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ロイド・アンドーは米国人である

投稿に至って、ここで一句


 適当に ダラダラ続けば うれしいな


「…え〜とぉ? え? あれっ? 貴方、日本人じゃないの?」

「……違う」


 そう問いかける女に、些か低い声で答える。

 余程鈍感でなければ、そこに不快感が込められてるであろう事は察せられるだろう。

 若干失礼な態度だが、コレばかりはオレ自身もそんな自分に頭を悩ませている。


「え〜っとぉ…。アンドウ ロイd「シャァラァッップ!」」


 目の前の女が「ヒィッ!?」っと肩を竦ませて身を仰け反らせる。

 しまった。くそっ。オレの悪いクセだ。


「……オレは、アメリカンだ」


 クソ不味いコークでも無理やり飲まされた様な顔で、オレは吐き捨てた。

 どうせオレはアメリカのコークよりも日本のコーラの方が舌に合う日系ダブルだよ。


 ◇◆◇


 オレは米国人である。日本人の母と米国人の父を持つハーフだ。

 最近では混血の事をハーフとは言わず、ダブルやミックスと呼ぶのが世界的だ。何でも「半分」という表現はネガティブイメージらしい。

 オレはどちらで呼んでくれても構わない。自分の血にそんなイメージは抱いていないからな。まぁ、そう言う奴らの気持ちも分からないではない。自分自身に拘りが無いなら、世間の風潮に合わせるだけだ。


 そんなオレだから、アメリカ国籍に特に誇りを持っているわけでもなく。

 日本人の血を特別に嫌っているわけでもなく。

 だから問題は―――


「もしも〜し? アンドウロイドさ〜ん?」

「ア゛ア゛ァッ!? 今何て言ったっ。オレはアイ○ンマンじゃねぇ! あとスマートフォンでもねぇからな!」

「……ええ〜。何この人? 意味分かんないんですけど…」


 ファミリーネームを先に言うンじゃねぇよ!


「ってか、アンタは何なんだよっ、誰だ!? というか……何処だココ!?」


 そう声を上げながらも混乱気味に辺りをキョロキョロと見回す。

 オレが今ついつい怒鳴ってしまった女は、そんなオレの醜態に引き顔を向ける。

 だが待ってほしい。

 オレは、つい今しがた出会って早々いきなりで自己紹介を求められたから答えただけだ。まぁ……そこから少々、個人的に、どうしても主張したい事で声を荒げはしたが。

 なのにこの女は、そこから初対面のオレに対して自分を名乗るでもなく失礼な言葉(俺主観)を吐くのだから抗議の一つもしていいはずだ。

 更には、そんな茶番を演じているのは――白い、ただ白いだけの場所だと遅ればせながらも気が付いてしまえば、パニックを起こしても仕方ないだろう?


 ソコは只々白いだけの空間で、広さを測れる物は何も無く。ソコにはオレと、目の前の女だけ。

 本当に他には何も無くて、だからそれ以外から何を理解出来るわけもなく、何も分からずに呆然とするしかなかった。


「……それで、アンタは誰で、ココは何処なんだ?」


 結局は目の前の女に、そう力無く尋ねる。

 それまで引き顔だった女は、パニックを起こすオレを思案顔で見つめていて。


 ソイツは変な女だった。

 金髪碧眼、テンプレートなコーカソイド。だが身体は華奢で、そのくせにグラマラスで。背もそこまで高くはない、185cm位のオレの肩くらいか。

 服は……コレは服か? ビキニにカラフルなフリルを付けて、パレオを巻いてポンチョを羽織って? アラブのセレブでも重くて嫌になりそうなくらい身体中にアクセサリーを着けてるぞ。何だコレは? 大丈夫か?

 顔はティーンエイジャーだな。将来はキレイになるだろうと予想できるくらい整っているが……。

 あ、ダメだな。戸惑っているオレをみて、何故か得意げに頷いてる笑顔が気に入らない。ノーセンキューだ。


「フフンっ、まぁいいでしょう、混乱するのも仕方ありません。こちらも少し想定外だったので取り乱しましたし、おあいこです。説明しますので落ち着いて聞いてください」


 取り敢えず頷き返すと、女は益々得意げな顔をする。……何だ? この女は、初対面のオレに対して優位性を持っていると主張してるのか?

 それは―――


「まずアンドウさん、貴方は死にました」


 ………は?


「ここは神界です」


 ……パードゥン?


「そして私は………、私は、女神です!!」

「………オーマイガッ………」


 オレは目を手で覆い、空を仰いだ。

 なんてコトだ。こんなティーンが神を自称する程に、社会の闇は広がってしまっているのだろうか?

 オレは日本人の母の影響か、そこまで熱心なクリスチャンではない。

 しかしそれでも、オレの祈る神は父たるGODである。ほとんど惰性だがミサにも行ってる、偶にな。

 信仰の自由は尊ぶべきだが……。


「……そしてっ! わたしがっ、女神ですっ!」

「おーけー。分かったから二度言わなくていい。お互いに強く生きよう。俺達は疲れているんだ。だからコレは、きっと意識の混濁の見せる幻、夢みたいなものだ。少し休めば何事も無かったかのように、病院のベッドの上で目が覚める。いいね?」


 オレは少女の肩に手を乗せ目線を合わせるよう屈みながら、努めて優しく論す。ここは大人が落ち着いて対応しなければ。


「え? いや、だから、私は女神なんですって! あの、知りません?異世界転移とか転生とかオレTueeとか? 今も流行ってるとか行かないまでも、割とメジャーだと思うんですけど」

「……何だソレは? 君の言っている意味が分からないが?」


 この子は本当に大丈夫か?


「……何ですか、その本気の心配顔は? 何で分かんないですかっ!? 異・世・界っていってるでしょ! 若いんだからコレくらい常識でしょ! それだけでわかるでしょ! 半分日本人なんだからっ!!」

「オレはアメリカンだっ! フザケてんのか!」

「…ウソでしょ? その顔で?」

「顔は関係ないだろっ!」


 人種の坩堝を舐めんな。アジアンだけでも一千万居るわ。


「………チッ、面倒くさっ」

「……おーけー、いいだろう、言ってみろ。オマエの話を聞いてやろうじゃぁナイカ? ほら話せ、オマエの、常識ってヤツをな」


 オレの寛容な笑顔は引き攣っていたと思う。


 ◇◆◇


 この自称神が言うには、オレは死んだらしい。

 オレには覚えがないが死因は事故死。しかも単身事故で自業自得のザマァ(?)らしい。意味不明だ。

 確かにオレは母親の故郷である日本に旅行に来ていた、観光だ。母のグランマとグランパを訪ねたり、景勝地に行ったり、ショッピングしたり。

 だが、そこからアメリカへの帰りのジェットに乗った記憶はないな。最後に何していたか全く思い出せない。え、オレ死んだのか?


 でだ。

 この女は、地球のある世界とは別の世界――曰く異世界の神で。そして、この世界の神に日本人の魂を要求した。理由は「流行ってるから」。


「それがアンタ」

「理解不能だ」

「バカじゃないの?」

「オマエがな」


 オレはアメリカンだ。そしてそんなオレを日本人と間違える神は、オレの知ってる神じゃない。


「あーまぁー、兎に角? アンタには理解できない崇高な目的の為に、私はそれに適した人材が欲しかった訳なのよ。…ハズレだったけど。あのバカ、テキトーな仕事してんじゃないわよ」

「あーそーかよ、それはお気の毒にな」


 イマイチ理解できないが、オレは期待ハズレだったらしい。そんなの知るかよ。

 ……で、オレはこれからどうすればいいんだ? 未だに自分が死んだってコトも信じ切れていないんだが。


「……あーもぅっ。ゴメンナサイ。別に貴方が悪いわけじゃないのっ。ちょっっとした手違いでね? こっちが勝手に手抜k…じゃなくて、えっと……手間が省けると思って準備してただけだから。気にしないで?」

「本音が隠せてないぞ。あとフォローにもなってねぇ」

「そう? 気にし過ぎじゃないかしら?」


 この女、いい性格してるな。


「取り敢えず、オレに用はもうないんだろ? だったらオレを神の御元へ返してくれ。オレは死んだんだろう? 天国で両親を待たなくちゃいけないんだ」


 いや、あまり理解してはいないんだけどな。何となくそう云うものだと思ってるだけで。


「それは出来ないわ」

「は? 何でだ?」


 おい、待て。胸を張って言い切るなよ。何だその、ふてぶてしくも威厳に満ちた顔は。見る者を不安にさせるその顔はっ!?


「私がっ、貴方の神よっ!!」


 ………。


「……オーマイガー……」

「何かしら?」


 オマエじゃねぇよ!!


 ◇◆◇


 全くもってオレには理解できないが、オレは異世界へと送られるらしい。そこで転生――生き返って、この女の要望に従うようにと。

 この女はオレにいったい何をさせようというのか。詳細を訪ねても「それは追々」「悪いようにはしない」としか言わない。

 地球のある世界で生き返らせてはくれないか?とも訊いたがダメだった。何とかしろよ、やはり神は自称でしかないのか。


「それより、貴方を私の世界へ送る前に、現地の事を説明しておきます。心して聞くように」

「おい待て、はぐらかすな」

「いいから聞きなさい。ちゃんと聞いて置かないと、貴方……死ぬわよ?」


 妙な迫力で断言するその姿に、一瞬気圧される。


「……そんなに危険な場所なのか?」

「心配しなくても大丈夫よ、ちゃんとサポートしてあげるから。私が言いたいのは「油断はするな」ということです」

「あ、ああ。分かった」


 神妙に頷けば、女は満足そうに微笑む。いや待て、はぐらかされてないからな。後でしっかり確認するからな?


「さて、貴方が行く場所は「ファンタジー世界」といえば、大体は想像が付くかしら? その危険性とか」

「……トランプの兵隊が襲ってくるのか? 小人になったりとか?」

「………それはディ○ニー。あれはメルヘンであって、ファンタジーじゃありません」


 違うのか? あれこそファンタジーだろ?


「貴方、ゲームとかはやらないの?」

「○ケモンG○はやってたな。あと○ィニング十一」


 まぁ、ハマってたのはジュニアハイスクール迄くらいかな。


「………ハ○ーポッターは、知ってるわよね?」

「ああっ、あぁいうの!」

「………」


 ストーリーは覚えてないが、雰囲気くらいなら何となく分かる…かな? 危険性は……想像できないな、あまり良く覚えてないから。


「……よく、分かったわ。やっぱり何を説明するにしても、共通の価値観というのは大事ね。知識も言葉に付随するイメージも、個によってもこんなにも違う。結論、日本人、マジ便利」


 想像の翼を広げていたら、いつの間にか自称神から何か強烈なプレッシャーを感じた。

 オレは何かこの女を怒らせるような事をしただろうか?


「いい? よく聞きなさい。貴方がこれから向かう先は、モンスターパニックとホラーとオペラとサイエンスフィクションと西部劇とラブでロマンスなサスペンスがアクションするアメコミヒーローの世界よ」


 ……は?


「パードゥン?」

「行ってらっしゃい。せいぜい死なないようにね」


 そう言って優しげに笑い手を振る自称神。

 そして、それに唖然とするオレの身体が、突然に重力から解放された。詰まりは、今まで立っていた場所からの落下である。


「ちょっと待てええええぇぇぇぇ〜〜〜〜………っ!?」


 話が違う。

 その思いで女へ向かって必死に手を伸ばすも、アイツの姿は高速で遠ざかっていく。俺を見つめるその目は、全く笑っていなかった。


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