第十話:復魔十使
いくつもの魔具が宙を舞い、耳をつんざく轟音が、何度も何度も響き渡る。
「おいおい、おいおいおいおい!? なんなんだこれは……!?」
「あいつの召喚魔術の規模は、いったいどうなってんだ……!?」
千と四十三発の魔具を射出したところで――謎のモンスターから、奇妙な魔力が発せられた。
「……アィ、ガ……」
「……!?」
俺はすぐさま武装×連続召喚をキャンセル。
土煙が晴れるとそこには、瀕死のモンスターが横たわっていた。
ほとんど原型を留めていないが……まだかろうじて息はある。
「魔術を使われる前に屠るとは……さすがだな、アルトくん(完全な後出し、かつ、発動に時間の掛かる召喚魔術で、A級クラスのモンスターを蜂の巣か……。普段は優しげな顔をしているが、戦闘時には一切の容赦がない。突然襲われた時の判断も、素早く的確なものだった。アルト・レイス……この子はいずれ、『S級』に届くかもしれないな……)」
「……ラインハルトさん。少し気になることがあるので、これと同種のモンスターがいた場合、殺さずに拘束するよう、冒険者のみなさんに伝えてもらえませんか?」
「……? よくわからないが……いいだろう。『可能な限り捕獲するように』、ということでいいのかな?」
「はい、ありがとうございます。――おいで、夢魔の羊棺」
『羊』の印を結べば、
「メェエエエエ……!」
背中に棺を載せた可愛らしい羊が、大きな産声をあげる。
「よーしよしよし、ちょっとごめんな」
「メェー」
先ほど倒した謎のモンスターは、ひとまずこの子の棺に保存させてもらおう。
「これでよしっと。悪いんだけど、三時間ほど眠っててくれないかな?」
「メェエ」
羊棺は、静かに首を横へ振った。
「それじゃ……トロエの実、三日分でどうだ?」
「メェエエエエ!」
とても嬉しそうな声をあげ、夢の中へ潜っていく羊棺。
相変わらず、現金な子だ。
(でもまぁこれで、とりあえずのところは安心だな)
羊棺が眠っている間、棺内部の時間は停止する。
つまり今から三時間は、あのモンスターを生きた状態で保存できるということだ。
「それから――武装召喚・王鍵シグルド」
念には念を。
万が一のことも考えて、伏魔殿ダラスに王鍵を突き立てておいた。
俺が一人ごそごそとしている間、ラインハルトさんは新たな指示を飛ばす。
「ティルト。パウエル・ローマコットの腕を治してやってくれ」
「えー……。回復魔術は魔力の消費が激しいからパスー。あれぐらいなら、適当に唾とかつけてたら治るってー」
「切断された腕が、唾でくっ付くわけないだろう……。いいからやってくれ。彼も貴重な戦力だ」
「ほいほーい……」
彼女は不承不承といった様子で、札を使った珍しい回復魔術を発動。
この様子だと、パウエルさんの左腕はなんとなりそうだ。
(それにしても、酷い有様だな……)
踏み荒らされたキャンプ・派手に散らかった机と椅子・鋭い太刀傷の走った大地――第七地区に設置された仮拠点は、見るも無残な状態だ。
(でも、妙だな……)
これだけ乱暴に荒らされているというのに……どういうわけか、血痕が一つも見当たらない。
いったいここで、何があったというんだろうか……。
俺がなんとも言えない違和感を覚えていると、ラインハルトさんが大きく咳払いをした。
「――それではこれより、我ら第一陣は第七地区の異常を調査し、生存者の有無を確認する! 第二陣と第三陣は、ここで一時待機! 何かあった場合は、すぐに硝煙弾で知らせてくれ!」
「「「はいっ!」」」
冒険者の力強い返答。
「――ウルフィン、アルトくん、ステラさん。僕に付いて来てくれ」
「おぅ」
「はい」
「わかりました」
こうして俺たちは、崩壊した第七地区へ足を向けるのだった。
ちなみに……後方支援型の魔術師であるティルトさんは、第二陣・第三陣のところで待機するそうだ。
■
「――エヴァンズ! クレア! ハムストン! いるなら返事をしてくれ!」
踏み荒らされた小道に、ラインハルトさんの大声が響く。
だが、待てど暮らせど、一向に返事はない。
「……おかしい」
渋面のラインハルトさんが、ポツリとこぼす。
「どうかしましたか?」
「先ほど襲ってきたモンスターは、確かにA級クラスの強敵だった。しかし、この第七地区には、エヴァンズ、クレア、ハムストン――三人の強力なA級冒険者を残していたんだ。彼らはいずれも、単独でA級モンスターを討伐した実績のある実力者ばかり。まさかあの一匹に、全員がやられたとはとても思えない……」
「なるほど……」
「……もしかしたら、まだ見ぬ強敵が潜んでいるのかもしれない。この先は、今までもよりもさらに気を引き締めて進もう」
「はい」
その後、道なりにしばらく進んで行くと、第七地区の最奥に設置された『作戦本部』に到着した。
そこは魔術で建てられた簡易的な拠点。
術者の腕がいいのか、かなりしっかりとした造りだ。
「建物の内部は、死角が多い。敵の奇襲に備えてくれ」
ラインハルトさんが注意を発し、作戦本部に入ろうとしたところで――俺は「待った」を掛けつつ、『蛙』の手印を結ぶ。
「おいで、伝々蝦蟇」
「グワァー……」
手のひらサイズの小さな蝦蟇は、お気に入りの場所へ――俺の頭の上にぴょんと跳び乗り、満足そうに「グワ」と一声。
「アルトくん、その召喚獣は……?」
「この子は、伝々蝦蟇。喉笛から特殊な魔力震を発して、その跳ね返りを頭部の感覚器でキャッチし、広範囲の索敵をしてくれる、とても凄い子なんです」
「ほぅ、それは便利だ。――しかし、凄いな。アルトくんは戦闘以外にも、こんなことまでできるのか……」
「いやまぁ……どちらかと言えば、こういう仕事の方が本職ですから……」
召喚士はパーティにおける『支援職』。
隠密して偵察・不可知エリアの索敵・味方の強化といった『後方支援』が本来の役割であり、戦闘はあまり得意ではないのだが……まぁ今はいいだろう。
「それじゃ伝々蝦蟇、いつものやつをお願い」
彼女はコクリと頷き、自慢の喉笛を膨らませる。
「――グワァーグワァー」
独特の低音が響き渡り、特殊な魔力震が建物内に伝播していく。
「……どうだった?」
「ゲココ」
「なるほど、魔力反応はなし、か。……いや、これは……?」
「ゲッコ」
「そういうことか……ありがとう。助かるよ」
「ゲコ」
伝々蝦蟇からの報告が終わると同時、
「えっと、何かわかったのかい?」
ラインハルトさんが、問い掛けてきた。
「はい。ここの地図はありますか?」
「あぁ、簡易的なものでよければ、これを使ってくれ」
「ありがとうございます」
受け取った地図を広げ、とある一点に指をさす。
「……ちょうどこのあたりで、極々わずかな霊力の乱れがあったみたいです。敵か味方かまではわかりませんが……間違いなく、何者かが潜伏しています」
「ここは……第三倉庫のあたりだな。――わかった。最大限の警戒を払いつつ、まずはそこへ行ってみるとしよう」
しばらく歩き、第三倉庫へ到着。
しかし、そこはもぬけの殻だった。
「ちっ、なんだよ……。誰もいねぇじゃねぇか」
先ほどから歩いてばかりだったせいか、少し苛立った様子のウルフィンさんが、近くのゴミ箱を蹴り上げる。
「いえ……隠れているようですね」
「あ゛ぁ? この狭い倉庫のどこに、隠れる場所なんてあんだよ?」
「伝々蝦蟇、ちょっと大きめのを頼めるかな?」
「グワ。スゥー……グゥワワワワァアアアアア……!」
一際強い魔力震が発せられた次の瞬間、
「え……うわぁ!?」
戸棚の陰から、一人の青年が飛び出してきた。
陰の中に潜む特殊な魔術で、第三倉庫に隠れ潜んでいたようだが……伝々蝦蟇の強力な魔力震によって、術式が壊されてしまったのだ。
「て、てめぇ、どこに隠れていやがった!?」
犬歯を剥き出しにして、謎の青年の胸倉を掴むウルフィンさん。
「ひ、ひぃいいいい!? 頼む、殺さないでくれぇええええ……!」
青年は目尻に涙を浮かべながら、必死に命乞いをした。
「君は……ケイネス……? ケイネス・トルステンか!?」
「ら、ラインハルト、さん……?」
黒髪の青年――ケイネスさんは、恐る恐るといった風に顔をあげる。
「やっぱりケイネスじゃないか! よくぞ無事でいてくれた……! ここでいったい何があった? エヴァンズは、クレアは、ハムストンは――第七地区の冒険者は、どこへ消えたんだ!?」
矢継ぎ早の質問を受けたケイネスさんは、カタカタと震えながら足元を指さす。
「し、下……」
「『下』……?」
「下の……第六層から、『謎の男』が来て……。みんな、やられちゃったんだ……っ」
「「「なっ!?」」」
全員、やられてしまった。
その衝撃的な情報に、空気がドッと重たくなる。
「アレは、あの化物は……強いなんてものじゃなかった。みんな、一瞬でやられてしまった……っ。今頃は多分、もう殺されてる……ッ」
「……『多分』というのは、どういうことだ……? 殺される瞬間は、はっきりと見ていないんだな?」
「……ごめん、なさい。僕、怖くて……っ。みんながやられていく中、陰の中に隠れちゃったんだ。……ごめん、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
ケイネスさんは大粒の涙を流しながら、謝罪の言葉を繰り返した。
仲間たちがやられていく中、一人だけ隠れてしまったことに、罪の意識を感じているようだ。
「そうか……。とにかく、ケイネスが無事で本当によかった。『恐ろしく強い何者かが、第七地区を壊滅させた』――よくぞこの大切な情報を伝えてくれた。君は、本当によくやった」
ラインハルトさんは、ケイネスさんを強く抱き締め、その背中を優しくポンと叩く。
その後、念のため作戦本部を一通り探索し、生存者がいないことを確認。
第二陣・第三陣と合流するため、第七地区の中央部へ戻った。
「――突如襲い掛かってきた未知のモンスター・第七地区を壊滅させた恐るべき強者・未だ謎に包まれた第八層。このまま進軍を続けるには、不確定事項があまりにも多過ぎるな……」
現状を整理したラインハルトさんは、静かに目を伏せ――ゆっくりと立ち上がる。
「現時点をもって、第七地区から第一地区までの全ての仮拠点を廃棄! 第八次遠征を中止し、速やかに冒険者ギルドへ帰投する! ――ティルト、大教練場へ飛ばしてくれ」
「『治せ』だ、『飛ばせ』だ、人遣いが荒いなぁーもう……」
ティルトさんはぶーぶーっと文句を口にしながら、三枚のお札を取り出した。
それらはボッと燃え上がり、転移術式が起動。
転移時特有の視界の揺れが――起こらなかった。
そもそもの話、俺たちはまだ第七地区にいる。
「……あー、これ……ちょっとマズいかも……」
頬をポリポリと掻き、冷や汗を流すティルトさん。
「ティルト……? どうしたんだ?」
「えっと、落ち着いて聞いてほしいんだけどー……。なんか、転移魔術が使えないっぽい」
「んなっ!? 転移魔術が使えないとは、いったいどういうことだ!?」
「そ、そんな怖い顔しないでよ! あたしだって、わけわかんないもん……!」
周囲が騒然となる中、最年長のドワイトさんがゆっくりと口を開く。
「このダンジョン全体に、なんらかの『結界術』が張られているのだろう。『来るもの拒まず、去るもの許さず』――まるでネズミ捕りのような術式だな」
「結界術……。どうにかして、解く方法はないのでしょうか?」
ラインハルトさんの問いに対し、ドワイトさんは静かに首を横へ振る。
「結界術を解く方法は、大きく分けて三つ。術者を叩くか、術式の起点を潰すか、術式そのものを壊すか。今のところ、術者の位置は特定できず、術式の起点も不明なうえ、術式の全容すら掴めていない。この状況下において、敵の結界術を解くのは至難の業だ」
「それでは第一層まで降りていくというのは、どうでしょうか……?」
ステラの出した案に対し、ティルトさんはすぐに反対した。
「む、無理無理無理……! 第七層から第一層まで、いったい何日掛かると思ってるの!? 魔力も精神力も物資も、何もかもが足んないよ!」
脳裏をよぎったのは、昨日見せてもらった複雑極まりないダンジョンの地図。
(俺たちのいる第七層から第一層までは、相当長い距離を行かなければならない)
それに、ケイネスさんの話によれば……第七地区を潰した謎の男は『下』――第六層から現れたらしい。
おそらくは第六地区以下の仮拠点も、ここと同じように潰されているだろう。
つまり、途中での補給は不可。
そのうえ道中には、A級クラスのモンスターが潜んでいるときた。
やはりここから第一層へ下るのは、あまり現実的な話じゃない。
「……進むしかない、か」
ラインハルトさんの呟きに、俺たちは静かに頷いた。
第七地区からしばらく北方へ歩くと、第八層へ続く階段を発見。
「――ここから先は、前人未到の第八層。何が起こるのかまったくわからない、完全に未知の領域だ。みんな、くれぐれも用心してくれ」
長い長い階段を登っていき――第八層に到着。
(……っ。これは中々に強烈だな……ッ)
重苦しい魔力とむせ返るような瘴気のにおい。
おそらくはこの階層の果てに、大魔王の忌物があるのだろう。
遠征メンバー全員が顔を顰めていると、前方から複数のモンスターが現れた。
「タゴ!」
「スログ!」
「ケジ!」
「テテレ゛!」
四足歩行の人型モンスターだ。
歩き方にこそ違いはあれど、先ほど襲い掛かってきた個体と非常によく似た特徴を持っている。
「殺すんじゃないぞ! 可能な限り、行動不能にするんだ!」
迫り来る謎のモンスターを斬り伏せながら、ラインハルトさんは全体に再周知を行う。
「ちっ、面倒くせぇな……!」
ウルフィンさんは舌打ちを鳴らしつつも、ちゃんとその指示に従っていた。
「あたし、戦闘は苦手なんだけどなー」
ティルトさんは苦い顔をしつつも、お札を使用したトリッキーな魔術で、次々に敵を沈めていく。
さすがはA級冒険者パーティ、基本的な戦闘能力がずば抜けて高い。
第一陣が撃ち漏らしたモンスターたちも、後続の第二陣・第三陣――優秀なB級冒険者たちが、素早く行動不能にしていってくれた。
「……さっきからよぉ、どうしてこの不気味なモンスターを殺さないんだ?」
「なんか聞いた話によれば、アルトさんが『殺さず拘束してくれ』って言ってたらしいぜ」
「もしかして……召喚獣として使役するつもりなのかな……?」
「うへぇ……あの人ならやりかねないな……っ」
モンスターを蹴散らしながら、魔力と瘴気の濃い方へ進んでいくことしばし――。
前方に、いかにもな扉を捉えた。
「はっ。こりゃわかりやすくていい、なッ!」
ウルフィンさんは、荒々しく扉を蹴破る。
「「「……っ」」」
おどろおどろしい魔力が吹き荒れた後――視界がパッと開けた。
そこは玉座の間だ。
敷き詰められた赤い絨毯。
天蓋からぶら下がったシャンデリア。
そして――部屋の中央に置かれた豪奢な玉座。
(……間違いない。アレが、大魔王の忌物だ……っ)
玉座に載せられていたのは――『心臓』。
それは圧倒的な存在感と暴力的な生命力を放ち、そして何より――力強い鼓動を刻んでいた。
あれはまだ、生きているのだ。
異様な光景に全員が息を呑む中――部屋の奥の暗がりから、カツカツという規則的な足音が響く。
「おやおや……。何やら騒がしいと思えば、お客様がいらしていたのですね」
背の高い男は、玉座の前に立ち、こちらを見下ろした。
「はじめまして、私は復魔十使が一人レグルス・ロッド。以後、お見知りおきを」
レグルス・ロッド。
紫紺の髪をたなびかせた、不気味な男だ。
身長は190センチほど、外見上の年齢は20代半ば。
整った目鼻立ち・血の気を感じない白の肌・体の線は細い。
身に纏った衣装はまるでバラバラ。そこらに捨ててあった着物を無理くりつなぎ合わせたかのような、ひどく統一感のないものだ。
彼は芝居がかった動きで礼をし、品定めするような目をこちらへ向けた。
「……っ」
目と目が合ったその瞬間、背中に冷たいものが走る。
(あいつは……ヤバイ)
さっき戦ったA級なんて比較対象にすらない。
おそらくは『欄外』――『S級』という位置に坐す、化物だ。
「これはこれは、ご丁寧な自己紹介、どうもありがとう。僕はラインハルト・オルーグ。――レグルス、君がさっき言っていた『復魔十使』って、いったいなんなのかな? もしよかったら、教えてくれないかい?」
ラインハルトさんは努めて冷静に、情報収集を図った。
これだけのイレギュラーに囲まれながら、この落ち着き具合……さすがはA級冒険者だ。
「復魔十使は、崇高なる目的のために集った同志。それ以上でもそれ以下でもありません」
「崇高なる目的……?」
「えぇ。我々の望みはただ一つ、大魔王様の完全復活です」
「「「なっ!?」」」
その信じられない発言に、俺たちは言葉を失った。
千年前に失われた命を蘇らせるなんて、常識的に考えて不可能だ。
「――千年。言葉にすると一瞬ですが、本当に……本当に永かった。私たちはずっと待ち続けてきたのです。このときを、この年を、この瞬間を……!」
レグルスは両手を大きく広げ、玉座の周りをゆっくりと練り歩きながら、意味深な言葉を口にした。
「今は『大儀式』の準備中。これを成立させるためには、大魔王様に所縁のあるモノが、とにかくたくさん必要なのです」
「それが……大魔王の忌物ということかい?」
「その通り。どうです? 美しいでしょう? 彼の御方の心臓は……!」
レグルスはだらだらと涎を垂らし、うっとりとした目で、玉座の心臓を見つめる。
「……まぁ美的感覚というのは、人それぞれだからね。後、もう一つ聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
「えぇ、どうぞ」
「――第七地区をやったのは……君かい?」
「第七地区……? あぁー、あの小奇麗な住居ですか。はい。私が潰しましたよ。……いやでも、あれは心が痛みましたねぇ……。あんなに整った建築物を壊してしまうなんて……。冒険者のみなさんが無駄に暴れることさえなければ、綺麗な状態で保存できたというのに……。あぁ、もったいないもったいない……っ」
レグルスは隠し立てをすることなく、あけすけに全てを語った。
「……そう、か……。死体が一つも見つからなかったんだけど、もしかしてまだ生かしてくれているのかな?」
「えぇ、もちろんです。私、この世で一番『無駄』というものが嫌いでしてね。『命』という尊き輝き、どうして粗末にすることができましょうか」
「……無駄だとは思うけど、一応お願いしておこうかな。彼らを返してくれないかい?」
すると――。
「え? 倒してきたんじゃないですか?」
レグルスはきょとんとした表情で、軽く小首を傾げた。
そこには微塵の悪意もなく、ただただ不思議という感情のみが浮かんでいる。
そしてその回答は――俺が最も聞きたくなかったものだ。
「『倒してきた』……? いったいどういうことかな?」
「ほら、道中にたくさんいたでしょう? 私の失敗作が」
「……道中、失敗作……。まさか……!?」
俺は静かに歯を食い縛る。
最悪の予想が、的中してしまったのだ。
「あはは、気付かなかったんですか? そこらへんをたむろしていた腐り掛けのモンスター。あれは全部、元冒険者――あなたたちの大切なお仲間ですよ?」
「「「……ッ」」」
その瞬間、全員に激震が走った。
「私の『固有魔術』は、かなり特殊な力でしてね。『命の受け渡し』を可能にするんですよ。もともとこれは、石や花といった『非生物』に命を与えて、いろいろ楽しく遊ぶものなんですけれど……。最近になって、『生物』へも応用できるようになりましてね。これがまた、とても面白い反応を見せてくれるんです。――ほら、出ておいで」
レグルスがパチンと指を鳴らせば、部屋の奥から二体のモンスターが姿を現した。
二足歩行の人型モンスター、第七地区で討伐した個体とほとんどまったく一緒だ。
「昨日逃げ出しちゃったのが、エヴァンズくんだったから……。こっちがクレアちゃんで、こっちがハムストンくん……。あれ、逆だったかなぁ……? あはは、すみませんね。私、人間の顔と名前を覚えるのが、ちょっと苦手でして」
エヴァンズ、クレア、ハムストン。
その名前は、第七地区を守護していた、A級冒険者の名前だ。
「さぁさぁ、クレアちゃん、ハムストンくん! お仲間が助けに来てくれましたよー? ほら、ちゃんと挨拶をして?」
レグルスがパンパンと手を叩けば、
「……ラィ、ハルト……スマ、ナィ……」
「オネ、ガィ……タス、ケ……テ……」
ほとんどモンスターと成り果てた二人が、ポロポロと涙を流しながら助けを求めた。
「あはは、よくできましたー! 凄いと思いませんか、これ? 自我を残したまま、どこまでモンスター化できるかの実験なんです!」
レグルスは無邪気な笑顔を浮かべ、そのおぞましい改造手法を嬉々として語る。
「まずはその辺にいる適当なモンスターの命を吸い出して、それを生きた人間へ注入、二つの命をギュギュッと融合! そうするとあら不思議! 人間とモンスターの特性を兼ね備えた『モンスター人間』のできあがり! いやぁそれにしても、A級冒険者の体はやっぱり丈夫ですね! B級で試してたら、どれもすぐに壊れちゃって……。ほら、第八層の周りにたくさんいたでしょう? 四足歩行でうろちょろしている変な生き物が」
もう、頭が沸騰するかと思った。
(こいつは……人の命や尊厳を、いったいなんだと思っているんだ……ッ)
この最低最悪の男は、絶対に許しちゃいけない。
「レグ、ルス……貴様という男は……ッ」
ラインハルトさんは断魔剣ゴウラを解放し、凄まじい速度で斬り掛かる。
「断の型・五の太刀――五行破刃ッ!」
彼の放った鋭い斬撃は、不可視の壁に阻まれてしまった。
あれは……結界術だ。
「な、何故だ!? 断魔剣ゴウラならば、結界術など容易く斬れるはず……っ」
「ぷっ……あっはっはっはっはっ! 残念でしたァ! こう見えて私、結界術の心得がありましてねぇ! 『断魔』系統の対策は、もう完璧なんですよぉー! これを壊すには、あなた如きの出力じゃ、全然足りませ――」
「――レグルス、お前もう、ちょっと黙れ」
刹那、『翼』手印を結ぶ。
「――偶像召喚・比翼神アゴラ」
「え……ぱがら!?」
俺の呼び出した召喚獣は、レグルスの結界術を木っ端微塵に叩き潰し――そのムカつく顔面に強烈な一撃をぶち込んだ。
※とても大事なおはなし
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