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第3話「不老の呪い」

 北の城砦 冒険者ギルド 会長室 ──


 新人受付嬢のレオナがノックをしたあと、アルティナの訪問を伝えると、ギルドマスターから部屋に入るよう返答がきた。レオナがドアを開けアルティナたちが部屋に入ると、初老の紳士が座っている。


 初老というのも顔の皺や白髪などで判断しただけで、シャツの上からでもわかる均等の取れた筋肉に、顔には獣に引っ掛かれたような古傷が痛ましく残っていた。まさに歴戦の勇士といった男性の鋭い眼光に、アレットはごくりと唾を飲む。


 初老の紳士は立ち上がると、アルティナに対して礼儀正しくお辞儀をする。彼のような男性が幼女に敬意を示す姿には違和感があるが、アルティナの実年齢や爵位を考えれば当然だと言えた。


「アルティナ殿、ようこそおいで下さいました」

「元気そうだな、クラウディオよ」


 クラウディオと呼ばれた男性は、懐かしそうな表情を浮かべながら腰の辺りをポンポンっと擦る。


「ははは、もう昔のようには動けません。貴女と一緒に魔の森を駆け回った頃が懐かしいですよ」

「貴様が耄碌しただと? あははは、わたしは騙されんよ」


 親しげに話している二人に、一歩引いた感じで立っているアレットの存在に気が付いたアルティナは、彼の手を引いてクラウディオの前に立たせた。


「クラウ、こいつは少し前に来た見習い騎士だ。今後こいつにも伝令役をやらせるかもしらないから、よろしく頼むよ」


 突然紹介されたアレットは、慌てて敬礼をする。そんな青年の様子にクラウディオは笑みを浮かべながら右手を差し出した。


「ワシが冒険者ギルドのマスター クラウディオだ。よろしく頼む」

「は……はいっ、アレットです。よろしくお願いします」


 クラウディオはガチガチに緊張しているアレットと握手をしながら、彼の肩をポンッと叩く。


「そんなに緊張することはない、アルティナ殿の子守……いや、指導は大変だろうが、頑張ってくれ」

「誰が子供かっ!」


 憤慨した様子のアルティナを「冗談ですよ」と宥めつつ、クラウディオは二人にソファーを勧めた。




 ソファーに腰掛けたアルティナとアレットの対面には、低い机を挟んでクラウディオが座った。丁度レオナが薄く割ったワインを冷やした物を持ってきてテーブルに置いていく。


「それで今日はどうしたんですか? いつもなら来られてもヴェラルド殿でしょう?」


 クラウディオの言うとおり、普段はアルティナ自らが出向いて来たりはしない。特にここ数年は平和なため、騎士団とギルドの連携は副団長のヴェラルドが担当していた。


 アルティナは親指でアレットを指して、笑いながら答えた。


「こいつの顔見せを兼ねて、久しぶりに貴様の顔でも見てやろうかと思ってね」

「ははは、傷だらけで見せられるようなものではありませんがね。さて、これが最近の状況です」


 クラウディオは、地図をテーブルに広げた。この北の城砦と北部に広がる魔の森が描かれた地図に、冒険者たちが遭遇した魔物の出現ポイントと種類が書かれていた。アルティナはじっくりとそれを見ていく。


「最近は、獣系が多くなってるようだな」

「はい、熊系や狼系の魔物との接触の情報が増えていますね。あと気になるのは、この辺りでしょうか?」


 クラウディオが指差したのは森の奥に位置する場所で、竜種の目撃情報が書かれていた。


「竜種の目撃情報か……ドレイクか? ワイバーンといったところか? まさかドラゴンではあるまい?」

「ここまでいける冒険者が少ない上に、竜種との交戦は避けるように通知してますから、見た瞬間逃げたそうです。その為、種類まではわかりません」


 竜種と呼ばれる鱗に覆われた魔物の強さは、並の魔物とは一線を画しており、硬い鱗は武器が通らず、炎のブレスや上位のドラゴンともなれば魔法すら使ってくる強敵である。


 アルティアは少し考えてから頷く。


「わかった。この辺りの調査は騎士団が受け持とう」


 その言葉にアレットの額に、一筋の汗が流れ落ちるのだった。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 冒険者ギルド ──


 冒険者ギルドのマスターであるクラウディオとの会談が終り、ギルドから出ようとしたアルティナは、丁度入ってきた大男の冒険者とぶつかってしまった。脛に硬いものが当たった大男は蹲って脛を押さえる。


「いてぇ、な……なんだぁ!?」

「あぁ、すまなかったな。大丈夫か?」


 大男は微妙な顔をしてアルティナを睨み付けると、アルティナの頭に手を乗せてグリグリと撫で回す。


「なんでこんな所に、鎧を着たチビがいるんだぁ? ガキは外で遊んでろや!」


 その大男の仲間と思われる冒険者たちが、彼の後ろからヘラヘラした顔で入ってきた。


「おぃおぃ、どうしたんだよ? そんなところに蹲って何かあったのか?」

「あぁ、なんか妙なガキがいて……うぎゃぁぁぁ!?」


 いつの間にかアルティナが頭に乗せられた腕を掴んでおり、メキメキと骨が軋むような音が鳴りはじめている。


「触るな、この無礼者っ!」


 後から入ってきた冒険者たちは大男の腕を掴んだ少女を一瞥すると、先ほどまで浮かべていたニヤついた顔が一瞬にして青ざめていく。一人だけ状況が掴めていない大男だけが怒鳴り声をあげた。


「いてぇだろうが、このガキャ! ……うぉ、テメーら何しやがる」


 仲間の冒険者たちは一斉に大男を取り押さえる。そして、リーダー格と思われる冒険者が愛想笑いを浮かべながらアルティナに頭を下げる。


「す……すみません! こいつ、他の街から来たばかりなんです。気を付けるように言っておきますから!」

「うむ……以後、気を付けるように」


 アルティナはそう言い残すと、スタスタと外に出て行ってしまった。その後をアレットが慌てて追いかける。


 大男は圧し掛かってきていた仲間たちを、力任せに振り解くと怒鳴り声をあげた。


「いったい何だってんだよ!? あのガキ、今度あったら許さんぞ!」

「やめておけ、あの方は救国の騎士アルティナ・フォン・ドラグナーだぞ。お前なんか瞬殺されるのがオチだぞ」


 その言葉に理解できないって表情を浮かべた大男は、表の彫像を指差しながら尋ねる。


「おいおい、冗談はやめてくれ。救国の騎士っていや、アレだろ?」

「この街に初めて来る連中は、みんなそんな反応だが……さっきの子供が実物だ」


 このリーダー格の冒険者が嘘を付かないと知っていた大男は、あまりの衝撃にその場で崩れ去った。


「ば……バカな……」


 実はこの大男も救国の騎士に憧れて、冒険者になった口なのである。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 街道 ──


 騎士団の詰所に帰る途中、アレットは浮かない顔をしていた。そんなアレットに、アルティナが心配そうな顔で尋ねる。


「どうした、何か心配ごとか?」

「えっ、いえ……竜種と戦うことになるのかと思って……」


 たどたどしく答えたアレットに、アルティナは豪快に笑い飛ばす。


「あははは、そんな事でビクついていたのか? 安心しろ、奥地への遠征に見習い騎士は連れていかないさ」

「そ……そうなんですか?」


 アルティナは、軽く頷いてから答える。


「貴様らは、まずは訓練、訓練、訓練! そして、近場の遠征で魔物との戦いに慣れるところからだ」

「がっ、頑張りますっ!」


 小さく気合を入れるアレットを見つめるアルティナの瞳は、どこか遠くを見ているような哀愁を感じるものだった。不老となった彼女の長い年月の中では、この青年のような騎士を目指すものも沢山見てきたのだろう。


 騎士になり使命を全うした者も多かった。志半ばで挫折した者もいた。魔物との戦闘で命を落とした者も少なくはなかった。彼女の瞳はその多くを見てきたのである。


「団長、どうかしましたか?」


 少しぼーっとしていたアルティナに、アレットが首を傾げながら尋ねてくる。アルティナは軽く首を横に振ると微笑みながら


「いや、何でもない。まぁ、死なない程度に頑張るといい」


 と答えたのだった。

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