第二十一話:封印決戦
俺とイリスが向かい合い、新たな魔術を展開しようとしたそのとき――後方から、ステラとルーンが飛び出してきた。
「アルト、お疲れ様! そろそろ『次の段階』よ!」
「アルトさん、スイッチです……!」
「あぁ、わかった。――オルグ、二人のサポートを頼む」
「ヨカロウ」
俺は大きく後ろへ跳び下がり、自分の持ち場へ移動する。
(……よしよし、今のところは順調だな)
ディバラさんたち約五十人が担当する四本の魔力柱は、かなりいい具合に補強が進んでいる。
氷極殿に乗り込む前――俺たちは最長老様の家に集まり、『三段階の作戦』を話し合った。
第一段階。
俺が神代の魔女を足止めし、ステラ・ルーン・ディバラさんたちは魔力柱の補強に集中。
第二段階。
魔力柱の補強がいい具合に進んできたところで、俺とステラ・ルーンがスイッチ。
二人がイリスの足止めをしている間、俺は一人で魔力柱を補強。
最終段階。
全魔力柱の補強が完了したところで、ディバラさんが合図。
五本の魔力柱を一つに束ね、天領芒星を完成させる。
(今のところ、第一段階は完璧……!)
ここから先は、第二段階へ移行だ。
「小僧、どこへ行くつもりだ? 戦いはまだ終わっておらぬぞ……!」
イリスが右手を伸ばし、極寒の吹雪を差し向けてくる。
しかし、
「魔炎光刃!」
「天廷炎螺!」
「煉獄無常!」
ステラ・ルーン・オルグの三人が、それぞれの魔術を展開し――猛吹雪を掻き消した。
「神代の魔女イリス。あなたの相手は、私たちよ!」
「アルトさんに、手は出させません……!」
「ソノ程度デハ、アルトニ届カヌゾ!」
頼りになる仲間たちに戦場を預け、俺は自分の仕事に集中する。
(これが大魔王の封印術式か……)
眼前に立ち昇るのは、妖しい光を放つ魔力柱。
(……凄いな)
千年以上もの間、神代の魔女を封じ込め続けた封印。
とても高度な術式だと聞いていたけど、まさかここまで複雑なものだとは……正直、驚きだ。
(大魔王は完全体のイリスと戦いながら、こんなに難しい封印術式を構築したのか……)
それはまさに『神業』と呼ぶにふさわしい所業だ。
(っと、早いところ、自分の仕事を終わらせてしまわないとな)
俺は静かに意識を集中させ、魔力柱を補強していく。
(……いや、けっこう魔力を持って行かれるな……っ)
ディバラさんの話によると……本来この作業は高位の魔術師十人以上が、お互いに魔力を融通し合って実行するものらしい。
深刻な人手不足とはいえ、これを一人でやるというのは……正直、けっこうキツイ。
「――あ゛ぁ~、鬱陶しいのぅ!」
見るからに苛立った様子のイリスは、パシンと両手を打ち鳴らし、超高密度の魔力を放出。
それはもはや『魔術』と呼べるような代物じゃない。
基礎スペックにモノを言わせた、暴力的な魔力の発散。
単純明快、それゆえ強力。
「~~っ」
「きゃぁ!?」
「ヌゥ……ッ」
強烈な爆風に押され、ステラたちは四方へ飛ばされてしまう。
「(そろそろ魔力柱を削っておかねば、せっかく崩した封印が再構築されてしまうのぅ……)まずはくだらぬ羽虫どもから潰してくれようか。血氷術・零の吐息」
イリスは攻撃対象をディバラさんたちへ変更。
雪や氷さえも凍結させる、絶対零度の風が吹き荒ぶ。
「しまった……!?」
「みなさん、逃げてください……!」
「小癪ナ……ッ」
魔力柱の補強に全神経を注ぐディバラさんたちは、持ち場から離れることも、迎撃のための魔術を展開することもできない。
「「「……ッ」」」
彼らの表情が絶望に染まる中、
「――悪いけど、そうはさせないよ」
伝承召喚・北陽を展開。
暖かな天日をもって、極寒の冷風を溶かしていく。
「小僧、貴様……っ」
忌々しげにこちらを睨み付けるイリス。
「あ、アルト……!」
「アルトさん、助かりましたぁ……っ」
「『仕事』トヤラハ、モウヨイノカ?」
「あぁ。みんなのおかげで、なんとか無事に終わったよ」
俺の担当する魔力柱は、既に補強完了。
後は、ディバラさんたちを待つだけだ。
「さて、と……。それじゃ力を合わせて、神代の魔女を抑えようか」
「……ッ」
それから先、俺・ステラ・ルーンは、冒険者学院時代に磨いた連携を駆使して、大暴れするイリスを完全に封殺する。
「偶像召喚・鉄血神アステラ」
「聖女の福音・讃美歌」
「魔炎激衝……!」
「ぐ……っ(マズい。マズいマズいマズい……っ。小娘二人ならまだしも……今の儂の力では、アルトには勝てぬ……ッ。くそ! ラココのような烏合が、どうやってこんな化物を見つけてきたのだ……!?)」
そうして彼女の動きを抑えていると――残り四本の魔力柱が、ほとんど同時に完成した。
「はぁはぁ、少し待たせた……ッ。それではこれより、仕上げに移る……!」
ディバラさんが大声を張り上げ、いよいよ最終段階へ突入。
五芒星の五角に立ち昇る魔力柱、これらを全て中心へ――イリスの囚われた結晶のもとへ結集し、神代の魔女を完全に封印するのだ。
俺はすぐに自分の担当する魔力柱を操作し、他の四本と重ね合わせていく。
天領芒星を完成させるには、全ての魔力柱の『出力』と『波長』を完璧に合わせる必要があるのだが……。
(こ、これ……めちゃくちゃ難しいな……ッ)
ラココ族のみなさんの魔力には、祖霊のものが入り交じっているため、非常に合わせづらかった。
(ふぅー……っ)
小さく息を吐き出し、全神経を魔力コントロールに集中する。
五つの魔力柱は徐々に融和していき、床に刻まれた五芒星の術式が、淡い光を放ち始めた次の瞬間――凄まじい勢いで、大地が揺れ始めた。
「な、何よこれ……地震!?」
「か、かなり大きいですよ!?」
ステラたちは思わず身を固め、魔力柱の融合が中断されてしまう。
「――『上』だ!」
俺が警告を発した刹那――氷極殿の天蓋が弾け飛び、途轍もない衝撃波が吹き荒れた。
(この出力は……マズい……ッ)
全速力で『転』の手印を結ぶ。
「――現象召喚・黒縄!」
触れたものを冥府へ誘う黒縄を召喚し、押し迫る衝撃波を別の時空へ飛ばした。
それと同時、地響きはピタリと止まり、辺りに静寂が降りる。
遥か頭上、ぽっかりと空いた大穴からは、大空に浮かぶ満月が見えた。
「ば、馬鹿な……っ。ここから地上まで、いったい何百メートルあると思っているのだ!?」
ディバラさんが驚愕に目を見開いた直後――魔力柱の一本が、根元からへし折られる。
「「「なっ!?」」」
すぐにそちらへ目を向ければ、
「ディバラ様……」
「申し訳、ございませぬ……ッ」
ラココ族の魔術師たちが、バタバタと倒れていった。
「――あぁ、よかったぁ。なんとかギリ間に合ったっぽいねぇ……」
この凶事をしでかした張本人は、背中に翼を生やした謎の男だ。
どこか気だるげな顔をした彼は、ホッと安堵の息を吐いていた。
「神代の魔女はさぁ、大魔王様と所縁のある貴重な存在。勝手に封印されちゃ、困るんだよねー?」
大魔王様・所縁、そしてこの仄暗い魔力……。
おそらくこの男は、レグルス・ロッドと同じ『復魔十使』の一人と見て、間違いないだろう。
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