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第18話「魔女と助祭」

 北の城砦 騎士団詰所 団長室 ──


 アルティナたちが戦場跡地に訪れ、若き騎士たちに不落砦(インビンシブル)の騎士になるための心構えを説いてから数ヶ月が経過していた。


 寒かった冬も終わり、暖かな風に春の訪れを感じられる。アルティナは窓を開け、その心地良い風を感じていた。


 しかし、穏やかなのは外だけであり、アルティナの後ろからは騒がしい声が聞こえてきている。


「ハンッ! インチキシスターが、私のアルティナに近付くんじゃないよ」

「まぁ、なんて口の悪い耳長でしょう! アルティナちゃんは私の友達です! アルティナちゃん、こんな人と付き合ってるとろくなことになりません。今すぐ縁を切るべきです!」


 アルティナが頭を抱えながら後ろを振り向くと、素材が揃いアルティナの装備の最終調整に訪れていたルイージャと、「遊びに来ました」と突然現れたクロエが言い争いをしていた。


 アルティナ以上に、クロエが所属する聖竜教会を「ドラゴンを祭っている頭のおかしい集団」と思っているルイージャと、その教会の教えを信じて疑わないクロエである。まさに水と油の二人なのだ。


「お前ら、喧嘩なら他所でやれ。ここはわたしの職場だ……それにわたしはお前たちのものではない」


 とても不機嫌そうに告げたアルティナだったが、ルイージャもクロエも意に介さず、そのまま口論を続けた。


「私はアルティナと一緒に寝てるんだぞっ!」

「な……なんて破廉恥な! こんないたいけな少女を毒牙にかけるなど!?」




 そのまま言い争いが終わる気配がなかったため、諦めたアルティナはため息をつくと二人を残して部屋を後にするのだった。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 騎士団詰所 室内訓練所 ──


 あきれ果てたアルティナは、室内訓練所に訪れていた。石造りの六角形の部屋の壁には、木剣や刃引きの剣や槍が置かれており、中では騎士数名が見習い騎士たちを指導していた。


 騎士の一人がアルティナの姿を見つけると、驚いた様子で声を掛けてきた。


「団長、どうしたんですか? その格好?」

「どうしたって……あぁ、ちょっとメンテナンス中でな」


 騎士に言われてから、アルティナが自分の姿を確認すると、いつもの鎧姿ではなく赤いチュニック姿だった。ルイージャに最終調整をすると言われて鎧を脱いでいたのだ。四六時中鎧を着たままのアルティナが鎧以外の姿をしていると、大抵の人は驚いて尋ねてくる。


「訓練中か、彼らの調子はどうだ?」


 正直個人的な武技など大型の魔物相手には意味をなさないが、騎士団はゴブリンやオークといった人型の魔物も相手にしなくてはならないため、このような調練も必要なのだ。


「若い連中も体力が付いてきたし、なかなかいい仕上がりじゃないでしょうか?」


 騎士のその言葉にアルティナ嬉しそうに頷くと、見習い騎士たちの訓練を見つめる。どうやら一対一の模擬戦をやっているようで、なかなか気合も入った攻防を繰り返している。


 対戦している騎士たちの一人はアレットで、巧みに槍と盾を使って相手の攻撃を防ぐと、そのまま盾を押し込んで引き倒し槍の切っ先を倒れた騎士に向ける。


「そこまでっ!」


 審判役の騎士が決着の掛け声をかけるとアレットは槍を引いてから、倒れた騎士に手を差し伸べて立たせる。彼はこの数ヶ月で、入ってきた時の未熟者と比べると、見違えるように立派になっていた。


 アルティナは、パチパチと拍手を贈りながら賞賛する。


「見事だな、アレット」

「はっ、ありがとうございます、団長!」


 アレットはヘルムを脱ぐと笑顔で敬礼をする。アルティナは訓練所の中央まで進むと、そこにいた騎士から木製の槍と盾を受け取ると、その槍を盾に打ち付けてから騎士たちに尋ねた。


「よし、お前たち! わたしが少し稽古をつけてやろう。希望者は前に出ろ」


 突然そんなことを言い出したアルティナに、アレットは心配そうな顔で尋ねる。


「団長、さすがに鎧を着ないと危ないですよ。刃引きや木製と言っても当たると怪我を……」

「無用な心配だ。貴様たちも知っている通り、わたしは多少怪我をした程度ではどうにもならん」


 自信満々なアルティナの前に、アレットを押しのけて一人の見習い騎士が進み出た。


「俺からお願いします!」

「貴様か、いいだろう。かかってこい」


 見習い騎士が腰を落としながら構えると、アルティナも盾を前に出しつつ槍を腰に据えた。




 見習い騎士が咆哮を上げながら、槍を突き出すとアルティナは半歩だけ横に避けて、その槍を盾で弾き飛ばす。物凄い衝撃が見習い騎士の右腕に走ると、彼は槍を落としてしまった。


「うわっ!」

「槍を落とすな!」


 アルティナはそう言うと、今度は一歩前に出ながら槍を横薙ぎに振る。見習い騎士は慌てて盾を前に出してそれを受け止める。しかし、馬車にでも撥ねられたか!? と思うほどの衝撃で後ろの壁まで吹き飛ばされてしまった。


 そのまま崩れ落ちた騎士に向かって、アルティナが告げる。


「ふむ……盾は落とさなかったな。槍は落としても他の選択があるが、盾を落としたら死ぬからな」


 アルティナは、周りで見ている騎士たちに向かって微笑むと


「それで、次は誰だ?」


 と尋ねるのだった。




 それから一時間後、アルティナの周りにはほとんど動ける者は立っておらず、アレットとベテラン騎士の数名以外は、すべて倒されていた。


「皆、なかなか訓練を積んでいるようだ。これからも励むように」

「はっ、ありがとうございました!」


 動けるものたちが何とか敬礼をした瞬間、爆発したような大きな音と共に建物全体を揺らす振動が彼女たちを襲った。


「何事だ!?」

「じっ、地震でしょうか?」


 アレットは動揺しながらそう尋ねるが、アルティナは落ち着いた様子で天井を見つめている。


「いや、音は上からだった。動ける者は付いて来い」

「はっ、はい!」


 部屋から出て行くアルティナ。その後を追ってアレットとベテラン騎士の一人が部屋を後にするのだった。



◇◇◆◇◇



 北の城砦 騎士団詰所 団長室 ──


 半壊 ── 控えめに言って半壊していた。


 煙に包まれた廊下を進んで、団長室まで来たアルティナたちが見たものは、無残にも吹き飛んだ団長室だった。大きく穴が開いた壁に、散乱している書類と本、横倒しになった本棚や吹き飛んで壁に突き刺さっている執務机など悲惨な有様だった。


 その中心では背の高いエルフと、衣服が多少破れている聖職者が睨み合っている。


「ほぉ~今のを耐えるとはやるじゃないか、インチキシスター!」

「貴女の野蛮な魔法など、竜の加護がある私には効きません! 今度はこっちから……」


 アルティナはすぐに飛び出すと、持っていた木製の槍を彼女たちの頭に叩きつける。二人とも障壁を張っているのか衝撃を緩和していたが、それでも脳天に響く衝撃に蹲ってしまった。


「貴様らは、何をしてるかぁ!」




 その後、ルイージャとクロエは正座させられて、二時間ほどアルティナから説教をされることになる。傍目から見れば仁王立ちしている幼女に大人の女性が叱り付けられている異様な姿だ。


 彼女たちの話によると口論が激しくなり、クロエの一言でルイージャが暴走して極大魔法を使用してクロエを消し飛ばそうとしたところ、彼女も同じく竜の加護を使用して対抗したらしく、反発した魔力で団長室が消し飛ばされる結果になったらしい。


 説教が終わると、疲れ果てたのかアルティナは頭を抱えながら項垂れている。


「アルティナ……悪かったよ、ちゃんと直すから許しておくれ」

「アルティナちゃん、ごめんなさい。私が責任を持って、ちゃんと直しますから機嫌を直してください」


 ほぼ同時に言い出した二人だったが、かぶったことが気に触ったのか再びにらみ合いが始まってしまった。


「貴様ら、いい加減にしろっ! 今度、喧嘩したら絶対に許さん」


 アルティナに叱責されて二人とも大人しくなると、アルティナは二人に告げた。


「二人で協力して一週間以内に直すように……出来なければ、貴様らは出入り禁止だ!」

「えぇ~!」

「そんな~」


 アルティナの決定に不服なのか、二人は文句を言っていたがアルティナが一睨みする黙り込んだ。アルティナは、集まってきていた騎士たちに部屋の整理を依頼する。


「お前たち、すまないが……この部屋から無事な資料や書籍を、副団長室の隣の空き部屋に移してくれ」

「はっ」


 騎士たちは敬礼をすると、命じられた通りに本や書類を運び出し始めた。


 そんな中、ルイージャとクロエは痺れた足で立ち上がれないまま、責任の擦り付け合いを続けており、アルティナは大きなため息をついたのだった。

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