第二十話:魔術合戦
「――血氷術・月樹零界!」
イリスの背後に蒼い月が浮かび上がり、極寒の冷気を帯びた木々が場を支配していく。
下下炎獄と月樹零界――互いの『世界』は激しくぶつかり合い、紅焔と白氷が相克する。
「さぁ、はじめようぞ! 血氷術・銀槍乱舞!」
イリスは好戦的な笑みを浮かべ、『武』の手印を結ぶ。
鋭い氷の槍が数十と生み出され、天高くより降り注いだ。
「武装召喚・焔日槍」
俺は同じ長物を召喚し、迫り来る氷槍を叩き砕く。
美しい銀氷が宙を舞う中、神代の魔女は攻撃の手を緩めない。
「――そこじゃ! 氷原鯰!」
足元から大口を開けて飛び出してきたのは、氷塊で作られた巨大鯰。
俺はすぐさま跳び上がり、
「日輪の型・五の太刀――白虹の円!」
焔日槍で弧を描き、眼下の鯰を斬り伏せる。
(上に注意を誘導しつつ、本命は死角である足元、か……巧いな)
さすがは神代の魔女というべきか。
攻撃が多彩、かつ、いいところを狙ってくる。
そして何より――一つ一つの攻撃が、全て次手に繋がっている。
「――血氷術・結晶爆破ッ!」
俺の周囲を舞う氷の粒が眩い光を発し、途轍もない冷気を発しながら大爆発を巻き起こした。
「あ、アルト……!?」
「アルトさん!?」
ステラとルーンの不安そうな声。
「さてさて、美しい氷像の完成じゃな。出来がよければ、儂のコレクションに加えてやってもよいじゃろう」
勝利を確信したイリスの声。
だが、
「――大丈夫、問題ないよ」
俺は完全無傷のまま、周囲に漂う冷気を斬り払う。
「馬鹿な、今のは確実に直撃したはず……ッ」
「守護召喚・太陽神の祝福」
展開後1秒間、氷系統の魔術に対し、大きな耐性を獲得。
先の結晶爆破のような間接攻撃は、その性質上どうしても魔力が拡散し、瞬間的な火力に欠けてしまう。
あれぐらいの威力ならば、この加護一つで完封できるだろう。
「なるほど、『神の加護』さえ召喚するとは……恐れ入ったわ」
イリスは乾いた拍手を打ち鳴らした後、
「アルトを真に殺したくば、もっと直接的かつ大魔力の籠った一撃が必要というわけじゃな……!」
凶悪な笑みを浮かべ、その出力を大きく引き上げた。
それから俺たちは、魔術の粋を尽くした死闘を繰り広げる。
「伝承召喚・流流瀑布!」
「血氷術・崩天死雹!」
下下炎獄により、灼熱の熱湯と化した大瀑布。
月樹零界により、絶対零度に至った雹弾。
両者は激しくぶつかり合い、煌びやかな魔力となって霧散していく。
現在の戦況は、完全に五分五分だった。
(神代の魔女イリス。術式の種類・展開速度・老獪した戦術――全てがまさに『最高峰』! 今や一つ一つの術式が、確実にこちらの命を摘めるだけの魔力を秘めた『必殺』。……面白い!)
(召喚士アルト・レイス。変幻自在の召喚術・驚異的な魔力量・必要十分以上の近接格闘――ここまで戦闘に秀でた召喚士も珍しい! かかっ……面白いのぅ!)
最高峰の魔術合戦。
俺とイリスの顔には、充実の色が差していた。
「ははっ! 伝承召喚・雷光紫電!」
「よい! よいぞ、小僧! 血氷術・月光氷刃!」
紫電を帯びた雷撃と月光を纏った氷刃が激突し、強烈な衝撃波が大気を打ち鳴らす。
両者の間合いが大きく開いたところで、彼女が天高く右腕を掲げた。
「かかっ、互いの『技』は魅せ合った! 次は趣向を変え、『力』と行こうぞ……!」
氷の樹木が枝を伸ばし、蒼い月へ纏わり付いていく。
おそらく、月樹零界を発展させた魔術だろう。
「さぁさぁ、こいつをどう凌ぐ!? ――血氷秘術・月輪【天墜】!」
天の月が眩い蒼光を発した次の瞬間、莫大な魔力の籠った紺碧の波動が解き放たれた。
(これは、デカいな……っ)
だが、押し合い・圧し合い・力比べ。
原始的かつ単純なパワー勝負こそ、俺が最も得意とする分野だ。
「――現象召喚・日輪【極光】」
刹那、獄炎の閃光が一直線に駆け抜けた。
日輪【極光】は、月輪【天墜】をいとも容易く食い破り――イリスの封じられた結晶に直撃。
耳をつんざく轟音が鳴り響き、封印全体が大きく揺らぐ。
(あ、危なかったぁ……っ)
後ほんの少しでも出力をあげていれば、間違いなく天領芒星を吹き飛ばしていただろう。
「ちょ、ちょっと、アルト……!? やり過ぎちゃ駄目だからね!?」
「わ、悪い……っ」
泡を吹いて焦るステラに対し、軽く手を前に突き出して謝罪。
(ふぅー、落ち着け落ち着け……)
封印決戦における、俺の大きな役割は時間稼ぎだ。
目の前の戦闘に夢中になるのではなく、自分の本分を全うしなければならない。
ただ……。
「す、凄い……凄過ぎる……!」
「さすがは救世主様だ……!」
「あの神代の魔女を圧倒しておられるぞ……!」
ラココ族のみなさんは大興奮。
偶然とはいえ、士気が大きく向上したようだ。
そんな中――イリスは引きつった笑みを張り付け、額から一筋の汗を流す。
「か、かかか……っ。『死の恐怖』、か。そんな感情、久しく忘れておったわ……ッ」
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