「あっ」という間に読者を「えっ」と言わせる展開2
さて、前回の続きだ。
前回は『転』の作り方について大雑把に説明した。
一、『Aだと思ったらBだった』のABそれぞれを決める。
二、Bを証明(解決)するために必要な『鍵』を決める。
三、『鍵』を利用したけれどBの解決が困難だということを突きつけ(Bではないということを読者に刷り込み)、Aを強調する。
四、Bを解決(本当はBだったと表明)する。
基本的には、この手順さえ踏めば物語の起承転結の中の『転』をつくることができる。
しかし、これだけではこれ以上どうすればいいのか分からないという方も多いだろう。
なので今回は、ストーリを更にふくらませる方法を説明して行く。
まず、前回説明した『転』の作り方には足りないものがある。
それは、理由だ。
AB法において、私は読者を驚かせるためだけに展開を考えた。しかしそれだけでは矛盾が多く生まれる。当然ではあるのだが、驚くような展開でも矛盾だらけの物語では良くない。
例えば、これまた前回の話を引っ張ることになるのだが、勇者が魔王を倒す物語で出てくる聖剣について考えてみる。
『魔王殺しの聖剣』を勇者が手に入れられた理由。
勇者がそれを手にしようとするのに対し阻害をしなかった魔王の行動理由。
魔王殺しの聖剣で魔王を倒せなかった理由。
主人公が最後に真の力を発揮できた理由。
魔王殺しの聖剣で倒せなかった魔王を、真の力で倒せた理由。
説明しなければならない理由は数多くある。これをきちんと説明しておいたり、もしくは伏線を張っておいたりしなければ、ご都合主義のクソ設定と言われてしまう。
もちろん、説明ばかりが続く作品が良いとは言えない。特に歴史モノなどは物語の説明――起承転結の『起』の部分――が多くなってしまいがち。確かに濃い設定を作るのは良いことだが、設定を語るだけでは飽きてしまう。
あくまでも設定というのは物語を動かすための基盤に過ぎず、読み手が本当に望んでいるのは、キャラクターの心の揺らぎや思いもよらない展開である。
だからこそ、面白い展開とそれをしっかりと支える設定・伏線が必要になってくるのである。
話を戻そう。
ストーリーを更にふくらませるには設定や伏線が必要だと言った。要するに、普通はありえないような展開が起こる『転』を、ありえるようにするための作業。辻褄合わせである。
これは作品ごとに違うのでこうだとは言えないが、前回の魔王のくだりで説明しよう。
まずは、物語の中で不自然だった部分を探して列挙していく。
・『魔王殺しの聖剣』を勇者が手に入れられた理由。
・勇者がそれを手にしようとするのに対し阻害をしなかった魔王の行動理由。
・魔王殺しの聖剣で魔王を倒せなかった理由。
・主人公が最後に真の力を発揮できた理由。
・魔王殺しの聖剣で倒せなかった魔王を、真の力で倒せた理由。
・魔王の出現理由
・魔王を倒す明確な理由
・『魔王殺しの聖剣』を勇者が扱える理由
まだまだ不自然な部分があるのだが、とりあえずこれらを全て説明しなければならない。説明不足では読者に違和感を与えてしまうから、最低限理由を明白にするべきだ。
これらをただ単に説明するというのも一つの手ではあるが、それでは全然おもしろくない。
それに説明しようと思って説明されたものは、それがどれほどドラマチックな話だったとしても、ただの説明だなという印象しか読者に与えることはできない。
ここで、起承転結である。
まず『起』。
キャラクターを行動させるのに必要な情報を説明する。
『平和な王国のあるところに一人の男がいた。とても強く、決して怒らない温和な性格と優れた容姿から、彼は勇者と呼ばれていた』
今回の場合はこのような感じでいいだろう。
これについてはストーリー構成力などよりも地の文の文章力が求められるため、どれだけ面白くできるかというのは著者の努力次第となる。よって説明は割愛させていただく。
最低限の説明が終わったら、次は『承』だ。
物語を動かし始めつつ、キャラクター同士の会話や行動によって『転』に必要な説明を済ませていく。
どう書けばいいか分からないという人は、AB法のBの問題提示や原因の出現、それから『鍵』の情報の一部開示などするといいだろう。
『数百年前に封印されたはずの魔王が、魔族たちの手によって復活した、という情報を、ある日彼は耳にした。魔王が王国に来れば多くの人の血が流れる。彼はそれをなんとしても阻止するため、王国の国宝であり魔王を一撃で倒す力を秘めた『魔王殺しの聖剣』を国王から授かる。壮絶な鍛錬を積んで力をつけた後、魔王討伐に向かった』
今までの説明を理解している方なら、この文章は完全に『転』のための下準備であることが分かるだろう。最大のヤマ場のための情報を、できるだけ自然に開示するのだ。
この時、どんな方法を使ってもいいから魔王討伐達成は可能だと思わせておくのが重要である。
『転』の直前で説明するのも無くはないのだが、そうすると展開が予想できてしまいがちになる。
そして最大のヤマ場、『転』。
張っていた伏線を回収し、読者に刷り込んでいた予想を一気に覆す。
『聖剣を持った勇者は、危険な魔獣を倒しながら歩んでいく。そして、ついに魔王と対面した。不吉な笑みを浮かべる魔王に『魔王殺しの聖剣』で斬りかかる。全ての思いを背負ったその一撃を繰り出した勇者は、攻撃の直後に驚愕した。なんと、聖剣で攻撃したにも関わらず、魔王に全くダメージを与えられていなかったのだ。それどころか、聖剣は剣の半ばから真っ二つに折られていた』
魔王を倒せるだろうと思っていた読者の想像が全部、綺麗さっぱり吹き飛ぶ。
『聖剣が全く効かなかった魔王を前に、しかし勇者は諦めない。勇者は鍛錬で得た新たな力を開放し、自らの精神を犠牲に莫大な力をその身に宿した』
最後に『結』。今までの事柄を収束させて一つにまとめ上げていく。
『人々を守るため限界を超えた力を得た勇者は、折れた聖剣を手に、巨悪の根源である魔王に再び戦いを挑み、見事魔王を打ち倒した』
めでたしめでたし。
こうして物語の起承転結、完成である。
以上が、作者なりのストーリーの膨らませ方だ。
しかし、本当に小説を書くとなれば他にもキャラクターの性格描写が重要になってくる。特にライトノベルではキャラクターが命と言っても過言ではないかもしれない。やるべきことはもっと沢山、膨大に存在している。
この方法を応用するもよし、他に方法を探すもよし。
一つの方法にとらわれないように小説を書き続けるようにして欲しい。
作者になった皆さんが、ストーリーで私を騙しに来るのを心待ちにしている。
『「あっ」という間に読者を「えっ」と言わせる展開2』終