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第20話「山が動いた」

 北の城砦 騎士団詰所 団長室 ──


 冒険者ギルドからの訪問者は、ギルドマスターのクラウディオだった。アルティナは彼にソファーを勧めながら自分は対面のソファーに座った。その両隣には、なぜかクロエとルイージャが座っている。


「お前たちは、どこかに行っていろ」


 アルティナが面倒くさそうにそう言って追い出そうとしたが、ルイージャとクロエは


「まぁいいじゃないか、面白そうだし」

「何か、私でもお手伝いできることがあるかもしれませんし」


 と言って出て行くつもりはないようだった。アルティナは、諦めたようにため息を付くとクラウディオに尋ねる。


「こいつらが同席していても問題がない話だろうか?」

「えぇ、まぁ……」


 クラウディオが一瞬クロエの方を見て困った表情を浮かべていたが、アルティナはそれ以上詮索せずに、そのまま話を進めることにした。


「それで、今日はどうしたのだ?」

「今朝戻ってきたベテラン冒険者からの報告で気になる箇所があり、アルティナ様に報告の必要があると思いまして」

「ほぅ……」


 アルティナは目を細めて真剣な表情になる。クラウディオがアルティナに報告の必要があると言う場合は、竜種がらみのケースが多いからだ。


「その冒険者たちは、かなり奥地まで進んだそうなのですが……『山が動いた』そうです」


 クラウディオの『山が動いた』という言葉を聞いた瞬間、アルティナは机を叩いて立ち上がった。その衝撃に新しく作った、丈夫なはずの机が真っ二つに砕け散る。そんなアルティナの様子に、ルイージャもクロエを目を丸くして見ている。


「ど……どうした、アルティナ!?」

「アルティナちゃん?」


 アルティナは地図が広げてある作戦卓の方へ歩きながら


「来い」


 と短く命じた。




 アルティナ、クラウディオ、ルイージャ、クロエの四人が作戦卓の周りを囲むとアルティナが口を開く。


「クラウディオ、どこだ?」

「はい、おおよそですが……」


 アルティナに尋ねられて、クラウディオが北の城砦から魔の森にかけて描かれている地図に指を這わせる。そして、北の城砦からかなり離れた位置で大きく丸を描くと


「報告によると、この辺りです」


 と言った。アルティナは何かを思い出すようにじーっと、その一点を見つめている。


「……この辺りに山はあったか?」

「少なくとも私の記憶にはありませんな」


 アルティナの問いに答えたクラウディオに、アルティナは難しい顔をして考えて込んでいる。そんなアルティナにクロエが心配そうな表情を浮かべながら尋ねる。


「アルティナちゃん、どうしたんです? さっきからおかしいですよ」


 クロエの言葉が聞こえていないのか、アルティナは反応しなかった。代わりにクラウディオが答える。


「竜種ですよ、お嬢さん。『山が動いた』と言うのは、巨大な竜種発見の符号なのです」


 特に決められているコードではないが、「山が動いた」「山が現れた」など『山』というキーワードは昔から竜種、それも取り分け巨大な竜種を見た者が口にする言葉だった。これは遠くから見るとまるで山のような影が見えるからである。


「巨大な竜種ですか……まさかドラゴン!?」


 クロエは身を乗り出しながら声を張り上げる。クラウディオは黙って頷いた。


 ドラゴン ── 竜種の中でも最大種であるドラゴンは、三十セルジュ(メートル)級の巨大な体躯、中には竜語による魔法を操り空を飛び、様々なブレスを吹く正真正銘の化け物である。百年ほど前にこの地を襲った竜種も、クロエが所属する聖竜教会の信仰しているのもこの種類の竜種だ。


 クロエは光悦した表情を浮かべると、天に祈りはじめる。


「あぁ、私もドラゴンに邂逅する栄誉が与えられるかもしれないのですねっ!」


 あまり人里には現れない竜種の中でもドラゴンは特に数が少なく、誤報を含めても平均五十年に一度程度の発見報告しかない貴重種なのだ。百年ほど前にアルティナが倒したドラゴンが前回の報告である。


 これはドラゴンの繁殖期と休眠期が関係していると言われているが、ドラゴンに関してはあまり研究が進んでいないため憶測に過ぎなかった。


 しばらく黙っていたアルティナがようやく口を開いた。


「誤報である可能性は?」

「わかりません。その冒険者たちもちゃんと見たわけではないようなので……」


 クラウディオの言葉に、アルティナは頷きながら答える。


「わかった。では、該当エリアの侵入禁止の通達を頼む。本件は騎士団で対応する」

「わかりました。それではお願いします」


 クラウディオはお辞儀をすると団長室から出て行った。しばらくあとアルティナは窓を開け


「緊急呼集! 緊急呼集! 三十分後に隊長以上は、大作戦室に集まれっ!」


 と詰所全体に響き渡る大声で叫んだ。



◇◇◆◇◇



 三十分後、大作戦室 ──


 この大作戦室は三百人ほど収容できる部屋で、普段はあまり使用されていない。部屋の中心には円状の卓があり、その上にはこの周辺の地形模型が置かれている。この部屋が使用される場合は、かなり大事であることが予想されているため、集まった隊長たちは真剣な表情で立っている。


 非番だった者も含め、小隊長二十名、中隊長六名、大隊長二名、後方支援を担当する輜重隊の隊長一名、そして事務処理を担当する文官が三名、計三十二名が部屋で待っていると、ドアが開き団長のアルティナと副団長のヴェラルドが入ってきた。


 アルティナは、まず集まった隊長たちに向かって口を開いた。


「急な呼集ですまなかったが、緊急事態ゆえ挨拶は省かせてもらう。模型を見よ」


 隊長たちはアルティナから発せられる緊張感から、より険しい顔をしながら模型を囲むように移動する。


「ヴェラルド、これを先ほどの位置に」


 台の上に乗ったアルティナは、そこに置いてあった旗のコマをヴェラルドに渡しながら命じる。ヴェラルドはそれを受け取ると、先ほどクラウディオが指した辺りにそのコマを置く。


「さて諸君、気を引き締めて聞いて欲しい。竜種だ……しかも、おそらくドラゴンかと思われる。旗を置いた位置で発見報告があった」


 アルティナの言葉に場内は騒然とした。隊長たちはそれぞれ驚きの声を上げている。


「ド……ドラゴン!?」

「本当ですか、団長!」


 アルティナは頷いて話を続けた。


「おそらくだ、まだ確定情報ではない。そこで我が団は大規模調査を行うことにした。規模は一個大隊だ、城砦の防衛はこれまで通り行う。つまり、休みなどないと思えっ!」

「はっ!」


 隊長たちは力強く返事をする。


 通常城砦の防衛は一個大隊が行い、その間に残りの大隊が休暇を取るのだが一個大隊が調査を行うとなると、そのローテーションは使えないため、必然的に休みはなくなることになる。


「第一大隊、まずは貴様たちに向かってもらう。準備を三日以内に済ませ、出発せよ! 期間は一月だ」

「はっ、了解でありますっ!」


 中年の第一大隊隊長は敬礼をして答えた。


「第二大隊、貴様たちは城砦の防衛だ。北側以外は多少減らしてもよい! 防衛ラインが維持できる範囲で交互に休養を取れ、一月後に第一と交代で調査に向かってもらう。準備を進めておけ!」

「はっ!」


 第二大隊の青年隊長も同じく敬礼をして答える。アルティナはさらに訓示を続ける。


「いいか、ドラゴンを発見した場合、交戦しようなどと馬鹿なことを考えるな。存在確認、位置情報、そして可能であれば種類の確認程度でいい。把握したら一目散にその場を離れるんだ。わかったな!」

「はっ!」


 全隊長たちは一斉に敬礼をする。


「では、解散!」



◇◇◆◇◇



 しばらくあと、小作戦室 ──


 アルティナとヴェラルド、そして輜重隊の隊長と文官三名は小作戦室に移動していた。木製の長机に十六脚の椅子が置いてある部屋で、通常の会議はこちらで行うことが多い。全員が席に着くと、さっそくアルティナが本題に入る。


「さっそくだが、備蓄はどうだ?」


 文官の一人が立ちあがると、手にしたリストを見ながら報告を始めた。冬を明けたばかりで食料の備蓄が

やや不足してる件、前回のワイバーン襲撃で失った武具やバリスタの槍などの武器関係の補充は、完了している件などが報告された。


「……わかった、食料に関しては王都へ送るように通達せよ。それと後方支援用の兵員を寄こすように伝えてくれ」

「はい、わかりました」


 文官は返事をすると席につく、そしてアルティナは続いて輜重隊の隊長に向かって命じる。


「ウェルナー、お前は輸送計画の算出を頼む。増員の兵員が来るまでは大変だと思うが、よろしく頼む」

「心得ております、団長」


 ウェルナーという初老の男性は、ヴェラルドの前の副団長で老齢を理由に前線から退き、現在は輜重隊の隊長に就いている。


 ヴェラルドが発言の許可を求めて挙手をすると、アルティナは彼を見つめて黙って頷く。ヴェラルドは立ち上がって発言を始めた。


「ドラゴンが見つかった場合、戦場はどこに設定しますか?」

「無論、北の城砦(ここ)だ。この砦は、その為に建造されたのだからな」


 アルティナの答えに、ヴェラルドは困った表情を浮かべる。


「しかし、住民の避難に避ける兵員がおりませんが……」

「ドラゴンを発見次第、避難勧告を発令する。ここは最前線なのだ、彼らの避難に関しては北の城砦(インビンシブル)の騎士が負う責ではないが、ドラグナー家から誘導の人員を確保する」


 団長としては責任がないが、望んでいなくてもアルティナは領主代行であり、領民である彼らの安否に関して責任があるのだ。


「他には何かあるか?」


 アルティナがそう尋ねると、ウェルナーが挙手をした。


「輸送の件でなにか不明点でも?」

「いえ、見習い騎士たちについてなのですが……」


 アルティナは一瞬きょとんとした表情を浮かべると、ウェルナーに軽く掌を向けて続きを話すように催促するのだった。

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