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第19話「激闘! ビフォーアフター」

 ルイージャとクロエによって、団長室が破壊されてから三日が経過していた。団長室の機能は副団長室の隣に移されており、現在アルティナはそこで仕事をしていた。




 北の城砦 騎士団詰所 仮設団長室 ──


 アルティナが不機嫌そうな顔で書類に目を通していると、ドアをノックする音が聞こえてきた。彼女は書類から目を離すと、ドアに向かって答える。


「開いているぞ」


 アルティナの声に反応して、ドアが開くと見習い騎士のアレットが入ってきた。そし、姿勢を正してから敬礼する。


「団長、お仕事中のところすみません。詰所の職員や周辺住民から、問い合わせが来ているのですが……」

「問い合わせ? 珍しいな……内容は?」


 ドラグナー家の文官が騎士団の事務処理を担当しており、その手の問い合わせなどはそちらが担当することが多い。しかし、今回はなぜかアルティナのところに届いたのだ。そのことを疑問に思いながらアルティナが首を傾げて尋ねると、アレットは少し困ったような表情を浮かべて答える。


「それが……詰所内部や周辺のうろついている巨大な人影についての問い合わせです」

「あぁ、アレか……仕方がないな、それはヴェラルドに回して処理してもらってくれ。くれぐれも丁重に……と伝えよ」

「はっ!」


 アレットは再び敬礼すると、仮設団長室を後にして隣の副団長室へ向かった。


 彼が出て行ったあと、アルティナはため息をついて「巨大な人影」について考えていた。この人影に関してはアルティナやヴェラルド、それと一部の騎士たちはすでに把握している案件で、その正体はルイージャの操るゴーレムのようなものだった。この前破壊した団長室を修繕をするための労働力として使役しているもので、見た目は石の塊で全長は二~三セルジュ(メートル)ほどある。傍目から見れば魔物と勘違いされてもおかしくはない。


「まったく迷惑ばかりかけるな、あいつらは……ちょっと様子を見てくるか」


 アルティナはそう呟くと席を立ち、団長室に向かうために部屋をあとにするのだった。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 騎士団詰所 団長室 ──


 団長室の壁には大きな穴が開いており床は煤にまみれていたが、三日前にはあった瓦礫や本の残骸、壁に突き刺さっていた執務机などは撤去されていた。


 そんな中、黙々と石の巨人が石材を運び込んでおり、ルイージャはそんな巨人たちに指示を出している。


「それはそこ……そっちのやつもそこに置いて」


 そこにクロエが近付いてきて、ルイージャに突っかかっていく。


「ちょっと、そこの耳長さん! そのゴーレム(大きい)の何とかならないの? こちらの搬入の邪魔ですし、好意で来ていただいている職人さんたちが怯えてしまいますよ!」

「そんなのこっちの作業が終ってからやればいいだろう?」


 この二人は団長室の修繕にあたり、喧嘩しながらも役割分担を決めていた。ルイージャはゴーレムなどを使役して外壁や床の修理、クロエは人心掌握術で職人や人材を集めて内装の修理を担当している。


「それでは、こちらがアルティナちゃんの約束に間に合わなくなるでしょ!」


 そのまま二人が睨みあっていると、クロエの後から職人風の中年男性が声を掛けてきた。


「あの~クロエさん」

「は~い、何でしょうか、タッデオさん?」


 笑顔で振り向いたクロエに、タッデオは入り口の方を指差しながら答える。


「それが……廊下で執務机を搬入中の連中が、石材を運んでいるデカイのが争ってやして……」


 その言葉にクロエは「そら見なさい」という視線をルイージャに送るが、ルイージャはやる気がなさそうに手をヒラヒラと振りながら答える。


「あ~素直に道を譲ったほうがいいわよ。ゴーレムたちに道を譲るような知能はないから危険だと思うわ」

「そんな危ないもの使役しないで! ……私が行きます!」


 クロエは一瞬悔しそうな表情を浮かべると、タッデオと一緒に問題が起きている場所へと向かうのだった。




 その後、すぐにアルティナが団長室の様子を窺いに顔を出した。相変わらずの惨状に顔を顰めたあと、中にいたルイージャに尋ねる。


「ルイージャ、ゴーレムに対して苦情が来ているぞ。もう少し何とかならないのか?」

「なんとかって言われても、アルティナが一週間以内に直せってんだから仕方ないさね」


 そう言いながら首を振るルイージャに、アルティナはため息を付いた。そして部屋の中を、もう一度見回してからルイージャに尋ねる。


「クロエがいないようだが、どこに行った?」

「あぁ、さっき職人に呼ばれて出て行ったよ」


 ルイージャがそう答えた瞬間、階下から爆発したような大きな音が響き渡る。アルティナとルイージャはお互いの顔を見合わせると、急いで部屋から音がした方へ向かうのだった。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 騎士団詰所 廊下 ──


 アルティナたちが音がした廊下まで辿りつくと、粉々に砕けた岩の塊がゴロゴロと床に散乱しており、それを避けながら職人たちが執務机を運んでいる。


 そんな中、アルティナの姿を見かけるとクロエが声を掛けてきた。


「あら、アルティナちゃん、どうしたんですか?」

「いや、大きな音がしたから来たんだが……何が起きたんだ?」


 アルティナが周辺に転がっている岩の塊を見回しながら尋ねると、後からルイージャの大きな叫び声が聞こえてきた。


「あぁぁぁぁ! 私の二号がぁ!」


 アルティナが慌てて振り返ると、ルイージャが床に転がっている瓦礫を見つめながら喚いていた。どうやら床に転がっていた残骸は、ルイージャが使役していたゴーレムの一体のようだ。


 クロエは、そのルイージャを見ながらシレッと答える。


「あら、それゴーレムでしたか? 廊下を埋めてて邪魔だったのでどかさせて貰いました」

「よくも、私のゴーレム二号に破壊したねっ!」


 ルイージャが手を空に掲げると虚空から杖が現れた。それを手にした彼女は杖の先に魔力を集中させる。対するクロエも竜語による詠唱を開始して臨戦体勢を整える。狭い廊下が魔力の増加によって鳴動を始めると、執務机を運んでいた職人たちは、机を置いて大急ぎで逃げていった。




「お前たち、いい加減にしろっ!」


 その怒声と共にアルティナが床を踏みつけると、集中しつつあった魔力が霧のように消し飛ぶ。


「わたしの部屋を吹き飛ばしてから、まだ三日しか経ってないのにもう喧嘩か! 今度はわたしの騎士団ごと吹き飛ばすつもりなのか、貴様らはっ!」


 ガチ切れしたアルティナには、いつもふざけているルイージャも、笑顔を絶やさないクロエも顔が引きつっている。


「アルティナ……まぁ落ち着こうじゃないか、ほら喧嘩なんてしてないさ。はははは」


 ルイージャはクロエに近付くと無理やり肩を組む、クロエも引きつった笑顔を浮かべ


「そうですよ、アルティナちゃん。私たちこんなに仲良しさんなんですよ~」


 と答えながら、肘がルイージャの脇腹に突き刺さしている。そんな二人にアルティナは指差しながら告げる。


「いいか! 喧嘩をせず、何か問題が起きたら話し合って決めるように! わかったなっ?」

「は~い!」


 二人ともぎこちない笑顔を浮かべながら返事をする。その様子にアルティナは呆れた表情を浮かべると、ため息をついて執務机を片手で持ち上げ、そのまま団長室に向かって歩き始めた。




 その背中を見送ったルイージャは、肩を組んだままのクロエに向かって仕方なく休戦を申し込む。


「しょーがないから一時休戦だよ!」

「仕方ありませんね。アルティナちゃんをこれ以上怒られせるのは、私も本望ではありませんし、なにより怖いですからね」


 こうして二人は休戦することになり、その後の作業は比較的順調に進んだという。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 騎士団詰所 団長室 ──


 さらに四日が経ち、ルイージャとクロエに呼ばれてアルティナは自分の執務室に戻ってきていた。部屋に入ると、粉々砕け散って穴が開いていた外壁もしっかり直されており、執務机を中心とした家具もすべて新品が用意されていた。それらは応接用のソファーと机を除き、すべてアルティナに合わせて頑丈かつ背が低くしてあり、ほぼアルティナが満足する出来に仕上がっていた。


 アルティナは執務机の席に座ると、前に立っているルイージャとクロエの二人に満足そうに頷く。


「うむ、二人ともご苦労だった。あれ以来、喧嘩もしなかったそうだな」

「そりゃ喧嘩してる暇なんてなかったからねぇ」


 ルイージャは苦笑いを浮かべながら答えると、アルティナは鼻で笑ってから新しくなった内装を眺めて呟く。


「ところで、この所々に加えられている竜の意匠は……」


 柱の飾りなどにドラゴンの装飾が施されており、それは美術的観点から見れば美しいものだったが、元々の部屋にはなかったものだ。それに対してクロエは目を輝かせながら身を乗り出して答えた。


「素晴らしいでしょう? アルティナちゃんのために、タッデオさんたちに頼んで作って貰いました。これで少しはアルティナちゃんもドラゴンの素晴らしさがっ!」

「……あとで撤去させるか」


 アルティナがそう呟くと、クロエは慌てて彼女に縋りつく。


「それはひどいですよ、アルティナちゃん!」

「あはは、冗談だよ」


 そう答えたアルティナにルイージャやクロエも笑っている。どうやら二人の仲も少しは改善された様子である。


 皆が笑っていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「ん? 誰だ……開いているぞ」


 ドアが開き、いつものようにアレットが入ってきた。そして敬礼をすると用件を告げる。


「団長、冒険者ギルドからお客様がいらしてますが……」

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