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11ヴィアカ王国の歴史

♪前回までのあらすじ♪

アイゼンはムインに案内されて、資料館にやってくる。

ムインの代わりにロー老師に案内されて、

ヴィアカの歴史に触れていく。

 光を通さない、重い扉をロー老師が開いた。


 古びた文書に色あせた絵画。廊下と同様、展示物はショーケースで保管されている。壁一面には本が並べられ、これまであまり本に触れてこなかったアイゼンには衝撃であった。


「いかがですか。気に入りましたか?」


 老師に尋ねられ、アイゼンは頷いた。この資料室にはアイゼンの知らなかったものがあり、語りつないだ知識と相違ないか確認せずにはいられない。

 ただ量が多いせいで、まず何をすればいいのかわからなくなってしまった。

 何かないか資料室を一周してみたところ、壁にかけられた絵画に足を止めた。


 絵画には白い子供と黒い子供が描かれていた。背丈はほぼ同じで、髪の長さは二人とも肩に届くくらいだ。身にまとう衣類は簡素なもので、一張羅を用意してきたというよりは街中で遊んでいたときに引っ張られてきたような格好だ。表情は固く、感情を読みとれない。

 この二人がなぜ飾られているのか、アイゼンは思わず顔を近付けていた。


「その絵には初代陽と陰が描かれています」


 初代陽と陰。初めて耳にした単語を頭で何度も繰り返しながらアイゼンは絵画を見つめた。熱心に見つめるあまり、背中に隠した心菜こころなの震えには気付かなかった。


「陽と陰という役職をもうけたのは、今からおよそ千年前、ヴィアカ王国の最盛期と言われています。初代陽ファークと初代陰グランドールは戦績を高く評価され、報償としてくらいを与えられたそうです。詳しい年齢はどの文献にも残っておりませんが、この絵に描かれた二人は今のあなたと同じくらいの年齢に見えますね」


 意味深な視線を向けられ、アイゼンは顔をそむけた。


「いえ、あなたと比較しているわけではありません。歴史を風化させたくないあまり、嫌な言い方をしてしまいましたね。もしも興味がおありなら、こちらをご覧ください」


 老師は本棚から二冊の本を取り出し、アイゼンに手渡した。表題は『初代陽・陰から始まる歴史』と『う゛ぃあかおうこく』であり、前者は玄人向けで後者は児童向けの絵本であった。


「申し訳ございませんが、わたくしはしばらく席をはずしますので、お帰りの際は入口付近のベルを鳴らして呼んでください。玄関までご案内いたします」




 老師が一礼して去ってから、アイゼンは黙っている心菜に話しかける。


「心菜出てきて」

『はいよー』


 軽快な一声とともに、心菜が震え始めた。


『話はじっくりねっとり聞かせてもらったよ。アイゼンはヴィアカ王国に興味があるの? もう滅びた国なのに?』

「うん、興味ある。里にいっぱい残ってた」

『そりゃねえ……あそこに王国があったわけだし。よく今でも人が住んでるんだなあって何度も思うよ。せた土地じゃ植物も満足に育たない。狩りをするにも遠くまで行かなきゃならない。ボクはそんな街に住みたくないなあ』

「心菜は物知り」

『長く生きてるからね。静かな森の中でのんびりするのが好きだなあ。気付いたら何十年何百年経っててもいいよ』


 迂闊うかつに話題を提供すると、一を聞くつもりが十も返ってくるため、アイゼンはテーブルに本を置き、椅子に座って『う゛ぃあかおうこく』を読み始めた。


 ――いくつもの勢力が争い、命をけずり、やがて二つの大きな勢力が残りました。

 決戦の後、勝利したヴィアカの民が建国し、旗印であった者を国王と崇め、国は一つになりました。


 ――ヴィアカ王国最後の女王、クラウン・ドロウ・ヴィアカは国を善く治めていましたが、ある日運命の存在に出会います。

 その存在を手に入れるために女王はことわりをねじ曲げました。国は大きく傾きました。内乱により多くの者が命を落としました。

 すべての戦いが終わった後、王国のあった地は草一本も生えぬ不毛の土地になってしまいました。


 絵本の最後には草木のない荒れた大地が描かれていた。その情景は故郷にそっくりで、アイゼンの胸が詰まった。


 ――人も住めなくなった地をクラウンの妹、スリーグト・ドロウ・ヴィアカが一生をかけていやし、現在いまのヴィアカ王国跡地になりました。


『戦いをさらっと書いているね。実際はかなり血みどろだったのに。地面に死体がごろごろ転がってたし、女王も返り血で真っ赤だったよ』

「児童向けとは一体……」


 概念に突っ込みそうになり、アイゼンはしぶしぶ本を閉じた。

 それから心菜をっていた紐に指をかけて、揺らしてみた。


『こら、ボクをぶらんぶらんするんじゃありません』

「どこに目があるのかなと思って」

『アイゼンがいじめっ子になって、ボク悲しいよ……まあ涙は出ないけどさ』


 剣からすすり泣く声が聞こえたと思えば、けろっと泣きやんでいる。

 心菜の急な変化にアイゼンはついていけず、いちいち反応するのも疲れてきて、本をもう一度読み返した。


『もうっ、黙り込まないでよ、寂しいよ。絵本の次はこの町と周辺地図の確認かな。ボクは口を挟めても、手は挟めないからきりきり働くんだよ。あと目は動くから、ボクに見やすいようにしてよね』


 注文の多い心菜に、アイゼンはため息一つこぼしながら本棚に目を滑らせる。地図だとわかりやすい資料が見つからないため、根気よく本や紙束の中身を斜め読みしていく。

 一人と一本で読了した資料が机に山積みにされていく。空腹で集中が切れたころにはすでに十は超えていた。

 まだ明日もあるからと読み終えた資料を片付け、入り口のベルを鳴らしたら建物が揺れた。




お読みくださり、ありがとうございます。

横文字たくさん出てきましたね。

またどこかで出てくるので、覚えなくても大丈夫です。

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