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エピローグ

 北の城砦 ドラグナー家 アルティナ寝室 ──


 アルティナが目を覚ましたのは、ドラゴンとの激戦から七日が経過した昼のことだった。アルティナが目を開くと、看病のために付き添っていた侍女が大慌てで、人を呼びに部屋の外に出て行った。


 アルティナは、あの時失った自分の傷一つない左腕を見つめると、少し寂しそうにボソリと呟いた。


「また……生き残ってしまったのか」


 その後、部屋に飛び込んできたルイージャとクロエに抱きしめられたが、そんなに悪い気がしていない自分に驚きつつ微笑むのだった。



◇◇◆◇◇



 翌日には騎士団詰所に出勤しようとしたアルティナだったが、臣下や従者たちに必死に止められて、三日ほど療養する羽目になった。その間に副団長のヴェラルド、冒険者ギルドのマスターであるクラウディオ、王都騎士団のリオルディ卿などが見舞いに訪れていた。


 当然の如くアルティナの大ファンである、救国の騎士博物館の支配人ステファノも訪れていたが、見舞いの品として巨大なアルティナ像を持ち込んだため、アルティナに追い出されることになる。


 ヴェラルドの報告によると、今回の戦闘での死者数三百四十六名、負傷者は六百名を越えていた。そのことはアルティナを大いに悲しませたが、中には嬉しい報せもあった。戦死したと思われていた輜重隊隊長の老騎士ウェルナーが部下二十名と共に、ドラゴンとの戦闘の三日後に帰還したのだ。


 時間稼ぎのためにドラゴンに無謀な突撃したと思われたウェルナーたちだったが、ドラゴンの攻撃により巻き上げられた土に生き埋めになり、何とか這い出して生き残っていたのだった。


「はっははは、お互い死に損ないましたな」


 と軽快に笑いながら報告に来たウェルナーに、アルティナも苦笑いを浮かべるしかなかったという。



◇◇◆◇◇



 三日後、従者たちの制止を振り切るように街に出たアルティナは、ドラゴンの攻撃で破壊された街の様子を目の当たりにしていた。北側の城壁は内側から見てもほぼ機能を失っており、城壁に近い区画は降り注いだ瓦礫などで半壊している。


 それでも戻ってきた住民たちによって急速に復興が進んでいるのか、街の中は活気に満ち溢れていた。そんな彼らがアルティナの姿を見つけると、作業を止めて手を振りながら


「アルティナ団長、街を守っていただきありがとうございます」

「騎士団、万歳!」


 などの感謝の言葉を投げかけてくる。それに対してどこか複雑な心境で、アルティナは軽く手を振って応えていった。




 街の様子を確認したアルティナは、そのまま騎士団詰所に向かった。アルティナを発見した詰所の門番は驚きつつも敬礼をする。


「団長、おはようございます。お加減はもうよろしいのですか?」

「あぁ、心配をかけたな」


 アルティナは、少し陰りのある表情を浮かべていた騎士に軽く触れながら


「お前も仲間を多く失い辛いだろうが、頑張ってくれ」


 と激励しつつ、団長室に向かって詰所の建物に入っていく。



◇◇◆◇◇



 騎士団詰所 団長室 ──


 団長室に入ると、まず目に入ったのがボロボロになった自分の武具たちだった。アルティナはそれらに近付くと軽く指でなぞる。ドラゴアルパトゥラ(鎧)は左腕側から中心部に掛けて亀裂が入り、アンクラスクード(盾)は、巻き上げ機能を失っているのかアンカーが垂れ下がっていた。竜殺し槍ドラグスは、穂先の部分だけが無傷で残っており、持ち手の部分が消滅していた。


「無残なものだな……ルイージャでも直せるだろうか?」


 アルティナがそう呟くと同時にドアが急に開いた。アルティナがそちらを向くと、驚いた表情を浮かべているアレットが立っていた。


「だ……団長、もう大丈夫なんですか?」

「あぁ、お前にも心配をかけたな。何か用か?」


 アレットは首を横に振って、手に持っていた書類の山を執務机に置いた。


「いいえ、副団長に頼まれて書類を届けにきただけです」

「そうか、ご苦労だったな」


 その後、アルティナはアレットに自分が動けなかった時期の話を聞くことにした。


 それによるとヴェラルドの指示により、崩壊した北側の城壁は修復を進めながら、外には陣地が設けられ生き残った騎士たちの中で、比較的元気な者を選び三交代で、外敵からの備えにしてるとのことだった。幸いドラゴンの気配が消えていないからか、魔物も近付いては来ず問題は発生していないようだ。


 そんな話をしていると、アレットが控えめに尋ねてきた。


「団長、あの最後の一撃は何だったんですか? まるでドラゴンのブレスみたいでしたが……」

「アレか……まぁ、その通りだな。アレは奴のブレスだ」


 アルティナは、アレットに両手の掌を向けて説明をする。


「ルイージャが、アンクラスクードとドラグスに新たな術式を組み込んだのだ。右手の盾アンクラスクードで受け止めたエネルギーを、左手のドラグスに変換して撃ち出すんだ。ドラゴンに対抗できるのは、ドラゴンの力と言うわけだな」

「そ……そんなことが出来るのですか? それさえあれば、僕でもドラゴンを……」


 アレットは期待に満ちた表情で尋ねて来たが、アルティナは微妙な表情を浮かべて首を横に振る。


「まぁ無理だろうな。まず普通の人間ではドラゴンのブレスを受け止めれないし、撃ち出したときにわたしの左腕が吹き飛んだように、この術式は使う人間のことを一切考えていない。なんともルイージャらしい無茶な術式だよ」


 アルティナは苦笑いを浮かべながら、そう答えるのだった。



◇◇◆◇◇



 それから一年ほどが経過した ──


 まだ不落砦(インビンシブル)は城壁も街も復興中だったが、失った騎士たちの補充として騎士団に新たな見習い騎士たちが配属されてきていた。


 例年通り見習い騎士たちを激励するため、騎士団長による訓示が執り行われる予定になっている。


 騎士団詰所の広場には期待に満ちた表情で整列している見習い騎士たちが、およそ百名ほど立っており、その前にはアレットなど新人騎士だった者たちが整列していた。


 アレットの同期の騎士が、アレットに小声で話しかける。


「今じゃ俺らがこっち側か……向こうから見た騎士たちは皆強そうだったが、ヒヨッコどもから見たら俺らはどう映ってるのかね?」

「さぁね。僕たちもあんな輝いた瞳をしていたのかと思うと、少し恥かしくはあるけどね」


 そんな話をしていると、団長のアルティナとヴェラルド副団長が見習い騎士たちの前に進み出る。それを見た見習い騎士たちは口々に感想を話しはじめていた。


「あれが救国の騎士か!? やっぱり歴戦の騎士は違うな」

「見ろよ、あの筋肉憧れるぜっ!」


 その声を聞いたアレットたちは、笑うのを必死に堪えている。そして、いつものようにヴェラルドが大声で叫ぶ。


「気をつけぇ! 団長訓示っ!」


 直立不動でヴェラルドを注視する見習い騎士たちに、当然の如くアルティナの怒声が飛ぶ。


「下を見ろ! このバカ者どもめっ!」


 一斉に視線を下げて、その声の主に困惑した表情を浮かべる見習い騎士たち、しかしアルティナは構わず挨拶をする。


「ごほんっ、では改めて……わたしが騎士団長のアルティナ・フォン・ドラグナーだ。よろしく頼むぞ、見習い諸君!」

「えぇぇ!?」


 こうしてアルティナと不落砦(インビンシブル)は、新たに訪れた騎士の卵たちと共に、これからも戦い続けていくのである。



END.

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