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第24話「コンタクト」

 魔の森 奥地 前線基地 ──


 第二大隊とウェルナー隊長が率いる輜重隊は、北の城砦を出発してから三日で前線基地まで到着していた。第二大隊は陣地を守っていた二個小隊と引き継ぎを済ませ、さっそく捜索隊派遣をしている。そして輜重隊のアレットたちは積荷を降ろして、備蓄しているテントに運び込んでいた。


 一区切りついたアレットは陣地を見回したあと、輜重隊の監督をしているウェルナー隊長に話しかける。


「ウェルナー隊長、思ったよりしっかりした陣地ですね」

「そうじゃな。この辺は、かなり強い魔物も出るから十分とは言えんが、第一大隊はいい仕事をしてくれた」


 ウェルナーは満足そうに頷いて、第一大隊が用意した前線基地を眺めている。その後、パンッと手を打ち鳴らしてから命じる。


「さぁ、あと一時間で作業を済ませるぞ。第一大隊と共に城砦に帰還するのだ」

「はっ!」


 アレットは敬礼をすると、すぐに作業に戻るのだった。




 約一時間後 ──


 物資の荷降ろしが終わり、前線基地で出た不用品の回収と怪我人を荷台に乗せると、ウェルナーは第一大隊の小隊長から報告を受けていた。


「ウェルナー殿、第一大隊 第三中隊 第一及び第二小隊、準備が整いました。いつでも出立できます」

「うむ、ご苦労だった。お前たちも一刻も早く戻りたいだろう? さっそく出発するとしよう」


 ウェルナーがそう口にした瞬間、空を振るわせるような咆哮が響き渡った。


 ゴガァァァァァァァ!



◇◇◆◇◇



 魔の森 奥地 調査隊 ──


 時は少し遡る。


 ドラゴン調査を始めていた第二大隊のとある分隊が、森の中にある開けた場所で怪しげな集団を発見していた。その五人ほどの集団は、鬱蒼と広がる森には似つかわしくない白いローブを着ており、どこかの聖職者のようだった。


 あまりに異様な集団に、その分隊も対処を決めかねて木の陰に潜み様子を覗っている。その隊員の一人が分隊長に尋ねる。


「隊長、奴らはいったい何者でしょうか?」

「わ……わからん、とにかく捕らえるぞ」


 対処に迷っていた分隊長だったが、とにかく捕らえると決め、後に控えていた隊員にハンドシグナルを送る。隊員たちは、それに従って怪しげな集団を取り囲むために散開を開始した。




 そして全員が配置に付き、捕縛に動き出そうとした瞬間それは起こった。


 集団の中央にいた一際年老いた男が、天を仰ぎ見ると同時に口を開くと、何かを引っ掻いたような高音が周辺に響き渡る。あまりに耳障りな音に、分隊長を含め分隊全員が耳を押さえながら蹲った。


「な……なんなのだ!? これが人の出せる声なのか?」


 その音が消えると、その集団は空を見上げながら喜びに満ちた表情を浮かべていた。


「おぉぉぉぉ!」




 そして、突然夜になったかのように周囲が暗くなった。慌てた分隊長が空を見上げると、頭上には音もなく黒い塊が浮かんでいた。それはどこまでも大きく、どこまでも深い闇、一目見ただけでは何なのか理解できないものだった。



 ゴガァァァァァァァ!



 その黒い塊を中心に物凄い咆哮が響き渡った瞬間、分隊員たちはそれを理解した。


 その黒い鱗に覆われた巨大な体躯は陽の光すら覆い隠し、その奥底で黄色い瞳で輝いている。そう……突然現れたのは、巨大な竜種ドラゴンだった。そのドラゴンは、そのままゆっくりと集団がいるところに着地した。


 それでも着地した衝撃で、分隊ごと周辺の木々を吹き飛ばすほどの爆風が走った。




 分隊長は、その爆風で身体の上に圧し掛かってきた土を退かすと、身を起こし周辺を見回す。そして痛む左腕を押さえながら、土煙に覆われている森の中に向かって隊員たちに声をかける。


「お……おい、誰か、誰かいるか!?」


 周辺からはうめき声のような声が聞こえるだけで、まともな返事できる者はいなかった。分隊長が、先ほど着地したドラゴンの方を見ると、そこには巨大なクレーターが出来上がっていた。おそらくこんな状態では、中心部にいたあの集団も跡形もないだろう。


 分隊長は何とか立ちあがるとうめき声がした方へ歩く。そして、生き埋めになっていた隊員を二人救出したあとで、再びドラゴンの動向を確認する。どうやらドラゴンはこちらに気が付いておらず、長い首をくねらせて周辺を睨み付けている。


 身を顰めながら分隊長が小声で命じる。


「撤退するぞ。このことを大隊長たちに報告せねば……」

「し……しかし、隊長! 他の者たちを救出せねばっ!」


 姿が見えない隊員の救出を進言する隊員だったが、分隊長は首を横に振った。


「ダメだ、我々の任務はドラゴンの発見を報告することだ。我々も負傷している、ドラゴンに見つからないように捜索を続けるのは無理だ。俺は、これ以上死者を出すつもりはない」


 分隊長は左腕が折れており、残り二人も頭を負傷していたり、腹に破片が突き刺さっているような状態だった。隊員たちは納得できない様子だったが、それでも隊長の命令は絶対である。分隊長が立ちあがって歩き始めると、大人しくそれに従い後を追うのだった。



◇◇◆◇◇



 魔の森 奥地 前線基地 ──


 ドラゴンの咆哮を聞いた前線基地も大混乱に陥っていた。いくら心構えをしていたとは言え、ドラゴンの咆哮は、人の心をかき乱すには十分な威力があるのだ。ウェルナーは輜重隊と、第一大隊の小隊に待機を命じると、小隊長たちと共に第二大隊の大隊長の元を訪れていた。


 ウェルナーは、テントの前でオロオロとしていた年若い大隊長をテントに引っ張りこむと、その頬に平手打ちを一発打ち据えた。


「しっかりせんかぁ! 貴様が大隊長だぞ!」

「はっ……はい!」


 きつい一発を貰った大隊長は、首を軽く横に振ってから姿勢を正して答える。そして、そこにドラゴンが現れたという報告が飛び込んできた。


 大隊長は驚きながらも作戦卓の地図からコマなどをすべて取り払うと、報告を上げてきた騎士に確認する。


「どこだっ!?」

「はっ……おそらくこの辺りかと」


 陣地から見える範囲での目測であり正確ではなかったが、騎士は陣地から北東方面の位置を指差した。それに対して大隊長が唸り声をあげる。


「むぅ……だいぶ近いな。どうするか……」


 そんな大隊長に、ウェルナーはバンッと机を叩くと進言をする。


「兎にも角にも撤退じゃ、ドラゴンを発見次第、速やかに撤退せよと団長に厳命されているじゃろ!」

「そ……そうだった。撤退だ、早急に撤退を開始せよ」


 大隊長の命令に、報告を持ってきた騎士は頷くとテントから出て行った。そこで第一大隊の小隊長が口を開く。


「大隊長、撤退はいいのですが……撤退時にドラゴンに襲撃されれば、ひとたまりもありませんぞ?」

「確かに殿が必要か……今、陣地にいるのは第三中隊だけだ……彼らに頼むしかあるまいな」


 その言葉に小隊長たちは、お互いの顔を見合わせ力強く頷き大隊長に進言する。


「我が隊は疲弊しており、退却するにも足で纏いになります。それに第二大隊はドラゴンに対抗するために必要な戦力です。ここは我々が殿を務めます!」

「なっ!?」


 大隊長は驚いた表情を浮かべると、首を大きく横に振った。


「第一大隊は厳密には俺の指揮下ではない、そんな命令はできない」

「ワシも残るよ、若いモンばかりに良い格好はさせられんからな。止めても無駄じゃぞ、お主の言う通り我々は指揮下ではないのでな」


 ウェルナーがニカッと笑いながらそう告げると、大隊長は肩を落として呟いた。


「……すみません、このご恩は必ず!」




 数分後 ──


 ウェルナーたちは、自分たちの部隊の元に戻ってきていた。ウェルナーが殿を務めることを告げると、隊員たちは驚きながら諌めはじめた。


「ウェルナー隊長、さすがにドラゴン相手は無理です。お考えをお改めください!」

「許せ、ここに残る小隊長たちを指揮する者が必要なのだ。なに心配するな、残るのはワシだけだ! 貴様たちは第二大隊と共に城砦に引き上げよ」


 輜重隊の騎士たちは、一歩前に出て一斉に参加を申し出た。


「我々も残ります! 我々も騎士です」

「貴様ら……」


 ウェルナーは目頭を押さえながら、横を向くと小刻みに震えている。アレットたち新人騎士たちも遅れて前に出ると参加の意思を示す。


「我々も殿に志願します、隊長っ!」


 しかし、それに対してはウェルナーは凄い剣幕で叱り付けた。


「貴様らはダメだ! 若造の面倒を見ている余裕などないっ!」


 あまりの剣幕にアレットたちは一歩後ずさる。そして、ウェルナーは隊員たちに続けて命じる。


「妻子がいるものと若い者……そうだな、合わせて半数は城砦に撤退せよ。これは隊長としての厳命である! 傷ついた仲間たちと共に積荷を必ず送り届けるのだ。副隊長、貴様が指揮を取れ!」

「はっ!」


 年若い副隊長は、納得できないという表情を浮かべながらもグッと飲み込み、ウェルナーの命令を承諾するのだった。

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