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サントリーニ恋物語  作者: 秋田一騎
1/2

サン恋

「これは二人の内緒だよ」

唖然と私は夜の星空を見上げ、気付いたときには目から頬へと水滴が流れてた。

それはまるで、あの時見た流れ星のように。

——————————



「ギリシャ?」


トマトを切っていた私は一旦、手を止めた。


「そ、ヨルゴに連れてってもらいなよ。彼ギリシャ人で父親がそこに家あるじゃん?聞いてみて行ってきなよ、すっごい綺麗だから。」


母さんが現役のダンス講師だった頃、教え子と一緒に世界中あちこち飛び回って演奏した経験がある。その中でもギリシャ、サントリーニ島は1番のお気に入りらしい。毎日バイト通いの私には夏の間満喫して欲しいような言い草だが、十中八九家から追い出そうと企んでるはずだ。夢のまた夢な話に耳を背け、トマトをまた切り出す。


「そうだね。いつか誘われたら行こっかな」


ヨルゴとは一年生からの付き合いで、大学生になった今でも数少ない親友だ。家が近いせいか子供の頃はお互いの家に行ったり来たりしてよく遊んだ。そのせいかプライベートでも学校でもよく会いお互いの手の内を知っている、腐れ縁ってやつだ。


「あーそうだ、旅行といえばー、突然で悪いんだけどー、めぐと一緒に3週間、日本に行ってくるから。」


ん?ちょっとまって、聞き間違いかな?日本?嘘でしょ?去年四日間しか行けなくて来年はもっと長くいたいって言ったのに?私のぶんは?あー、そういう意味か。私を家から追い出すのではなく、二人とも私を置いて楽しんでくるのか。ナイフを程度よくまな板に叩きつけ真顔で母を見た。


「えーっと、子供が二人いるってことはご存知ですよね?」


「正直にいうと、私の分は先に取れてそのあとにあんたとあの子の分を取ろうとしたんだけど、最後に一つしか枠が空いてなくて、それで、まぁ、彼女を優先したって感じ。去年はあんたの旅行費を卒業プレゼントだったから、今年は彼女的な?思考だったんだけど。まぁ今年が最後ってわけじゃないし、バイトでコツコツ貯めて自分で来な。」


いやぁ、すみませんね。いつの間にか自立した設定になっていて。今度は何を企んでいるんですか?私を家から追い出すんですかねぇ?


「払えないなら部屋の靴を一つや二つ売ったらどうよ。高く売れると思うよ。」


私の靴の価値は知ってても自分の子供の数はわからないのですかね。

「まぁ、そういうわけだからあとはよろしくね。慌てずともちゃんと三週間分の金と飯を置いてってやるから。」


と似非笑いしながら母は寝室へと去っていった。


「とりあえず、その三週間は一人だな。」


少し自己紹介をしよう。私の名前はかずき、一人の騎士と書いて、一騎だ。一人称は私だが、正真正銘の男だ、ガッカリさせて申し訳ない。特技はないが趣味ならある、ファッションだ。現に私は計三十足以上靴を所持しており、ブランド物を着ることが多い。仕事もファッション関係で、商品の輸入を行っている。バイトでつぎ込んだ金はほとんど靴へと変わる、自分で言ってもなんだが、がっかりする男だ。読書は好きだが勉強は苦手で、将来病理学者になるため、資格のため今現在マンハッタンにある大学へ通っている。彼女はいたが残念ながらつい最近別れることになった。原因としては私の自意識過剰すぎる行動に不満をもった彼女は私と別れたいと言って消えた。別れた一か月後には彼氏ができ、幸せそうなリア充となった。「あなたが私のすべてなの。」と言ってたあなたはどこへ行ってしまったのか、人生何が起こるかわからないですね。反省として、私は決意した。これを機に彼女を作るのを一旦拒否した。作らないといけない義務はないし、急いで恋に落ちることなどそれこそ人生の落とし穴だ。まぁ作れないと承知の上での決断だ。なぜならば私には大学で友達が一人もいない、いわゆるボッチだ。これもまた私のくらい過去シリーズにでもしまっておくとしよう。


続いてめぐ、私の妹だ。彼女は今年高校を卒業し、秋から寮に入る。州立大学に入学したからそこそこ頭がいいと思うが事実上、勉強以外は何もできない。家事もできなければ、家系関係も最悪だ。寝ることを特技とするただ普通の妹だ。


母さんは毎日働きながらも家系を支えてくれる。毒っぽいところは多々あるが、そこは息子として見逃しとく。


そして父親。彼のことは最近見かけていない。いざとなって対面するととてつもなく重い空気が流れ避けたい一方、感情を抑える。小さい頃から父親、父さんは仕事のせいで週に一回、ときには月に一回見るぐらいだった。顔は写真で覚えてたから忘れずにいられた。数ヶ月も見ない時もあったが、他の家族に比べたら、私たちの家系はましな方だ。会うことはできないが、生きてるだけで幸せな方だ。私にできることは彼の仕事ぶりに感謝することと大人の事情に首を突っ込まないこと、ただそれだけだ。実はというと父親の職業が全くわからない。前の仕事ではマンハッタンでラーメンやカレーを作っていたが今では西海岸でパソコンをいじってるらしい。朝の五時に家を出て夜の十一時ごろに帰ってくる毎日に比べたら、ましな方だ。怒ったりはするが怖くないし、厳しい場面もあるが乗り越えられる、ただとても不思議な人で理解に時間がかかるだけ。例えば生きるために働いてるのか、働くために生きているのが定かな人だ。言い忘れていたが、両親は離婚していない、ただ別居中なだけ。七歳年の差がある夫婦にしてはよく子供二人を文句なく育ててこれたと思う。人の年齢はただの数字だっていうし、まぁともあれ両親ともに感謝している。父さんもいずれかは帰ってくるだろう。いつか、な。


——————


毎年のようにやってくる期末テスト、今年もあの地獄がやってきた。全てを最後の方に押し付ける悪い癖を備わった私は今年も期末テスト前夜に勉強を始めた。自分のことは自分が一番わかっている。そのせいか断言できる、私を侮るな。私の記憶力と感の良さは群を抜いていると言いつつ、いざとなってテストになると焦るから惨めに思う。加えて厨二病の発言からしてかなり慌ててる。というわけで、今年は新たな作法を導入したいと思う。まず気が散るものは全て他の部屋に置き、別の部屋に移動すること。そしたら、静かな環境ができ勉強が進む。そうと決まったらひたすら日が昇るまで勉強に没頭すること。最初に始めるオススメの教科は得意科目を選ぼう。得意な科目を選考することで自分に自信がつき、内容がスムーズに入ってくる。では、私の得意科目数学を始めようとしよう。


ピリリリーン。ピリリリーン。

嘘だろ。まだ始まって五分も経ってないのに。よし、あれだこれはオレオレ詐欺だ。無視しよう、無視。だがもし、もし母さんだったらどうしよう。一応確認を、いやここは耐えるんだ。耐え、


ピリリリーン。ピリリリーン。


逆に勉強の邪魔になってきた。結論、この勉強の作法はいたって間違いだ。続きはまた今度しよう。私は自分の部屋に走り込みベッドにある携帯をとった。


「もしもし」

「やっほーげんきー?つーかなんで早くでねぇんだよ!?」


ポチ。


無理。今からやっとゾーンに入るところだったのに、八十%から百%以上の力を発揮できるチャンスだったのに。限られた天才(仮)のみが入れる領域にたどり着けるはずだったのに。なんというタイミングだ。


ピリリリーン。ピリリリーン。


ため息をつきながらも、もう一度電話に出る。


「もしもし」

「なんで切んだよ!?まぁ、それはいいとして今暇?」

「いーや私はこれから勉強するので失礼するよ。」

「待て待て一緒に飯にでも行こうぜ。」

「腹減ってない。」

「いいから来い。どうせ勉強もロクなことしてないんだろ?」


ご名答。さすが長年の付き合い、ある意味怖い。ヨルゴは私の邪魔をするのがとても得意だ。スケジュールが合わないときでさえ強引に連れてかれ、用事があるときは「また今度」ではなく、用事が終わるまで待っててくれる。忙しい私に構わずひたすら私との交流を楽しみにしている。迷惑だが彼のそういうところにはとても感謝している。彼は僕の家の事情を知る数少ない人であり、加えて彼の家の事情も似たようなものだからつい共感するところが多々あるのだろう。


いつもならまた今度と言い断るのだが、あいにく今日は朝から何も食べていなかった。私の通う大学はマンハッタンにあり、私が住んでる州、ニュージャージーからだとバスで十五分もかからない場所にある。毎日の通学はひどいもんで、食べ物もそこそこ学生には高い。ホットドッグが五ドルとかふざけてる。よって私は一日中空腹でいられる体質となり、覚醒した。だが肝心なことを忘れていた。私も人間だったということを、いずれかは限界がおとずれてくると。


あきらめ半分な勢いで私はヨルゴにこう伝えた。


「今行く、」と。


靴を履きながら机の上にある教材を見かけた。今年もダメだったか、やれやれ。と自分に言い聞かせ外出した。彼の車に乗り込むと彼はニターと笑った。こいつ、知っててわざと私を誘ったな。つくづく思う、馬鹿だな私はと。


こうして車は発進し、途中で彼の妹をバイト上がりにひろった。とんでもない話をすると彼には血の繋がった姉妹が五人いる。ギリシャ人の家族関連はすざまじく、道の歩いたらある程度の確率でその人となんらかの関係があると聞いたことがある。毎度思うが姉妹五人に兄弟ゼロ人。辛かったろうなぁと同時にハーレム原作の主人公にでもなった気分はどうかといつか聞きたいぐらい羨ましかった。


—————


この日はいきつけの中華屋に行った。いつもながらの注文を済ませ、出来上がるのをひたすら待ちながらスマホをポチポチといじっていた。いじりながらも、ヨルゴと今までの出来事について話していた。彼と会うのは二週間ぶりだが、毎日会っていた高校の時に比べたら二週間はそれはまた長い時期だった。よくよく考えてみると、大学始まってから色々な出来事が起きた。そう、色々な出来事が私を狂わせていた。


無駄話をしているうちに飯ができあがり、私と彼はおもいっきりご飯をほおばった。いつもの味、なんて幸せだ。食ってる最中でも会話は進み、顔を見上げると彼の妹、クリスティーナは彼女の母とビデオチャットをしていた。話しによると彼女の母は彼女のボーイフレンドと一緒に西海岸へと旅行しているらしい。言い忘れていたが、ヨルゴの両親は離婚していて、共に彼氏、彼女がいた。年齢はただの数字というが確かに彼の両親は見かけでとても若い。母に関しては子供五人生んだとは思えないぐらい若さだった。混乱を招かないように言うとヨルゴのもう一人の妹は父親が再婚した時に産んだ子供で、その後も繰り返し離婚した。ヨルゴ自身も自分の家族のことは話したがらず、私もなにも聞かない。人のプライバシーほど関わっていけないものは存在しないからだ。


着々と食べ続けると突然鳥肌がたった。自分でもよく分からないのだが何かが起こる数分前には必ず鳥肌がたつ。第六感とはべつに、神経質という体質から生まれたただの本能だ。私はあたりを見渡し周辺の状況を確認していった。まさかとは思うが、食べ物のなかに栗が入ってるということではないだろうか。栗アレルギーの私にとっては天敵とでも呼べる存在、いつもは栗抜きと言うがさすがにもう私のことを常連として把握してきただろうと思い、油断したのだが、まさかな。


オロオロソワソワとしたその時だった。ヨルゴが満面の笑みでこう告げた。


「ギリシャ、行かない?」


は?彼がそう言った瞬間鳥肌は消え私は唖然とした。


「ギリシャ?」

「そっ、お前とあと他のみんなも。楽しいぜ、ギリシャは。」


母さんとの会話からまだ数週間もたたないうちにこのような出来事がおきるとは。母さんやっぱあんたは化け物だな。だが、これは二度とめぐり合えないチャンス。休暇をとるのも人間の務めだ。


「そうだな、いいよ。ふざけてないよね?」

「ねぇよ、マジな話しさ。」


金には問題はなかったが、問題があるとすれば栗アレルギーでギリシャにたどり着けるか心配だった。数分後なにも起きなかったことが幸いだったので支払いを済ませ、店の外へと出てった。夜空へと見上げると街灯のせいで星が良く見えなかった。残念と思いながらもそれでも空を見続け、


「母さん、そんなに時間かからなかったよ。」


と苦笑いしながら心の中で告げた。あぁ、勘違いしないでください。私の母はまだ生きております。


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