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ロイド・アンドーはクロオビである


 ゴブリンとの戦いから三十分くらいか。

 息も整い気持ちも落ち着いてきた。

 虫を殺すのとはワケが違うんだ、精神的に脆い人物であれば嘔吐くらいしてたかもな。しかし、オレは案外タフなハートの持ち主だったらしい。一応だが割り切りは出来た。

 今はそれよりも、もっと優先すべき切実な欲求がある。


「おい、ビッチ。人が居る場所ってどっちだ? 町でも村でも何でもいい」

『……何故かしら、「クソ女」よりも「ビッチ(イヤな女)」と言われた方が穢された気がするのは。あとは貴方のコミュ力も疑いたくなるわね」

「そうか? 気にし過ぎだ。それにサポートを要求するのは契約の範囲内だろ?」

『なるほど、()()、ね』

「そう、()()、だ」


 現状、オレとこの女との関係は只の「話し相手」だ、オレからすればな。

 この女がオレを生き返らせた?

 この女がオレの神?

 知らないね。オレはこの女と、何の関係も結んじゃいない。


 実際は違うのかもしれない。

 この女は本当に神だといえる何か強大な力を持っているのかもしれない。それでオレを強制的に従える事も出来るかもしれない。或いは、もっと単純に神罰を下すとか。

 そんな事が可能か不可能かは兎も角、オレに用があるのだけは確かだ。態々オレを生き返らせて扱き使おうとする何かが。


 だが、()()()()()()()、だ。

 この世界は、もうオレの知る世界じゃない。親兄弟も友人もいない。正直これからどうして良いのかオレ自身にも分からない。生き甲斐を無くし、生きる意味も無いのかもしれない。

 だが、死にたいわけじゃない。ゴブリンと戦って、殺して、改めてそう思った。

 そして、この女の言いなりになるつもりはない。何の義理も感じていないからな。


 だから要は、ギブアンドテイクだ。

 それに足る信用を互いに融通する気はあるのか。ソレをオレは、この女に問うている。

 オレを生き返らせた事はギブじゃない。オレの意思を汲んでいないからな。


『ふむ……。まぁいいわ。私と対等に遣り取りしようなどとは不遜だ!……と言う事も出来ますが。多少面倒ではあるものの、「面白い」と答えておきます。貴方はその方がいい仕事をしてくれそうですし。しばらくはそんなユルい感じでいいです』

「しばらくは?」

『仮契約ってことで』

「ナルホド」


 そうか。

 うーむ。コレはやはりオレが不利なのかな? 互いに決定的な言質は与えてないが、釘を刺された様だし。それ相応の働きをしないと対価を取り立てる、とも取れる。

 やっぱり思考を読まれてるのは痛いな。片方だけ手札を晒してポーカーしてるみたいなもんだ。ゲームになってない。


『貴方ねぇ、慎重なのはいいけど、ちょっと難しく考え過ぎよ? 悪いようにはしないって言ったじゃない。少しは信用しなさい!』

「いきなり落とされなけりゃ、もう少しは信用してたさ。自業自得だろ」

『はぁ〜。これが日本人だったら「貴方は勇者です」とか「貴方は選ばれし者です」とか言ってたら進んで働いてくれるチョロさだったのに。初動ミスったわ』

「……そうか?」


 おかしいな。

 確かに日本人は親切だとかお人好しってイメージが強いが、そんなにチョロいのだろうか? 警戒心が無さ過ぎてアホ丸だしにしか聞こえないんだが。

 教えてくれ、ママ。


『嘆いても仕方が無いし、取り敢えずは良しとしときましょ。その代わり、貴方にはまず強くなってもらいます。宜しくて?』

「オーケーだ」


 どの道、危険は多いらしいしな。損はないだろ。


『それで、人がいる場所よね? だったらアッチ』


 言われて、頭の中に何かイメージが流れ込んで来る。


「ソッチかよ」

『そ。ご苦労さま』


 今まで歩いたり逃げたりしたのとは真逆の方向だ。

 首を振って仕方無く歩き出す。


「どれ位の距離なんだ?」

『普通に歩いたら二、三日掛かるんじゃない?』

「……ボーイスカウト、真面目にやってればよかったよ……」


 サバイバルか……不安だな。


『何でも自分から取り組むのは感心するけど、貴方、もう少しサポートを頼ったら? このままじゃ人と会う前に餓死するわよ』

「頼めばパンとワインでも恵んでくれるのか?」

『料金マシマシで』

「じゃあ結構だ」


 このカミサマの慈悲は売り物らしい。

 この女の聖書とか有ったら読んでみたいな。信者にも会って……いや、見るだけでいいか。どんな活動をしているのか、見物(みもの)だ。

 それにしても、食料を用意できるのか……。こんな何もない場所にいきなり食べ物が出てくるのなら、ソレこそ「神の奇跡」だ。名乗りも伊達ではないらしい。

 あまりナメてるとホントに神罰とか下りそうだな。


『ふふっ、そうね。そんなに私に頼るのがイヤなら、自分で用意できるようになればいいんじゃない?』

「………出来るのか?」

『ええ、教えましょうか? あ、これは貴方が強くなる為に必要な事だから、サポートじゃ無いわよ』

「そうか、そういう事でいいんなら教えてくれ」

『ふっ、「お願いします」……よ?』

「………ぷ、ぷりーず」


 そんな訳で、オレは魔力と云うモノを教わった。

 曰く、テンプレだし説明するのも面倒くさいくらい解かりやすい習得法が確立されているらしい。ソレも常識なのか?

 なぜ教えてくれなかった、ママ。


「………」

『そうそう、そうよ。身体中に魔力を巡らせて、循環させて、加圧して』


 魔力による身体強化、と云うモノらしい。

 なるほど。

 筋力が増し、持久力が上がり、耐久力が備わり、感覚が鋭く冴え渡る。


「スーパーマンにでもなった気分だ」

『はい、おめでとー』


 この全能感に酔ってしまいそうで怖い。

 しかし―――


「なぁ、これでどうやって食料を用意するんだ?」

『走ったら? 人のいる所まで』

「………」


 ま、まぁ待て、落ち着け。考えろ。

 そうだな。運動能力が上がったんだ、これで狩りなどしてはどうだろうか? そして獲物を仕留めたら、捌いて火起こしして焼いて齧り付く。

 ……うん、人のいる所まで走ろうかなー。


 ◇◆◇


 モーターバイク並みの速度で平原を疾走している中、ビッチが話しかけてきた。

 しかし、こんな速度で走っている自分が信じられないな。


『貴方、実は結構強いわよね? 何か武術でもやってるの? ゴブリン三匹とやり合って、よく無事だなーって思ってたのよ』


 まて、ゴブリン一匹の評価がよく分からない。まぁ、あまり大した相手ではなかったが。素人の三人相手と考えていいくらいだった。

 ちなみに、走りながらの会話は継続するとキツいので、思考で話している。


『そうね、脅威度はこの世界でもそんな感じね。大人なら多少泥臭い戦いになっても勝てるくらい。但し、命がかかっているけど』


 お前が容赦が無いのは良く分かった。実力も不確かなオレに現実ってヤツをご教授くださったわけだ。

 幸いにも、オレはママの勧めで幼い頃から柔道を習っていた。

 ありがとう、ママ。お陰でオレは無事です。


『ふーん。それと、頭も結構優秀なのよね? 専攻は法学なんでしょ?』


 ハーバー○だ、って言って分かるのか? まぁ有名な方だな。俺自身が優秀かどうかは分からないが。


『……へ、へー。ナルホド。それで、背が高くて、体格も良くて、顔は……まぁ悪くわないわね』


 客観的な評価だ。

 知っての通り、オレは少し口が悪い。人とトラブるのも珍しくない。まぁ、それで増えた友人関係も多いがな。


 ………。


 おい、どうした? 何か言えよ。


『………バ、バリバリの勇者ポジションッ………!』


 コイツの言う事は理解不能だ。


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