31三つ巴
♪前回までのあらすじ♪
シアVSソルの戦いはソルの勝利に終わる。
ただシアは無残に負けたのではなく、アイゼンに希望を託していた。
ソルの訪れはシアの敗北を意味していた。
時間稼ぎはできた方だろう。作戦は立て終わっている。アイゼンはシアへの感傷を封じ、土地勘を頼りに走り出した。
「おいおい今度は追いかけっこかァ? 仲間が倒れたっつーのに薄情だなァ?」
鷹揚と歩き出したソルは弱者をいたぶる強者そのもの。
追いつかれたらただではすまないと恐れるからこそ、アイゼンはわき目もふらず走らねばならなかった。小柄さをいかして倒木の間に滑り込み、ソルならば粉砕するであろう障害物を柔軟さでくぐりぬけた。
振り返る余裕はなく、どこまで追いつかれたのかわからない。心菜もソルとの距離を冷静に分析しているだけで、必要以上に恐怖を煽らないようアイゼンには一言も伝えなかった。
「よーし、つかまえた」
捕獲宣言が背後から聞こえても、立ち止まる選択肢はない。
ソルの太い腕がアイゼンを捕まえようと伸ばされる。
直進を走るアイゼンは左右にそれるべきか一瞬迷ったが、己の直感を信じて一直線に駆け続けた。
「アイゼンッ!」
一陣の風がアイゼンの背後を通り抜けた。
遠くから聞こえたので、背中にくっつく心菜の声ではない。猛追するソルのものでもなく、愛しい姉でもなく、消去法でトールだと導かれる。
上がった呼吸を整えようと、アイゼンは深呼吸を繰り返しながらソルとトールの顔を見比べた。名前は似ているとはいえ、振る舞いは全く違う。他に似ているところがあるとすれば、街の人々にはあって当然のものが、この二人には欠けていた。
「邪魔すんなよトール」
「ガキをいたぶって黙ってられるか」
「相変わらず人間好きだなあ、チビ。もろくてやわいクズなんて殺してなんぼだろ? どうせ精霊の力で生き返っし、最悪死んでも転生してくるだけだ。手前だってそのナリになってからも殺してんだろ?」
「……話しても無駄か。アイゼン、遠くへ逃げろ。わかったな」
トールに指示され、アイゼンは再び走り出した。
トールはランゼンとの戦闘中にシアの敗北を悟り、アイゼンの支援にまわろうと森の中を荒らし回っていた。大鎌をひと振りすれば簡単に木々はなぎ倒され、岩は砕かれた。足場にだけ注意すれば、猪突猛進はソルだけの十八番ではない。
トールの大鎌とソルの籠手が鍔迫り合いする。
両者にらみあう中、突如草木が燃え始めて道が開けた。赤属性広域魔法に巻き込まれないよう二人は一度後退する。
「…………ソル。邪魔するならば容赦はせんと言ったはずだ」
燃え盛る赤い絨毯の上をランゼンが堂々と歩いていた。一振りの剣を携えて、悠々と登場した彼女は忠告とともにソルへ剣先を向けた。
赤属性はわずかな火気で力を増す。炎が属性間の均衡を崩し、属性共鳴率を上げながら周囲から大量の力を得ていた。焼け野原になるのは時間の問題かもしれない。たとえ焦土と化そうと、ランゼンの意志は止められない。
こうして一対一の戦いは三つ巴へ移行すると思われた。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
思いもよらない手助けにより、アイゼンは無事に森を抜けて荒野にたどり着いた。嬉しさの余り、その場で大の字になって空を仰いだ。
『力が三つ、ぶつかり始めた。いつ誰が転がりこんできてもおかしくはないよ』
「うん」
『何もないからこそ、実力勝負の世界になる。ボクらは逃げも隠れもできない。唯一話が通じそうなトールもお荷物背負っての戦いは厳しいだろうね』
一度休憩をはさんでしまうと立ち上がれなくなってしまいそうだ。
暗い森から出たばかりなので、まぶしさのあまり手で太陽を隠した。
『緊張してる?』
「うん」
『あくまでも作戦通りに。防御はボクが担当するから、どかんと一発決めちゃって』
「……どうしたらそんなに前向きでいられる?」
心菜はこれまで何度もアイゼンを励ましてきた。一度撤退して体勢を立て直すべきときは逃げなさいと言った。どうにかなりそうなときは、尻込みしているアイゼンを叩いて励ました。たくさん出たほこりもせっせと回収してくれた。
『ボクのかわりに後ろを見てくれる人がいるからかな』
心菜の声は思い出に浸っているのか柔らかい。その中にアイゼンも含まれているだろうが、経験則であればアイゼン一人では足らないだろう。
「昔にもいた?」
『いたよ。なんたってボクの方がずーっとおにいさんだからね。たくさんの人に会ってきたよ。身を粉にして働く苦労人、面倒事は配下に押しつける雇い主、せっかく二人っきりになったのに告白できない意気地なし。結局最期は結ばれたのかな…………。
暗くなっちゃうから、これはここまで。うんうん』
「ねぇ、シャロンとイェスタは知ってる?」
『…………』
「二回動いた。石碑を見たとき。ランゼンの過去世の名前を聞いたとき」
『…………』
「沈黙が答え?」
『ボクも修行不足かあ。はい、そうです知ってます。隠そうとしてごめんなさい』
後味悪いよ? と前置きして、心菜は過去を語り出した。
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