ラブミーラブユー 一色目
※本作は下記作品の“公認クロスオーバー作品”となっております
《原作》
三色ライト『(元)魔法少女が(やっぱり)変態でした。』
華永夢倶楽部『ラブミーラブユー』
久しぶりの家に帰った後も、私はまだあの時を思い出してはドキドキしている。
『私は、あかりさんの事がずっと前から好きです……‼︎』
それが起きたのは修学旅行最終日、釧路の夕日をバックに私の片想いの相手だった日向風玲亜ちゃんからの告白。
『あかりさんの気持ちを、どうか私に教えて下さい……』
風玲亜ちゃんから告白を受け、私はとても嬉しかった。それはもう泣き崩れる程に嬉しかったし、その場でキスしたくなる程に嬉しかった。だけどもしそこで本当にそんな事したら雰囲気ぶち壊しだし、流石に風玲亜ちゃんに失礼だからあの時はグッと我慢した。
「ん〜、でも…………」
今思い返すとやっぱり、風玲亜ちゃんと一つになりたい。身体だけじゃなく心まで一つに。
「でも今の私には、風玲亜ちゃんと釣り合えるのかなぁ……?」
いくら私と風玲亜ちゃんの仲が今より深まったとしても、将来まで共にするとなると話が変わっちゃう。
言ってしまえば、私が風玲亜ちゃんへ嫁入りするくらいの心意気で風玲亜ちゃんと今後接するという意味も込められている。
「そういえば私、将来の事なんか全然考えてないじゃん。どうしよう……」
今まで進路希望についてずっと先生から注意されているし、それからは少しでも自立出来る様に色んな職業に目を通す様になった。
私としての本当の気持ちは、大人になっても風玲亜ちゃんとはいつまでも長くいたいんだけど…………
“明日、学校に行ったら美紀に少し相談してみようかな”
少しでも前向きな事を考えながら私は布団の中へと潜り込み、ゆっくりと目を閉じた。
そして次の日、私は昨夜と変わらない浮かない顔のまま学校に来てしまった。周りの女子からは生理痛かと心配かけられ、男子からは特に心配されなかった。
「はぁ〜…………」
もしこんな時に風玲亜ちゃんと会っちゃったら、どうやって挨拶しようかな…………
『おはようございます、あかりさん』
風玲亜ちゃんの声だ。
「あ、うん…… おはよう風玲亜ちゃん」
お互いに数秒程固まる。
そして、顔を赤くする。
“いくらあの時「はい」と返事したものの、やっぱり意識しだしたら顔を直視出来なくなっちゃう……‼︎”
えっと何か、何か話題を……
「あの、あかりさん?」
付き合いたての男女みたいな空気を醸し出しつつ、風玲亜ちゃんが普段の風玲亜ちゃんを装いながら口を開いてくれた。
「将来、何をするか決めましたか?」
「え……?」
風玲亜ちゃんが、私の進路の話をしてきた?
「ううん、まだ決まってない……」
「私はここを卒業後、すぐに進学する予定です。あかりさんがどんな進路にしたか決めましたら、出来るだけ早く私に教えてくださいね。もしあかりさんがどんな道を選んでも、私は出来る限り力になりますから」
「あ、ありがと……」
「それじゃあこの話の続きは夜にしましょう。ではこの話は、また今度しましょうね」
そう言い残して風玲亜ちゃんは先に玄関へ入っていった。それを立ち尽くして見ている私は風玲亜ちゃんから「進学」という言葉を聞き、無意識にその場で立ち尽くしてしまう。
“私も、風玲亜ちゃんと一緒に進学したい…………”
私は今まで進学なんて道はこれっぽっちも考えた事が無かった。むしろ進学なんて絶対に無理だと思ってたから、こんな間抜けな人に育ってしまったのかもしれない。
“もし風玲亜ちゃんと進路が一緒になれば、毎日が百合色で楽しいだろうなぁ…………”
風玲亜ちゃんとの大学ライフ。大人な人生を楽しみつつ、勉強を頑張る毎日。イベントでは何か大きなプロジェクトをして来客を驚かすのも悪くないよね。それにその日には風玲亜ちゃんの両親が来るかもしれないからチャンスかも。
だけどもし風玲亜ちゃんの両親に会うとなると、まだまだ未熟な敬語が風玲亜ちゃんの両親にとって悪印象になっちゃうのかもしれない。
その結果、私は風玲亜ちゃんから引き離されるかもしれない。風玲亜ちゃんの両親がどんな人なのか分からないから、なおさら最悪な結末のイメージが膨らんでいく。
“私、風玲亜ちゃんと一緒にいられるかな……?”
そんな不安を感じながら、私はやっと我にかえる。
「いけない、早く登校しないと……」
少しだけ小走りで玄関をくぐり、急いで教室へと走って行った。
「はぁ…………」
やっと授業が終わって、今は昼休み。何だかもう既に疲れてるんだけど……
でも、私にはまだまだやる事があるから無理矢理にでも動かないとね。
「ねぇ美紀、ちょっと良いかな? 少し話があるんだけどさ……」
美紀は私にとって、私と風玲亜ちゃんの関係を応援してくれる唯一の理解者。そんな美紀をあまり人気の少ない廊下に誘って、自分の今抱えている悩みを打ち明けた。
「そっかぁ…… 修学旅行で風玲亜から告白されて以来、ずっと将来をあかりなりに真剣に考えてるんだね」
「うん。進路について少しだけ考えたんだけど、なかなか決まらなくてさ。そもそも自分は今まで何をしたいかなんて考えてなかったからさ、そうやって将来を真面目に考えてこなかったツケが回ってきたんだなって思うとさ、そんな間抜けな自分を責めたくなって……」
風玲亜ちゃんは真剣に進路の事を考えてるのに、私だけは楽観視して過ごしていた事に対して軽く自己嫌悪している私の肩を、美紀はそっとやさしく手を乗せてきた。
「あかり、今からでもまだ遅くはないよ。少しでも将来に繋がる事をしてみようよ!!」
美紀の目からは燃え沸る様な本気を感じる。そんな目を見ていると、自分が忘れかけていた希望がもう一度見えた気がした。
「……うん、そうだね。思い出させてくれてありがとう美紀!!」
とは言ったものの、自分が今興味のある職種がまるっきし無いし、こんな駄目な自分が真面目に働く姿を全く想像出来ない。
「あのさ、あかりにとっては少し難しい道だけどさ…… もしかしたら将来に繋がる道があるけど、聞きたい?」
美紀はその場から離れて教室に入り私を手招きで誘う。私はその誘いに付いて行き、美紀の席の前に立った。
すると美紀は机の下から、一冊のパンフレットを取り出して私に見せてくれた。
「これは……?」
「一星大学の資料だよ。少しレベルが高いけど見学を受け付けてるみたいだから、あかりと風玲亜の二人で行ってみたらどうかな? 私も知ってるんだよ、風玲亜が進学を考えてる事!!」
「あぁ、やっぱり? まぁ美紀らしいと言えば美紀らしいか……」
「ふふ〜ん、もっと褒めても良いんだよ?」
「いや、そこまで凄くないから」
それにしても一星大学かぁ、初めて聞く名前だなぁ〜。
「ねぇあかり、確かあかりの母親って歯科医だったよね。もしかしたらあかりの母親は一星大学出身かもよ? ほら見て、ここに歯学部って書いてあるじゃん」
美紀から手渡された大学のパンフレットを軽く読んでみる。そこにはさっきの歯学部だけじゃなく、法学部に経済学部などの紹介が細かく書いてある。
一通り目を通して私が感じたものすごく当たり前の事なんだけど、これだけじゃ全くイメージが湧かない。
「もしあかりが一星大学に少しでも興味があるならさ、一回くらい見学だけしてみるのも悪くないと思うんだよね〜」
「えぇ〜、私が大学生に?」
「ホントだよ。冗談抜きで」
……うん、よくよく考えてみると大学生になるのも悪くないかもね。もし風玲亜ちゃんがここへ進学するとして、あわよくば一つ屋根の下で生活する事になったとしたら私の人生は間違いなく、バラ色ならぬ百合色になる。
「ねぇ美紀、風玲亜ちゃんは大学をどこにするかって先に聞いてたりしない?」
「風玲亜ならね、ここに進学するかも〜って言ってたよ」
よしっ、風玲亜ちゃんと一緒ならどんな事でも大丈夫だよ‼︎
「まさかだけどさ、『風玲亜が行くなら私も行く』が動機じゃないよね?」
「うっ、今のところはそうかも……」
でもね美紀、向こうでやっていく内に通い続ける理由が変わるかもしれないんだよ。私の中の何かが変わったり、ふとしたキッカケで興味を引く職種が見つかるかもしれないんだと思うんだよ。
「ところで、一通り見て気になった学部はあったかな?」
「じゃあ私、ここの歯学部を見学してみようかな。お母さんの仕事に興味が少しだけあるから」
「おぉ〜、良いねぇ。ちなみに風玲亜は法学部に入るみたいだよ。あ、でも弁護士とかになるのかどうか聞いても『まだそこまでは……』って返されたよ」
そっかぁ、風玲亜ちゃんは法学部に入るんだね。私が目指す学部とは違うけど、もし受かったらお互いに励まし合いながら頑張るのも良いよね。
……あ、でもちょっと風玲亜ちゃんが法律を知り尽くしてドヤ顔してるところを見てみたかったりして。
「あぁ〜良いねぇ、風玲亜ちゃんのキリッとした目つきとか‼︎」
「うん、そうだね!! もしあかりが法を犯しても心強いしね!!」
「ちょっ、美紀の中で私は一体何なの⁉︎」
「一度覚醒したら、風玲亜にセクハラする変態キャラ」
「何故にそうなる⁉︎ 私そんな変態じゃないから‼︎」
今のはネタなの? それともマジの本気で言ったの?
「ちなみに私はこれ以上進学しないから、卒業後はあかりと風玲亜の二人だけになるかもね。まぁでも私は八王子から離れるつもりは無いから、長期休暇とかになったらいつもの神社においでよ。ロリ担当の私が今よりも立派になって待ってるからさ!!」
いや、自分でロリ担当って……
「へぇ〜、美紀は卒業したら巫女になるの? 確か巫女って超絶ハードだって聞いた事あるけど……」
「いやいや平気だよ!! サッカーよりも全然キツイから!!」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
…………んん?
「ただいま〜」
家に帰って、何も言わずに真っ直ぐ部屋に向かう。そしてそのままベッドに倒れ込み、無心になって天井を見つめる。
“一星大学かぁ…………”
一星大学は星乃川市にある名門大学で、全体的な偏差値も高い。そんなハイレベルな学校へ私は入学を考えている。
“もし落ちたら、そっから風玲亜ちゃんと会うのが難しくなっちゃう……”
最悪の場合、風玲亜ちゃんが私の他に異性で好きな人が出来るなんて事もありえる。それはそれで祝福すべき事なんだけど、今まで一緒にいた私にとっては複雑な気持ちになる。
“……やっぱり、入学しかないよね”
絶対に落ちたくない。そんな焦りを無くす為にも、私は起き上がって机に向き合い、受験勉強に取り組む事にした。
そして夜、一星大学へ進学する事になっている風玲亜ちゃんに電話をかけてみる。
『はい、日向です』
普段と変わらない喋りで風玲亜ちゃんが出てきた。
「あ、もしもし? あかりなんだけど……」
『あ……』
ほんの一瞬だけ、静かになる。でもすぐに用件を言わないと駄目だ……
私が口を開かないと……
「あのね風玲亜ちゃん。私ね、一星大学に入学しようと思うんだよ」
『あかりさんが一星に……? 本気、ですよね?』
「うん、私は本気だよ」
誰もが風玲亜ちゃんに付いて行く様に一星大学を選んだ様に見えるかもしれない。でも私は、将来的には風玲亜ちゃんよりも前に立てる様になりたい……
何かで風玲亜ちゃんに勝ちたい……‼︎
「あそこの歯学部に興味が沸いてね、そこへ見学しに行く事にしたんだ。私は明後日の金曜日に見学するんだけど、風玲亜ちゃんはいつ見学に行くの?」
『あ、私も明後日の金曜日に……』
「え、ホント⁉︎」
風玲亜ちゃんと一緒に見学に行けるじゃん‼︎
やったぁ‼︎
「じゃ、じゃあさ…… 明後日は私と一緒に見学行かない? 八王子駅に朝七時集合でさ」
その後も風玲亜ちゃんとスケジュールをしっかり組み、おやすみを言い合ってから電話を切った。
「はぁ…………」
明後日は風玲亜ちゃんと大学へ見学。それだけでも私は嬉しいけど、進学先まで一緒となるともっと嬉しい気持ちだった。
「歯学部の先輩達って、どんな人がいるんだろう……」
やっぱり大学生となると、みんな大人な人ばっかりなんだろうなぁ。
私がもし向こうに入学したとして、周りから浮いたりしないかなぁ……?
最近は学校でのイジメも多いから、もし私か風玲亜ちゃんのどっちかがイジメに遭ったらどうしよう…………
『〜♪』
スマホがメッセージを受信した。画面を開くと風玲亜ちゃんからの応援メッセージが書かれていた。
《お互いに一星大学目指して、頑張りましょうね♡》
この一言で、私のやる気が満ち溢れた。
……そうだよ。入学する前から弱気になってちゃダメ!
「んっ……‼︎」
思いっ切りほっぺを叩いて、気合を入れる。
「…………よしっ、負けるな月宮あかり‼︎」
少しでも余裕を持つ為に、もう少しだけ勉強を続ける事にした。
二日後の金曜日、私は八王子駅で風玲亜ちゃんと合流した。改札を通って電車に乗り、お互いが向かい合う様に席に座った。
「一星大学って、どんな所なんだろうね〜。私楽しみで昨日眠れなかったんだよ〜」
寝たのは夜中の四時だから、今日寝て今日起きたって事になるね。
……って、私の睡眠時間たったの二時間じゃん‼︎
いつか寝落ちしそうですごく怖いんだけど‼︎
あっ、でもそんな時は風玲亜ちゃんに起こして貰えば良いんだった。いやいや、流石にそれは子供っぽいよ‼︎
私もそろそろ立派な大人にならなきゃ……‼︎
「一星大学まで時間もありますし、少しお話でもしましょうか」
風玲亜ちゃんはまず法学部を目指す事になった理由を、私だけに教えてくれた。その理由は私が予想していた理由よりもはるかに斜め上だった。
「あかりさんは歯学部でしたよね? そこに何か目的を見出せたんですか?」
「うん、まぁね。興味あったから一度行ってみようかなって思ってさ。もしかしたらそこで勉強する内に目覚める可能性だってあるし、少しでも出来る事を増やそうと思って」
「それはとても良い事ですよ。あかりさんも、少しは大人になれたんじゃないですか?」
「いやいや、まだ子供だよ。それも圧倒的にね」
一星大学の話で盛り上がってると、何駅か通った事に気付いた。気が付くと私達が乗った時より少し人が多い気がした。
よく見ると、学生服の人が半分程いる。もしかしてこの人達も一星大学へ行く人なのかな?
「…………そろそろだね、風玲亜ちゃん」
「…………はい」
そして遂に電車が星乃川駅に到着して、そこから歩いて一星大学へ繋がる街のバス停へ乗り継ぎ、目的地の「一星大学」から降りた私達がすぐにした事は、空腹を満たす為の食事を摂る事。
腹が減っては戦が出来ぬ、だからね。しっかり脳に栄養が行き渡る様にしないと……
「はぁ〜、やっと着いたね風玲亜ちゃん‼︎」
「はい。それにしても、少し疲れましたね…… 少しここで休みましょう」
ホームの席に座って、二人で一星大学への行き方を改めて確認する。
「え〜っと、まずはこの道路を道なりに歩いて…… それからここをこうして辿れば良いのかな?」
「う〜ん、少し歩きますね……」
幸い、荷物と呼べる荷物が無いのがせめてもの救いだね。今夜ホテルで一晩泊まるけど、寝泊りするだけだから着替えしか持って来ていないんだよね。
「もう大丈夫です。行きましょう、あかりさん」
「う、うん……‼︎」
風玲亜ちゃんと地図を見ながら歩き、何とか迷わずに目的地である一星大学に到着した。
「ここが…… 一星大学」
「すごく、大きいですね……」
私達の目の前にそびえ建つ一星大学は、まさに名門校の名に恥じない巨大さと清潔さが前面に押し出している。
“こんなにスゴ過ぎる大学に、私が入学?”
こうして生で見ると、改めて入学出来るのか不安になってきたよ……
この通り足だって震えてるし、なかなか一歩を踏み出せない。
“怖い…… まだ試験じゃないってのにコレじゃあ、試験の日になったら気絶しちゃうかもしれないよ…………”
そんな時だった。
「うわっ…………‼︎」
風玲亜ちゃんが私の手をそっと握ったのだ。しかも指と指をしっかり絡ませて握る恋人繋ぎで。
「大丈夫ですよあかりさん。私が付いていますから」
「風玲亜ちゃん………… うん、ありがとう」
押し寄せる不安と恐怖を振り払う様に足を動かし、一歩ずつ、一歩ずつと歩み出す。
そして私達は、遂に一星大学へと入ったのだった…………
「おぉ〜、人が沢山いるね風玲亜ちゃん!!」
「はい!! 私の想像以上にいますよ……‼︎」
もし本当に受かったら、こんなに素敵な場所で毎日授業を受けられるんだね……
よしっ、その為にも受験勉強を毎日頑張らないと……‼︎
「あかりさんっ、早速受付に行きましょう!!」
「あぁうん、待ってよ風玲亜ちゃん……‼︎」
少し興奮気味の風玲亜ちゃんに手を引っ張られ、そのまま受付に行こうとしたその時だった。
“えっ…………?”
誰かからのとても強い視線を感じた。私と風玲亜ちゃんに対する、とてつもなく強い視線を…………
「……あかりさん?」
「ふぁいっ‼︎」
気が付けば私は受付の前に立っていて、それから担当の人から一星大学の案内が始まっていた。
「ど、どうしたの風玲亜ちゃん?」
「さっきからボーッとしてましたけど、大丈夫ですか?」
「う、うん。大丈夫だよ……」
どうやら割と長い時間を無心で過ごしてたみたい。ヤバイヤバイ、風玲亜ちゃんだけじゃなく担当の人まで心配かけちゃったよ……
「それでは、法学部を見学する日向さんは私の方へ。そして歯学部を見学する月宮さんはあちらの方の指示に従って行動してもらいます」
ここで一旦お別れだね、またね風玲亜ちゃん。
次に会うのはお昼だね‼︎
「では私は簡単な資料をお持ちして来ますので、気軽に在学生とお話しても構いません。ですが必要最低限のマナーだけは守って下さい」
担当の人は頭を下げてその場から離れた。今私はとある部屋の前、そして目の前には在学生が行き交う廊下。
何人かが私を見てヒソヒソと話してる雰囲気もあった。高校の制服姿で大学に来たから、やっぱり注目度は抜群だよ…………
「それにしても、マナーさえ守れば在学生に話を聞けるのかぁ。出来れば歯学部の先輩に話を聞きたいんだけど……」
見渡す限り全員が私服だから、誰がどの学部なのか見当が付かない。もういっその事、誰かが話しかけてくるまで待つ?
いやいやっ、こんな事で恥ずかしがってちゃダメだね!
よしっ、まずはあそこでジッと私だけを見てる外国人っぽい人に話しかけよう‼︎
「あのぉ〜、すみません!! そこで私を見てる白い人‼︎ ちょっとこっち来てくれるかな?」
私に呼ばれて驚く白髪の女の子。少しだけ警戒しつつも、ててて〜っと歩いて来てくれた。
「……何?」
おぉ、この子真紅の瞳に真っ白な肌持ちだよ‼︎
どこかロリッ娘みたいな外見に加えて、小学生みたいに背が低いのが男子にとっては高ポイントだね。
「あのね、私再来年ここの歯学部へ入る予定の高二なんだけどさ…… 歯学部の人って近くにいるかな?」
「歯学部の人…………」
女の子は周りをキョロキョロ見渡して、廊下を歩く人達をしばらく見つめて答える。
「それなら私が歯学部の人。ついでに言うと一年生だから」
ふむふむ、一年生か。じゃあ私達がここに入学した頃には三年生になってる計算になるね。
「そっかぁ。一年生だから…… えっとぉ、だいたい十八歳かな?」
「…………まぁ、そういう事」
あれぇ〜、さっきの間は何だろうなぁ? 正直すごく気になるけど、ここはスルーした方が良いかもね。
「う〜ん、もう一人くらい歯学部の人から話を聞きたいんだけど、誰かあなたの知り合いで仲の良い人とかいるかな?」
女の子は顎に手を当てて悩んで、ハッとなって口を動かした。
「じゃあ、灯」
「ふぇっ、私⁉︎」
まだ自己紹介してないのに、何故にこの子は私の名前が……⁉︎
「えっ、え……?」
……って、あれぇ?
何故にこの子まで疑問符を頭の上で出してるのかなぁ?
「いや、ほら…… さっき私の事をあかりって呼んだじゃん」
「……そういう事」
突然、一人で納得した様な表情を見せた。当然私は今、置いてけぼり状態である。
「多分同名で違う人。私の知り合いに灯って変な人がいる」
「あっ、やっぱそういう感じ?」
「そう、そういう感じ」
なぁんだ、下の名前が同じだったのか。だからさっき変な空気になったんだね。うんうん、それなら納得だよ。
「じゃあ、今更だけど自己紹介でもしておこうか‼︎ 私の名前は月宮あかり、改めて言うけど八王子の高校に通ってる二年生だよ!!」
「…………じゃあ私も改めて。ブラッディ・カーマ、ルーマニア生まれの大学一年生」
白髪の女の子改め、ブラッディと私は軽く挨拶と握手を交わした。
「それじゃあブラッディ、歯学部について何か教えてくれるかな? 教えられる事なら何でも良いよ」
「本当に何でも良いの?」
「うん、何でも良いから教えて‼︎」
ブラッディはそんなに長く考えず、すぐに歯学部について教えてくれた。
「歯学部は歯について学ぶ場所」
「うん、それはそうだね‼︎」
歯学部って、そういう場所だからね‼︎
「あと、歯が綺麗だと身体も健康になる」
「あっ、ソレ聞いた事あるよ。口臭や歯周病とかの予防になるんだよね!」
そういうのは、学校の歯磨きイベントで知ってるんだよね〜。ドヤァ‼︎
「……以上」
「えっ、もう終わり⁉︎ なんかまともな説明が無かったんだけど‼︎」
「この続きは無事受かったら。私からは何も教える事がもう無いから」
えぇ〜、何だかよく分からないままブラッディからの説明が終わっちゃったよ〜。
どうしよう、せめてブラッディと世間話でもしようかな……
「ねぇ、ブラッディって歯学部の生徒なんでしょ? 私、一目でも良いからブラッディの歯を見てみたいなぁ〜」
「えっ…………」
ブラッディがドン引きした目つきで、ゆっくりと後退りし始めた。
「あぁゴメン‼︎ 見せたくないなら見せなくて良いから……‼︎」
必死の説得で何とかブラッディとの距離を取り戻し、再び会話が始まった。
「それで、そっちはどうしてこの大学に来たの。星乃川市内には他に一ヶ所大学があるのに、それでもわざわざコッチを選んだ理由があるんだよね」
「えっと〜、本音言っちゃうと好きな人がいるから来ただけです。つまり下心丸出しのバカなんだよ……」
「そうだね、バカだね」
「そんなハッキリ言わんでも‼︎」
「……でも嫌いじゃない」
何だか意味深なトーンで、ブラッディは私に向かって好意的なセリフを口にしてくれた。ちょっとブラッディ、その一言だけで私のやる気がまたグンと上がっちゃうじゃないの。
……っと、切り替えて今度は私からブラッディに質問しなきゃね。
「じゃあ今度はブラッディ、ブラッディが歯学部に入るキッカケって何だったの? 歯医者になりたいとか?」
すると少しだけブラッディは俯き、顔を見られない様に答えてくれた。
「あ、灯がいるから…………」
「なるほど、好きな人に付いて行く感じだね。その気持ち分かるよ〜…… 私もね、好きな人が一星大学に行くから私も一星に入る事にしたんだよ。だから私とブラッディは一緒の仲間だね!!」
ブラッディの手を両手でギュッと握る。とても柔らかくてスベスベな感触にか細い指、そして見惚れる程に傷なしの綺麗すぎる雪肌。そして何よりも、最高に美しい顔立ちが最高に可愛い‼︎
「…………なんかヘンな事考えてる」
「何故にそうなる⁉︎」
私、ブラッディを誘拐しようなんて一ミリも考えてないのに、どうしてこの子はそういうヤバイ考えに至っちゃうのかなぁ⁉︎
まさか私がロリコンに見えるのか? それとも変態おじさんに見えたのか?
「言っとくけど、私はこう見えて強い。護身術を身に付けてるから」
「えぇ〜、もはや隙無し敵無しじゃん……」
おうおう〜、隙が無い女の子はモテないんだぞ〜。でも確か灯って人が好きなんだっけ、一体どんな人なんだろう…………
「あのさブラッディ、その灯さんって––––」
『大変お待たせしました。それでは部屋にお入り下さい』
ブラッディと話をしている内に、担当の人が荷物を手に戻って来ていた。もう少しだけ会話したかったけど、ブラッディとはここで一旦お別れだね。
「じゃあ、また会えたら一緒にお話しようね!」
「……うん、待ってる」
それから一時間ちょい、学部紹介や施設案内を担当の話から聞き続けて疲れた私を待っているのは数枚のプリントだった。
廊下からはもう人の声がしないから、今は講義の時間なんだとすぐに分かった。
「はぁ、やっと終わった…… もう既に頭が痛いんだけど〜」
静かな部屋にこだまする私の悲痛な声は、当然誰にも届かなかった。案内の人は昼食の場所を詳しく教えてから部屋を出たから、今の私はあまりにも孤独な存在になっている。
「大学の講義時間は大体一時間半くらいだから、まだあと十分くらい待たないとブラッディに会えないなぁ〜……」
もうちょっとブラッディと話がしたいんだよなぁ〜。今の内に大学生の知り合いを作って、そこから交流を深めていきたいんだけど…………
「はぁ…… 仕方ない、風玲亜ちゃんと合流して食堂に行こうっと」
プリントを整え、頭痛にも耐え、そして重い足取りで私は部屋を出た。
食堂に向かって歩いている道中に、ふと窓の向こうの部屋に沢山の人が集まっているのが見えた。そこは多分講義室で、今まさに講義を受けているんだろう。
「……あっ、あそこにブラッディがいる」
私とブラッディとの間にかなり距離があって不確かな自信だけど、周りの人よりも一回り背が低く見えるからブラッディだと思った。
「ふむふむ、大学の講義ってあんな感じなんだなぁ〜…… ちゃんと見て覚えておこうっと」
ブラッディと私との距離は少しだけ遠いから、よく目を凝らさないとよく見えないかもしれない。
それに双眼鏡が無いから、裸眼でブラッディらしき人物を窓越しに覗き込まないといけない。
「ブラッディはあそこの席かな……? うんうん、あの雰囲気は確かにブラッディだね」
しっかりと講義に取り組むブラッディの姿を眺める私。その時、ブラッディと目が合ってしまった。
『…………ッ‼︎‼︎』
ブラッディが私からの視線を感じたのか、ものすごく驚いた様子を見せている。
どうやらブラッディは私だって気付いたみたいだね。あの様子だと、どうやら自分が熱烈な目つきで見られているって気付いたみたい!!
「さてと、早く食堂に向かおうっと‼︎」
私が見たいものも見れたし、ウキウキ気分で私は一星大学の食堂へと歩き出した。
「風玲亜ちゃ〜ん!! こっちこっち!!」
食堂へ先に来ていたのは私。風玲亜ちゃんが来たのは、それから二分後だった。
「ねぇどうだった⁉︎ 法学部の話、楽しかった?」
「えぇ、楽しかったですよ!! 一時間程かけて法律の在り方について教わりました!」
それ、ホントに楽しかったのかなぁ…………?
私は風玲亜ちゃんのそういう勉強熱心なところも好きだけど、ちょっと別の意味で心配なところがあるからさ…………
なんかもう今の発言で、少し不安な気持ちだよ。
「それじゃあそろそろ時間も時間だからさ、一緒に学食でお昼でも食べようよ!!」
風玲亜ちゃんの手をグイッと引っ張って、カウンターの近くにある食券売り場にやって来た。
「うわっ、どれも安い‼︎」
「学食って、どこも安いらしいですよ。何故こんなに安いのかは私でも流石に詳しくないですが……」
「でも、学生の財布には優しいよね。実際私の財布には万札が入ってなかったからね〜」
千円札を一枚入れ、どれにしようか悩んでいると、ふと気になる箇所があった。
「あ、ねぇ見て風玲亜ちゃん!! 学校オススメのグラタンだって!!」
「すごいですね。ここの人の手作りだからでしょうか、一日十食限定と書いてますよ」
十食限定だって⁉︎ じゃあ早速調理師さんに頼もうっと‼︎
「すみませ〜ん、グラタンを二つお願いしまーす‼︎」
『すみません、既に売り切れてます』
「はぅあ……‼︎」
えっ、売り切れるの早過ぎない⁉︎ まだ開いて五分くらいしか経ってないんだけど…………‼︎
「そんな、オススメのグラタン食べてみたかったのに……」
「あぁ、ドンマイですね……」
『あれ? なんか見た事ない子達だけど、ここで何してるの?』
突然後ろから女の子の声がした。風玲亜ちゃんと一緒に振り向くと、そこに立っていたのは二人組の女の子。
私服姿だから、きっと一星大学の生徒なのは間違いない。
「きっと、ここへ見学に来た高校生だと思います」
とてもクールな第一印象の大学生が、さっき話しかけてきた女の子に説明している。二人ともとても良い人そうに見えるから、きっと私達が入学しても覚えてくれてそうだよ。
……あっ、こういう時こそ先輩と仲良くなるチャンスだよね‼︎
「そ、そうなんです…… 私達、八王子の高校から見学に来たんです。ここの歯学部に興味があって」
立て続けに風玲亜ちゃんも口を開く。
「あ、私は法学部です……」
すると元気っ娘が第一印象の子が私と風玲亜ちゃん、どっちかの言葉に反応した。
「ねぇ、今歯学部って言った⁉︎ 私が歯学部の生徒だよ‼︎」
やった‼︎ この大学で二人目の歯学部生徒だよ‼︎
「そして私は、そちらの方と同じ法学部で…… 講義前に一度お話しています」
あ、向こうの人は風玲亜ちゃんとは少なくとも顔見知りなんだね。という事は、説明前の待ち時間に二人は会ったかもしれない。
あっ、そうそう歯学部と言えば、ブラッディは一体どこにいるんだろう…………
「お待たせ」
「あ、お疲れブラッディ‼︎」
食堂をキョロキョロしていたら私達の前にブラッディが一人でやって来た。そして二人と一緒になり軽くお喋りを始めようとした時、ブラッディが私の存在に気付いた。
「…………おつかれ」
すると元気そうな女の子が少し驚いた顔になった。
「えっ、ブラッディこの人達知ってるの⁉︎」
「うん、さっき会った。あと講義中にヘンな目で覗かれた」
「覗いた⁉︎ こっ、この人変態だー‼︎」
「いや変態じゃないですって‼︎ ちょうど窓越しにブラッディが見えて、ちょっと気になっただけでして……‼︎」
必死な説得の甲斐あって、何とか誤解が解けた。ふぅ、危うく変質者呼ばわりされるところだったよ……
「あの…… せっかくなのでご一緒させてもらえませんかね? 私達、もっと一星大学の事が知りたいんです」
ブラッディを含む三人は一瞬たりとも考えず、すぐに教えてくれた。
「うん、良いよ! じゃあまずあそこの席に注文してから座ろっか!」
「それじゃあ、いただきます‼︎」
『いただきます』
元気な女の子に続いて私達も手を合わせた。私は元気な女の子オススメの天丼を一緒に食べている。
「う〜ん、美味しい!!」
「う〜ん、美味しい!!」
「………………」
“じ〜っ……”
えぇ〜っとなんて言うか、三人の目つきが少しだけ変に見える様な…………
「何だかこうして見ていると、あかりさんが二人いる感じがする様な…………」
「えぇ、私も同じ事を考えていました…………」
「…………似たもの同士」
それぞれの食事もある程度進んだところで、私達は会話を再開した。
「それでは、まずは高校生である私達から自己紹介をします。私は月宮あかり、高校二年生です‼︎ 特技は水泳と声芸です‼︎」
一瞬だけ、元気な女の子がピクッと反応した。確か前にブラッディから「灯」って言う変な人が知り合いにいるって聞いたけど……
目の前にいるこの人が、もしかして灯さん……?
「私の名前は日向風玲亜です。私の隣にいるあかりさんと同じく、八王子の高校二年生になります。現在一星大学の法学部を目指して受験中です、どうぞよろしくお願い致します」
さすが風玲亜ちゃん、自己紹介してるだけなのにすごくカッコよく見える……‼︎
「よし、じゃあ大学生を代表してまず私が––––」
「いや、私が先にする」
ブラッディがスッと立ち上がって、口を開く。
「…………ブラッディ・カーマ、歯学部の生徒。大学一年生でルーマニア生まれ。以上」
なんか後ろの二人が「ルーマニア生まれ」に反応してるのがすごく気になるけど、聞かないでおこう……
「よーし、今度こそ私だねっ‼︎」
元気な女の子が勢いよく立ち上がり、息を大きく吸って自己紹介を始めた。
「森野灯、歯学部の一年生ですっ! 自慢の特技は料理だよ!! あかりちゃんに風玲亜ちゃん、今日一日よろしくね‼︎」
灯さんは無邪気なスマイルを見せながら私と風玲亜ちゃんの手を握り、お互いに握手しあった。そんな灯さんが突然元気な声でハキハキと喋った所為なのか、食事中だった周りの人が驚きながら私達を見ている。
がしかし一方で、灯さんはそれを気にしている素振りが全くない。
「では最後に私ですね。皆さん初めまして、私の名前は美山輝夜と言います。一星大学に通う法学部一年生です、よろしくお願いします」
よしっと、これで全員の自己紹介が終わったね。お互いがお互いの顔と名前を覚えたところで、ちょっとした雑談が始まった。
「一星大学って、とても大きいんですね〜。灯さんはここに初めて来た時って、どんな感想を思ったんですか?」
「私が初めて来た時はね、輝夜ちゃんと一緒だったんだよ。その日は色々と凄かったんだよ…………」
何だか意味深な言い方だなぁ、少し気になるから深掘りしてみよう。
「たとえば、どんな?」
「まず、朝が早くて眠かったのを覚えてて、そこから輝夜ちゃんとは一旦別れて学部紹介と施設紹介とかしていたよ。さっきまであかりちゃん達がしていたのと同じ内容だったと思うから、そっちをイメージすると良いよ」
「おぉ、とてもイメージしやすいですね」
「ちなみにね、私達の時は担当の人の胸がデカ過ぎだったんだよ!! そのあまりのデカさに目が行ってたらね、いきなりブラッディに叩かれたんだよ? ヒドくない!?」
「…………あれは灯が悪い」
「あはは…… 他人の胸が大きいと、どうしてもそこに目が行っちゃいますからね……」
そこから更に話が進み、いつの間にか灯さん達に関する話に変わっていた。
「そういえば、灯さんと輝夜さんってどういう関係なんですか?」
「私と輝夜ちゃんの関係? それはもちろん恋人同士の関係、だよ!!」
そう言いながら灯さんは、グイッと輝夜さんの肩を寄せた。その時の輝夜さんの顔は驚きながら灯さんを見つつも、どこかまんざらでもなさそうな表情をしていた。
「あのっ、それってつまり百合関係ですよね⁉︎ 私と風玲亜ちゃんも、つい最近めでたく恋人関係になったんですよ!!」
「あっ、二人ともおめでとう‼︎ ちなみにプロポーズはどこでしたの?」
「あの、えっと…… 釧路の夕日が見える橋の上で」
そう言った途端、灯さんの目がギランと光った。
「えぇ〜⁉︎ 北海道で愛の告白したの⁉︎ ものすごく羨ましいんだけど〜‼︎」
灯さんによると、どうやら北海道へ輝夜さんと一緒に行きたいが、予算や時間などの関係で余裕が全くないらしい。確かに学生って色々と忙しいから大きな旅行ってなかなか出来ないよね~。
「羨ましいですね、夕日を背景に告白………… 憧れます」
どうやら輝夜さんも、ロマンチックな恋愛ムードには強い憧れを抱いている様子だね。う〜ん、やっぱり北海道には都会育ちの私達には無い何かがあるんだよ。
その何かが、私達の秘めた心を開放的にする理由があるはずだよ、きっと。
「良いなぁ〜、私と輝夜ちゃんは遠足で行った星乃川動植物園って所のベンチで恋人になったんだよ。あの時の輝夜ちゃんの攻めた行動は今でも忘れられないよ〜」
「ちょっと灯、それは恥ずかしいので言わないで下さい……‼︎」
「えぇ〜、でももう言っちゃったし〜‼︎」
「もう…………」
灯さんから甘い過去を暴露されて顔を赤くする輝夜さん。そんな二人の様子が、完全に恋人関係そのものだった。こういうのは見てて癒される光景なんだけど……
「…………………………」
一言も喋らず隣で静かに座って、ただジッとしているブラッディがふと気になった。よく見ると食事した痕跡もないし、ずっと気配を消していた様子でもなさそうだし…………
「ねぇ、ブラッディ……」
「ん?」
「ブラッディさ、お腹とか空いてないの? 全然食べてないけど……」
ブラッディはお腹をさすりながら答える。
「私は食事とかほとんどしないし、おやつも食べない。でも心配しなくて大丈夫。拒食症とかじゃないから」
「そう………… なら良いけど」
さっきまで一口も食べ物を口にしてる様子が無かったけど、本当に大丈夫かなぁ…………
でもこれで「ブラッディ人外説」が濃厚だね。だからと言って、ブラッディの正体とかは詮索してまで気になる程にはならないけどね。
「はぁ、はぁ…… とっ、とりあえずごちそうさまでもしようか。みんな食べ終わった?」
確認が終わると灯さんは手を合わせ大きな声で、
『ごちそうさまでした‼︎』
感謝の言葉をかけた。
「灯さん、輝夜さん。大学の講義頑張って下さい!!」
「ありがとーあかりちゃん!! 私頑張ってくるよ!!」
灯さんは元気よく手をブンブン振って返事をして、輝夜さんは微笑みながら手を振ってくれた。
「ブラッディも、頑張ってね!!」
「うん。頑張る」
ブラッディはシンプルに返事をしてくれた。グーサイン付きでね。
「よしっ、それじゃあ私達は午後の部を頑張ろっか!! 風玲亜ちゃん!!」
「そうですね。三人にもう一度会う為にも頑張りましょうね、あかりさん」
それから私と風玲亜ちゃんは昼から始まる模擬授業に参加した。
私達と同じ高校生だけが集まり、歯学部と法学部それぞれで授業が始まった。私が学んだのは歯の仕組みやそれぞれの歯の名前だった。
「お疲れ風玲亜ちゃん!! そっちはどうだった?」
「お疲れ様です。こっちは日本国憲法について学びました」
……その、何というか。本当に風玲亜ちゃんは難しい法律を学んでて楽しいのか気になるんだけど。
「それじゃあ、もうホテルに帰ろうか」
「はい」
私達二人は、八王子には明日帰る事になっている。だから今夜は星乃川市内のホテルで一泊してから帰る事にしている。
ホテルまでは歩いて二十分程だから、それなりに今日の事で話が出来るんだよね〜。
「ねぇ風玲亜ちゃん、輝夜さんとはどんな事を話したの?」
「輝夜さんとはお互いにプライベートの話をしましたよ。好きな事や将来行きたい場所など、何でも話しました」
輝夜さんと風玲亜ちゃんでプライベートな話を、ですと?
なんか、羨ましい‼︎
「あかりさんは、お二人とはどんな話をしました?」
「私は、実はほとんど何も聞けなかったんだよ……」
ブラッディからは歯について学ぶ場所と聞き、灯さんからは輝夜さんとの関係と自分達の時の担当の胸が大き過ぎた事しか聞けなかった…………
「もし今後、どこかでバッタリ会ったら今度こそお話したいなぁ……」
そしたら大学の先輩として出会う以前に、偶然知り合った親友として接する事が出来るのかな?
「きっと、会えますよ」
風玲亜ちゃんが、突然強めに口を開いた。
「きっと会えます。またいつか、何処かで……」
……えっと〜なんかさ、子供向けアニメ映画のラストシーンみたいなノリだけど大丈夫かなぁ?
本当に次があるのか、少し心配になってきたよ……
「ねぇ風玲亜ちゃん、あのさ」
「はい?」
一度呼吸をはさんで、口を開く。
「私達が大学に受かって、ある程度お金とかに余裕が出来たらさ…… ルームシェアとかどうかな?」
「ルームシェア、ですか……」
「うん。もし風玲亜ちゃんが良ければで良いんだけどさ、少しでも良い部屋で二人きりの生活をしながら大学に通ったりさ。なんて言うか、その、結婚生活みたいな事が出来たらなぁ〜って」
言っちゃった。ついに言ってしまったぁ‼︎
風玲亜ちゃんに、遠回しな婚約宣言を……‼︎
「ど、どうかな?」
恐る恐る風玲亜ちゃんの顔を見ると、風玲亜ちゃんは怒っていなかつた。
むしろ顔を赤くして、喜んでいた。
「……大学に入れたら、一緒に暮らしましょうね。あかりさん」
「あぁ…………‼︎」
風玲亜ちゃんのその一言で、私の心が幸せに満ちた。それと同時に、何としてでも大学へ入る決意も満ちた。
「私、絶対に一発合格する‼︎ そして合格通知で風玲亜ちゃんを驚かしてみせる‼︎」
「はい、期待していますよ」
ホテルに着くまでの道中、私達は手を繋いで歩いた。
相手の愛を感じる、恋人繋ぎで。
「はぁ〜、やっと着いたねぇホテルに」
午後の四時過ぎくらいにホテルにチェックインした私は、部屋に入るなりすぐにベットに倒れた。風玲亜ちゃんは腰をゆっくり下ろして、ベットに座り込んだ。
「さてと、これからどうする? 一緒に夕食でも食べに行く?」
「良いですね。では、私と一緒に街を歩いて食べに行きましょうか」
風玲亜ちゃんが自分から手を伸ばした。私はその手を握って、一緒に部屋を出て夕焼けの街へと飛び出した。
星乃川市内の街は、都会として見ると静かな街並みの印象だけど実は観光名所がいくつもある。
だけど、今回は観光目的じゃなくて進学目的。当然私達は何の情報も持ってないからすぐ近くで開いていたお店で夕食を済ませた。
「明日になったら八王子に帰れるね。風玲亜ちゃんは帰ったらまず何をしたい?」
「そうですね…… やっぱり受験勉強をするかと思います」
うん、風玲亜ちゃんらしいと言えば風玲亜ちゃんらしいよ。でもたまには…………
「ねぇ、お風呂どっちが先に入るか決めようよ。流石に二人で入るのはまだ恥ずかしいしさ、私達ってまだそこまでの関係じゃないし…………」
「……そう、ですね」
あれ、なんかヘンな空気なったよ?
私はほんの気遣いのつもりで言ったんだけど、まさか風玲亜ちゃんは私と二人でお風呂に入っても良かったとか?
「……では私が先にお風呂入らせて貰いますね。それでは」
そう言って浴室へ入る時の風玲亜ちゃんの表情は、何かを期待していたのか少し残念そうな顔だった。それに気付いたはずなのに私は、そんな風玲亜ちゃんを呼び止める事が出来なかった。
「……………………」
向こうで服を脱ぐ音が聞こえ、その後シャワーを浴びる音が聞こえてきた。風玲亜ちゃんと私との間に流れるこのヘンな空気が、私の心をモヤモヤさせていく。
“さっきの風玲亜ちゃんの表情、まるで私と入りたかったかの様だった……”
今からでもお風呂に入るべきなのか、そんな事を考えていると突然スマホの電話が鳴り出した。
“こんな夜遅くに、お母さんかな?”
スマホの画面に目をやると、そこには普段あまり見ない通話表示があった。
「あれっ? 電話してる相手が分かんない……」
電話の相手は「非通知設定」だった。恐る恐る電話に出て向こうの声を聴くと、かけてきた相手はお母さんでも美紀でもなくて、今日会ったばかりのあの人だった。
『…………もしもしあかり、元気?』
「あ、うん。まぁまぁ元気だよブラッディ」
ブラッディから私宛てに電話なんて、ちょっと意外だな。でも一体どうしたんだろう?
なんか声のトーンが大学の時よりも、すごく重く感じる気がする…………
『……そう、なら少し話しても大丈夫そうだね』
向こうから聴こえるブラッディの声以外には何も聞こえない。もしかしてブラッディの家から私にかけてるとか?
『ところで、今そっちは家?』
「ううん、ホテルだよ。家には明日帰るんだ〜。ブラッディは家にいるの?」
『いや、ちょっと違う。今は百合園荘って言う女性専用アパートで輝夜と灯が暮らしてて、私が今そこにお邪魔してる』
そっかぁ~、灯さんと輝夜さんは二人暮らしの生活をしているのかぁ~。でも何かその割にはブラッディの話し声以外に物音一つしない様な…………
「なんかさ、そっち静か過ぎない? なんて言うか、ブラッディだけ灯さん達の部屋から出てる感じなんだけど…………」
『それはちょっと部屋に入りづらいだけ。とても良い雰囲気だから二人きりにしてる』
うん、何となく二人が何してるか分かったかも。
「そっか。じゃあブラッディは部屋から出て自分のスマホで話してるんだね」
『うん、そういう事』
それからしばらくブラッディと軽く話が進み、今度は私達の話になった。
『あかりは今どう? フレアと仲良ししてる?』
「うん、してるよ。風玲亜ちゃんととっても仲良く」
『じゃあ、二人はどこまで進んでるの?』
「どこまでって、えっと…… まだAだね」
『……Aって、どういう意味?』
「う〜んとね、人によって基準が少し違うけど大体は手を繋ぐって意味だよ。あのさ、一応念の為に聞くけど灯さんと輝夜さんって今部屋で何をしてるかな…………?」
何となく予想が付いてるけど、大事な事だから念の為に聞いてみる。
『……裸で抱き合ってる』
「ですよね〜…………」
うんそうだよね。灯さんも輝夜さんも成人を迎えてるから、そういう事をしてても何もおかしくないよね。
お互いがお互いを愛し合う関係、ラブミーラブユーな関係って事だね。
『…………ところで、あかり』
「ん、どうしたの?」
ブラッディが何か質問したそうな雰囲気を出してきた。ブラッディは少しだけ私に喋る事を躊躇した様子だったけど、ついに口を開いた。
『あかりはさ、異種恋愛についてアリだと思う?』
「う〜ん、これまた随分と難しくて悩む質問だね…… 先に聞くけどそれってさ、子孫繁栄とか無しでの話だよね?」
『うん、これは恋愛の自由についてのとても真面目な質問』
まさかブラッディから恋愛相談されるとは思わなかったなぁ。しかも質問の内容が異種恋愛について。
絵本を今も読んでる女の子なら、異種恋愛は賛成かもしれない。でも今はそういうムードじゃなく、マジで真面目な話。
もしこの話に子孫繁栄が絡んだとしたら、すぐに異種恋愛は根本的に否定されちゃうよね。でもこれは討論の場なんかじゃなく個人としての異種恋愛相談、しかも人外説濃厚なブラッディからの真剣な恋愛相談なんだよ?
ここは私の心からの意見を、ブラッディへ正直に伝えないと……‼︎
「お互いの種族がどうであれ、他人の恋愛を否定する権利なんて無いと思うよ。私はブラッディが自分に正直になれないのは何となく分かるし、ブラッディが好きな人が誰なのかも何となく分かるよ。たとえブラッディの恋心が片想い止まりでも、それだけでも十分に恋愛と言えるんだよ。だからさ、ブラッディには自分にもっと正直になって欲しいんだよ。これから先ずっと自分に嘘を吐き続けていくと、その沢山の嘘をキッカケに時間をかけて何もかも壊れていって取り返しのつかない事になっちゃうんだよ………… ブラッディにはそんな思いをさせたくないし、そうなってほしくないからさ………… だって実際に、私自身がそうだったから…………」
中学生の時味わった人生一のトラウマを思い出してしまい、大きめの涙が溢れてきた。鼻をすすりながらスマホを耳に当てているから、当然ブラッディに泣きかけてる私の様子が伝わっちゃう。
『…………うん、分かった。相談に乗ってくれてありがとう』
「ううん、お礼なんていらないよ。私は友達として当たり前の事をしただけだから」
『……ありがとう』
気のせいか、ブラッディの声には元気が戻った感じがある。
『それじゃあ私はもう切る。まだやる事が残ってるし、そっちもそっちで良い雰囲気みたいだし』
……そっか、ずっとシャワーの音が聞こえてたんだね。確かに音だけ聞いてれば良い雰囲気ではあるから、あながち間違ってはいないね。
『じゃあ、次に会うのは一年半後。私達は一星大学と百合園荘で待ってるから』
「うん、私も合格出来る様に頑張るよ。じゃあねブラッディ、おやすみ」
『…………うん、おやすみ』
ブラッディとの電話を終えるとほぼ同時に、風玲亜ちゃんが浴衣姿でシャワーから上がった。口を使わずアイコンタクトで合図を送って私はお風呂に入った。
“う〜ん…………”
さっきまで風玲亜ちゃんが使ってたからなのか、とても変な気分になる。
すぐ隣にトイレがあるからじゃなく、本当に手前の人が使ってたお風呂という如何わしい妄想が私の下心を爆発させようとしてくる。
“やっぱり私、エッチなのかなぁ?”
学年で一番のスケベ女子は美紀だと思ってたけど、「もしかしたら私が一番スケベなのでは?」と想像すると恥ずかしさがこみ上げてきた。
“でも、こういう下心がないと相手に愛を伝えられないから……”
だから私はあの時、風玲亜ちゃんに「好き」と言えた。
でも、その先は一度もした事がない。
だって怖いから。
もし風玲亜ちゃんにいきなりキスをして、私の事が嫌いになったらなんて考えるとキスなんてしない方が良いと思ってる。
でも、もし風玲亜ちゃんが誘ってきたとしたら別。もし風玲亜ちゃんが良いなら私は風玲亜ちゃんの唇を奪いたい。
“……やっぱり、私ってチキンだな”
でもあの時の風玲亜ちゃんが浮かべてた複雑な表情を思い出すと、何だかとても変な気分になる。
風玲亜ちゃんが、私に対して何かを求めている。そんな思いを表情で示していた感じ。
“……………………”
お湯で濡れた自分の指を見る。そして、恐る恐る下へと下ろし軽く曲げて動かしてみる。
「うっ…… くぅ……っ」
こういういやらしい事って初めてしたけど、思ってたよりもフワフワした気分になれるんだね。
“…………風玲亜ちゃん”
浴衣姿になってお風呂から出ると、風玲亜ちゃんは意外にもテレビドラマを観て待っていた。
「お風呂、気持ち良かったね」
「はい、気持ち良かったですね」
風玲亜ちゃんの隣に座ってみる。風玲亜ちゃんが近いから顔がよく見える。私と目が合った瞬間、風玲亜ちゃんは顔を赤くしながら視線を逸らした。
「風玲亜ちゃんって、ドラマとか観るんだね。ちょっと意外だよ〜」
若干棒読み感がある会話になっちゃったけど、少しずつムードを作ってみる。
「はい、子供の頃からドラマは観ているんですよ。昭和のドラマも観ているので、ドラマオタクってところですかね」
思ってたよりもドラマ好きなんだなぁ、風玲亜ちゃんって。
「ねぇ風玲亜ちゃん、恋愛とかでよく見かけるアレ…… やってみない?」
「アレって、キスの事ですか?」
「う、うん。私ね、結構恋に消極的だから上手く言えないんだけどさ、その…… 私は風玲亜ちゃんの唇が、欲しいなぁ〜って」
その時、気が付けば風玲亜ちゃんが目の前にいて、今にもキスしちゃうくらいに近かった。
「……私も、あかりさんとキスしても良いですか?」
風玲亜ちゃんが、私の唇を欲しがっていた。私も風玲亜ちゃんの唇が欲しいから、当然答えは言うまでもない。
「うん、一緒にしよっか」
お互いの唇が少しずつ近付けば近付く程、心臓の鼓動が強くなる。私は恐る恐る風玲亜ちゃんの胸元に手を置き、ついに風玲亜ちゃんの唇に自分の唇を当てた。
「……………………」
一度唇が当たっただけで、風玲亜ちゃんが欲しい気持ちが一気に押し寄せてきて、いつの間にか理性が抑えられなくなっていた。
ドラマチックに言うとしたら、その後何をしたのかを忘れる程に…………
「ん………………」
目が覚めた。いつの間にか寝ていたみたいだけど、まだ暗いや……
いや、カーテンを閉めてたから暗いんだねコレ。隣で寝ている裸の風玲亜ちゃんを起こさない様にベットから下りて、こっそりとカーテンをそっと開ける。
「うっ、眩しい……」
朝日がちょうど私の目に差し込み、一瞬だけ目の前が真っ白になった。
あんまり記憶に残ってないけど、嬉しかったのだけは覚えている。それに何だか幸せな気分。
私、月宮あかりはついに日向風玲亜と、正真正銘本当の恋人同士になれたという事なるんだね。
「起きて、風玲亜ちゃん。もう朝だよ?」
優しい声で風玲亜ちゃんを起こすと、すぐに目が覚めて私と目が合った。
「……おはようございます、あかりさん」
風玲亜ちゃんの目つきは、幸せな少女の目つきそのものだった。
「そろそろ朝食の時間だから、着替えて一緒に行こうっか」
「そうですね、一緒に着替えて一緒に行きましょうか」
何だか新婚さんみたいなムードになる。でも、こういう雰囲気こそ本当の幸せってやつだよね。だから私は改めて、風玲亜ちゃんの唇にキスをする。
「ちょっと、いきなりは……」
「ふふっ、目覚めのキスだよ!!」
昨日まで消極的だった私はまるで嘘のように変わり、自分からキス出来る様になっていた。
「もう…… あかりさんったら」
顔を赤くしながら、風玲亜ちゃんが私服を着始めた。
「…………でも、嬉しいです」
「どうもありがと」
お互いに身だしなみをチェックして、ベットを整えて荷物を整理する。
「朝食を食べたらすぐにチェックアウトして八王子に帰る。そして家に帰ったら、両親に私達の関係をもっと真剣に伝えようか」
「はい、そろそろ人生の分岐点ですからね。両親に本気を伝えないといけませんしね」
日本での同性カップルはまだまだ認知されてないからね。出来れば認められた場所で結婚して、二人で幸せに暮らせたらどんなに幸福な事か…………
「そういえば風玲亜ちゃん、ちょっと確認したい事があるんだけどさ……」
「何ですか?」
念の為に、風玲亜ちゃん本人に聞いてみる。
「風玲亜ちゃんは私と結婚、したいかな?」
風玲亜ちゃんに、本音をぶつけてみた。すると風玲亜ちゃんは満面の笑顔を見せてくれた。
「はい、もちろん‼︎」
その一言で、私の心はお祭りフィーバー状態になった。もう今から結婚の誓いを立てたい程に。
「じゃ、じゃあ私と結婚してください‼︎」
そして本当にしてしまった。
「…………はい、喜んで」
風玲亜ちゃんが私の手を握る。その手の温もりを感じて、また心臓がドキドキしてきた。
“あぁ、大好き……”
「いつの日か、とても素敵な場所で、あかりさんと私との結婚式を挙げましょうね」
結婚式。その言葉を聞くだけでお互いの花嫁姿を想像してしまう。
そして、誓いのキスも。
「うん。大人になったら絶対に挙げようね」
お互いに手を絡めて恋人握りにしながら肩を寄せ合い、互いの愛を手の平で感じながらゆっくりと部屋を出て、そのまま朝食のあるレストランへ二人だけで歩いて行った……………………
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