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第21話「騎士叙任」

 第一大隊がドラゴン捜索の任務に出てから半月ほどが経過していた。聖竜教会の助祭であるクロエは、ドラゴン発見の報せを伝えるために本国へ戻り、ルイージャはなぜかドラグナー邸の一室に篭ってしまっている。




 北の城砦 騎士団詰所 聖堂 ──


 詰所設立当時に広場の一角に建造された聖堂は、バルソットの国教である女神信仰の聖堂である。常に死と隣り合わせの騎士たちの多くは女神を信仰しており、休日などには祈りを捧げている。


 そんな聖堂にアルティナ団長とヴェラルド副団長、輜重隊のウェルナー隊長、神官一名、そしてアレットを含む見習い騎士八名が集まっていた。


 アルティナが壇上に上がり、緊張した面持ちの見習い騎士たちの前に立つと演説を始めた。


「諸君がこの地に来てから、およそ一年が過ぎた。今日まで厳しい修練を積んできた諸君らは、本日をもって不落砦(インビンシブル)の騎士となる」


 直立不動で聞いている見習い騎士たちに、アルティナは口上を続ける。


「本来であれば……もう半年か一年、じっくりと修練を積んで貰いたいと考えていたのだが、知っての通り現在は緊急時である」


 ドラゴン捜索に出ている第一大隊からは未だに発見の報せがないため、現在も捜索と防衛のために騎士二千を総動員している。そのためウェルナーの献策を受け、アルティナは見習い騎士たちの訓練過程を切りあげることを決めたのだ。


 彼らは本日より騎士となり、まずはウェルナーの輜重隊に配属することになっている。


「配属先の通達は事前にした通りである。希望通りではないかもしれんが、転属の希望はこの危機を乗り切ってからにしてくれ。では諸君らの奮闘を期待する」


 アルティナが敬礼をすると、見習い騎士たちも一斉に敬礼をした。




「それでは叙任式を執り行う。ヴェラルド」

「はっ」


 ヴェラルドは剣を一振り両手で持ちながら、アルティナに近付くとその剣を彼女に手渡した。そしてゆっくりと元の位置に戻ると、姿勢を正してから高らかと宣言する。


「アレット・フォン・ディナルド、前に!」


 ヴェラルドに呼ばれ、アレットが緊張した面持ちで見習い騎士たちの列から前に出る。そして、アルティナの前までくると傅いた。


 アルティナは剣をアレットに掲げながら宣言する。


「アレット・フォン・ディナルド。アルティナ・フォン・ドラグナーの名と、この剣をもって汝を不落砦(インビンシブル)の騎士に任ずる」


 アルティナに差し出された剣を受け取り、アレットは立ちあがる。そのアレットにアルティナが告げる。


「では、騎士の誓いを」

「我、アレット・フォン・ディナルドは、不落砦(インビンシブル)の騎士として、騎士団に忠誠と民を守る盾になることを誓いますっ!」


 騎士の誓いを立てたアレットには拍手が送られ、アルティナからは激励の言葉が送られた。


「騎士アレットよ、今後も期待している」

「はっ! ありがとうございます」


 アレットは、そのまま見習い騎士の列に戻ると、ヴェラルドは次の一振りをアルティナに手渡した。


 その後、残りの七名も同様に騎士叙任が執り行われたのだった。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 騎士団詰所 訓練場 ──


 新たに誕生した騎士たちが聖堂から外に出ると、そこに不落砦(インビンシブル)の騎士を含め、四百名ほどの騎士たちが整列していた。驚いた表情を浮かべた騎士たちに、整列した騎士たちは剣を抜くと


「新たに生まれた騎士たちに剣を掲げぇ!」


 号令と共に一斉に剣を掲げてから、口々に新たな騎士たちに声援を送っている。


 その声援の中、アルティナたちが外に出て来ると、同じように驚いた顔をしている。新しく誕生した騎士たちに、騎士団の先輩騎士たちが祝福に駆け付けることは、さほど珍しい話ではないが、緊急体制の騎士団にこれほど人員を裂く余裕はなかったはずなのである。


 そんなアルティナに、一人の騎士が話しかけてきた。


「ドラグナー卿、お久しぶりです」

「おぉ、リオルディ卿! 卿が来てくれたのか」


 その騎士はラウロ・フォン・リオルディ、アルティナの友人で王都の騎士団に所属する騎士の一人だ。広場に集まった騎士たちのほとんどは、彼が指揮をして王都から連れてきた者たちで、アルティナが王都へ出していた要請に応じて、援軍としてきた騎士たちである。


「はい、ドラグナー卿。王都騎士団から三百騎、連れてまいりました」


 アルティナが王都騎士団をジーっと眺める。彼らはベテランというには、少し年老いた老騎士や若年者といった感じの者たちが大半だった。そんな彼らは、初めてみる救国の英雄アルティナの容姿に戸惑いの表情を浮かべていた。


「三百か……まぁ王都の連中にしては出した方だな。何よりリオルディ卿を遣わしてくれたのはありがたい」

「ははは、まぁ体のいい厄介払いでしょう」


 ラウロは苦笑いを浮かべながら答えた。


「卿、貴方と貴方の隊には、ウェルナーと共に後方支援に当たっていただきたい」

「はい、心得ております」


 彼らは王都から運び込まれている食料などを前線に輸送する任務につく。輸送と言っても魔の森を奥地まで突き進む危険な任務なのだ。


 その事がわかっているのか、ラオルは真剣な表情で頷くのだった。こうして王都騎士団や新たな騎士たちを加え、後方支援は五百人体制になったのである。



◇◇◆◇◇



 魔の森 奥地 調査隊前線基地 ──


 半月ほど前に出発した第一大隊は、ドラゴンを捜索しつつ前線基地の構築も行っていた。これは最初のポイントでターゲットを確認できなかったので、長期戦を予想して前線基地の必要性が出てきたためである。


 ある程度開けた場所に周辺の木々を切って、その木材で柵を設けただけの簡単な陣地だったが、何もないよりは周辺の魔物から身を守ることができるし、運び込まれる食料の備蓄も可能だ。ここを拠点に三中隊を捜索ニ隊、防衛と休養に一隊というローテーションを組んで活動を開始していた。


 中隊長の一人が、中年の隊長の元に駆け寄って報告をする。


「大隊長、第一中隊からの報告です。やはり西方に何も発見できなかったそうです」

「そうか、第二中隊はどうだ?」


 報告に来た騎士は首を横に振って答えた。


「第二中隊はまだ戻ってきておりません」

「……帰陣の予定時間は過ぎているが、何かあったか?」


 大隊長は難しい顔をしながら首を捻っていると、南東方面から獣の咆哮のようなものが聞こえてきた。


 グガァァァァァァ!


「な……なんだ!? ドラゴンかっ!」


 大隊長が叫ぶと、咆哮が聞こえた方から一人の騎士が慌てて駆け寄ってきた。


「だ……大隊長! 魔物です、虎型だと思われます」

「落ち着け、第三中隊南東の防衛だ、寝ている奴を叩き起こせ! 戻ってきた早々で悪いが第一中隊も向かえ!」

「はっ!」


 大隊長の近くにいた騎士たちは、それぞれの役目を受け走り出した。そして、大隊長も南東へ向かって走り出す。




 大隊長が南西の柵までたどり着くと、すでに柵は破壊され五セルジュ(メートル)ほどの虎のような獣が唸り声をあげていた。突然の襲撃に騎士たちは及び腰になりながらも、武器を構えていた。


「貴様ら、落ち着け! 隊列を組むんだ!」


 大隊長のその声に、ハッと気が付いた騎士たちは、訓練通りに隊列を組み直しはじめた。前衛に大盾を持った騎士、その後ろに槍を持った騎士、最後尾に弩を持った騎士といった、不落砦(インビンシブル)の騎士の基本である三段隊列である。


 そして、周辺から騎士が続々と集まり隊列を組んでいく。あっという間に取り囲まれた虎型の魔物は、全包囲に唸り声をあげて威嚇している。


「放てぇ!」


 大隊長の号令に弩隊が斉射を行った。大盾の間を抜けて弩の矢が真っ直ぐ飛んでいき、虎型の魔物の体に突き刺さる。全周囲から浴びせかけられた矢に、悲鳴のような叫び声を上げた虎型の魔物は、暴れながら前衛の盾隊に突っ込むと、その重量に数名吹き飛ばされた。


「取り囲んで、突き殺せっ!」

「おぉぉぉ!」


 叫び声を上げながら一気に盾隊が包囲を狭めて動きを止めると、槍隊がその隙間から一斉に突き刺した。虎型の魔物は全身から血が噴きだして、そのまま絶命する。


 その後、騎士たちは魔物の死体を確認しつつ、負傷者をテントまで運び柵の補強を開始した。こうした襲撃は調査中だけではなく、陣地を構築したあとも頻繁にあり、騎士たちはなかなか落ち着いて休むことができないのだった。




 虎型の魔物の襲撃から一時間が経過したころ、遅れていた第二中隊が陣地まで戻ってきていた。第二中隊の中隊長は、大隊長のテントまで来ると敬礼をして帰還の報告をする。


「第二中隊、ただいま戻りました」

「うむ、遅かったが何かあったのか?」


 大隊長がそう尋ねると中隊長は深く頷き、発見したものの報告を始めるのだった。


「はい、実は……」

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