになく真剣に物件を探す安藤さん。

 

 ……一体俺は何をしているんだ。さっきから一人で浮かれて煩悩を丸出しにして。今は彼女の力になるべきじゃないのか!? 本人もやっと重い腰を上げてくれた訳だし、浮かれている場合では無い!


「そうですね、少し値は張りますが、マンションならセキュリティーもしっかりしてそうですし、良いのではないでしょうか」


 ここは俺もしっかりと協力し、真剣に物件を選んであげねば!


「あ、ここなんていいかもしれません」


 キター!! 早めにお気に入りの物件見つけたぁぁ!! 過去に類を見ないナイス進捗です!


「ど、どこですか!?」


「ここですね、3LDKの新築マンションです。お値段2980万円~となっています」


「分譲かい」


 思わず素でツッコんだ。俺達高校生だからね? この家もほぼ仕送りで家賃払ってるから。俺のバイト代なんて雀の涙ですよ?

 

 そもそも高校生じゃローンが通りません。


「流石に分譲は手が出ないので賃貸で探しませんか? しかも一人暮らしに3LDKは広過ぎますから……」


「私は将来も見据えています。少なくとも子供は二人は欲しいです。一姫二太郎が理想ですが、子宝に恵まれるならば贅沢は言いません。なんならもっと沢山でも……三人、四人ぐらいでもいいですよ? そうなったったら皆で川の字になって寝ましょう」


「話が人生設計に突飛してませんか? 賃貸で通学に便利な家を探す件はどこ行ったのでしょうか?」


 結局しばらくの間、確実に手が届かない物件を見ては俺がツッコミ、彼女がボケるを繰り返した。まるで結婚前のカップルかのように……。結局その日は何の収穫も無く、時間だけが過ぎてしまった。


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