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第8話「竜殺しの槍ドラグス」

 魔物討伐が行われてから二週間が経過していた。褒賞として特別休暇を与えられた騎士たちが、そろそろ詰所に戻ってくる頃合である。見習い騎士たちは遠征時に己の実力不足を感じたのか、休暇は早々に切り上げて自主訓練に励んでいた。




 騎士団詰所 食堂 ──


 騎士団詰所には食堂があり、かなり広いスペースに木製の長机と椅子が並んでおり、「おばちゃん」の愛称で呼ばれるエーべという大柄の女性が取り仕切っていた。


 自主訓練も終わり、見習い騎士たちも食事をするために食堂に訪れていた。木製のプレートを取ると一列に並んで食事を入れて貰うと横にズレていく。


「おばちゃん、俺大盛りね!」

「あいよっ!」


 威勢のいい声と共にオタマで並々と注がれるのは、鶏肉がたっぷり入ったホワイトシチューだ。エーべの得意料理で、騎士たちにも人気のメニューだった。隣にずれるとピーマンやニンジンの入ったサラダが乗せられ、その隣では山盛りのマッシュポテトが乗せられた。最後に並べられているトレイにはパンが山盛りで置かれており、食べる分だけ勝手に取っていくシステムになっている。


 見習い騎士たちは、それぞれ受け取った食事を持ってテーブルに着くと、祈りの言葉を述べてから食事を開始した。


「うめぇ!」

「おい、俺のポテト取るんじゃない。足りないなら自分で貰ってこいよ!」

「うげぇ、ピーマン苦手なんだよなぁ」


 仲良く食事をする見習い騎士たちだったが、食事も一区切りすると次第に前回の遠征の話になっていった。


「しかし、団長が倒したっていう狼、本当に五セルジュ(メートル)もあったのか?」

「あぁ、本当だよ。近くで見ると山のようだった」


 そう答えたのはアレットだった。実際に遭遇していない見習い騎士たちが疑心暗鬼なのも無理のない話で、狼系のモンスターは通常一セルジュ(メートル)以下で、大きくても少し超えるぐらいである。それより大きいものとなると神話に出てくるような化け物ぐらいだった。


「それをあの小柄の団長が、圧倒したなんて俄かには信じがたいなぁ?」

「そうだな。確かに団長が凄いのは認めるけど、さすがに常軌を逸してるというか……」


 やはり、その場にいたアレットたち以外は、信じられないといった感想を持っているようだった。


「そもそも、団長のあの力って一体何なんだ? やっぱり伝承にある竜の血を浴びたせいなのかな?」

「まぁ不老ってのは、本当らしいな……」


 見習い騎士の一人は、丁度食堂に入ってきたアルティナを見ながらそう呟いた。




 あまりに忙しい場合は団長室に運ばせたりするが、基本的にアルティナも他の騎士たちと同じく食堂で食事を取ることが多かった。食堂は他の騎士も利用するため、棚や机が通常のサイズである。頭の上に乗せるような勢いで手を目一杯伸ばし、プレートを掲げながら食事を受け取っていくアルティナだったが、サラダのところで苦々しい顔をすると足早に横にズレようとする。


「はいはい、団長ちゃん、逃げようとしてもダメだよ。ちゃんとピーマンも食わないとねっ!」


 給仕の中年女性は笑顔でそう言うと、追いかけてピーマン山盛りのサラダをアルティナのプレートに乗せる。


「あっ……こらっ、やめ……あぁぁぁ!」


 項垂れるアルティナのプレートに、さらに山盛りのマッシュポテトが乗せられていく。プレートに乗った食べ物は何人たりともと残すべからずが、この食堂のルールなのである。




 その様子を見ていた見習い騎士たちは、顔を見合わせると


「やっぱり信じられないよなぁ?」


 と笑いあうのだった。




 食事を取ったあと先程の話を聞いていたエーベから、団長の英雄譚の真実が知りたいなら、『救国の騎士博物館』に行くといいと言われた見習い騎士一行は、せっかくだからと足を運ぶことに決めた。


「おばちゃん、その博物館はどこにあるんです?」

「冒険者ギルドの近くだけど、せっかくだから団長ちゃんに案内して貰ったらどうだい? 何せ本人だしねぇ」


 ピーマンに苦戦しているアルティナに頼みにいくと、笑顔でピーマンを差し出してきた。彼らがピーマンの消費を手伝うことを条件に、アルティナは同行を快諾してくれたのだった。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 救国の騎士博物館 ──


 北の城砦の観光名所になっているこの博物館は、百年前にあった騎士団とドラゴンの戦いの歴史を残すのが目的で建設された博物館である。展示物は、その時に使われた武器防具や討伐されたドラゴンの鱗や爪、勇敢に戦った騎士団たちを讃えるモニュメントなどが展示されている。


 アルティナたちが博物館に入るとビシッと決めた中年の男性が、まさに飛ぶような勢いで接近してきた。


「アルティナ様、ようこそおいで下さいましたぁ!」

「う……うむ、久しいな、ステファノ」


 若干引き気味に答えるアルティナ。ステファノと呼ばれた男性は、この博物館の四代目の支配人で熱心なアルティナのファンの一人である。


「今日はどんな御用でしょうか? ついにその鎧をお譲りいただけるのですか? それとも服でしょうか? なんなら下着でも……」

「えぇぃ! 寄贈に来たのではない! こやつらが昔の記録に興味があると言うので連れてきたのだ」


 ステファノは、見習い騎士たちを一瞥するとパンッと手を叩いてから丁寧に一礼する。

 

「それはそれは……なるほど勉強熱心な騎士の卵ですか、ようこそ当博物館へ。私が支配人のステファノです。お見知りおきを……アルティナ様が連れてきたお客人ならば、私めがご案内致しますよ」


 そう言われた一行は、好意に甘えることにした。ステファノについて奥へと進むと、まず見えてきたのは大きな彫像郡だった。街にあるような救国の騎士が、ドラゴンにランスを突きたてている姿ではなく、三人の騎士たちと天井に届きそうな高さの柱のような物が立っているオブジェだ。


「題名は……『騎士団』?」

「これは百年前に、この地で戦った騎士たちの姿です。真ん中の立派なヒゲの紳士が騎士団長、その左が副団長、右がアルティナ様の上司であったギルバート卿、そして見習い騎士のアルティナ様です!」


 そう言われた見習い騎士たちは揃って首を傾げた。紹介されたアルティナ像が見当たらなかったためである。


「アルティナ団長の像はどこに?」

「何を言っているのですか? ここにおられますよ!」


 ステファノは柱のように立っている物の下に立っている、アルティナ像を指しながら答えた。


「あっ、本当だ。団長はなぜ柱を持ってるんですか……?」


 見習い騎士たちがみたアルティナ像は棒状の物を持っており、そこから柱のような物が伸びていた。


「柱? いえ、これは槍ですよ。これがかの有名な竜殺しの槍ドラグスでございますよ」

「えぇぇぇ!?」


 竜殺しの槍ドラグス ── かつてアルティナが竜にトドメを刺した際に使われたという伝説の武器である。


 およそ人間が持てるサイズではない武器に、見習い騎士たちは驚きを隠せない様子だった。しかし、確かに言われてみれば、先に行くにつれ細くなっており、全体のシルエットはランスの形をしていた。


「信じられないかもしれないが、一番奥には実物も飾られているぞ。まぁ折れているがな」


 アルティナは他人事のように呟いた。そんなアルティナに、アレットはふと疑問に思ったことを尋ねる。


「団長、この彫像はドラゴン戦時のものですよね? あの戦いの時にこんな槍を?」

「あぁ、そうだな。その槍が扱えるから見習い騎士であったにも関わらず、わたしは参戦できたんだ」


 アレットは震えながら、さらに尋ねる。


「だ……団長、もしかして本当にオーガだったんですか?」

「誰が、オーガかっ! わたしは人間だ。ただ、先祖にドワーフか何かがいたらしい。所謂先祖返りという奴だな」


 つまりアルティナの怪力と頑丈な身体は、竜の血の呪いとは無関係で先天性のものだということだった。そんな話をしていると、ステファノと他の見習い騎士たちは、すでに先に進んでしまっていた。




 色々と遺物や逸話を聞きながら進んだ先には、一本のランスのような物が飾られていた。尖端が欠けてしまったランスだが、それでも全長が五セルジュ(メートル)はあり、とても人が持てるような代物には見えなかった。


 このランスこそが、先ほど話題に上がった竜殺しの槍ドラグスである。


「これがドラグス……こんなのどうやって使うんだ?」

「いやいや、そもそも持てないだろ、これ」


 見習い騎士たちはあまりの大きさに、それぞれが感想を述べていた。ステファノは、そんな彼らにドラグスの解説を始めた。


「この槍は元々王家の宝で、かつて存在していた巨人族が使っていた物だと言われています。その威力は、竜の鱗を容易く貫くと伝承が残っていますね」

「確かに伝承通り貫くことは出来たが、一撃では倒しきれず尖端が折れてしまったがな……」


 ステファノの解説に付け加えるようにそう言ったアルティナは、ドラグスを見つめながら申し訳なさそうな顔をしている。そんなアルティナに、アレットは首を傾げながら尋ねた。


「折れた部分は、どうしたんですか?」

「あぁ、それなら団長室に飾ってあるだろう?」


 アレットは団長室の配置を考えながら、いつもアルティナ専用の盾と一緒に置かれている奇妙な形のランスを思い出した。


「あ、あのランスがそうなんですかっ!?」


 その問いにアルティナは、ニヤリと笑って頷くのだった。

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