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桜花繚乱

 

 こんにちは、榎本こころです。

 前回はお騒がせしてしまい本当ごめんなさい。

 え、今の私ですか?あの後どうなったか知りたいって?


「おい女どこ見てんだこっち見ろ」


 絶賛チンピラ(女の子)に絡まれてます。

 私より少し背が低いその子は強い目力で私を睨んでくる。メンチ切られてる。でも可愛いから怖くない。彼女はきっと一生懸命睨んでいるんだろうけど……


「てめえ……一体どうなってやがる!奇妙な格好してやがるし……化物か何かかぁ?」


 漫画でよく聞く雑魚キャラの台詞そっくり……どうしてだろう、同情の涙が……


「殿!女性(にょしょう)に向かって何ですかその口の聞き方は!あっ違う殿も今女だ!いや、殿は元々男であって……???」

「やめろ兵庫、ややこしくなるだろうが」


 何なの?この場に頭弱い人達しかいない。誰か助けて……!


「小癪な。老いぼれ陰陽師め、邪魔をして……」


 どこからか聞こえる掠れた声に私は辺りを見渡す。声も言葉もいかにも悪役って感じだ。

 すると私達を無数の黒い影が囲んだ。辺りには異様な気が立ち込めているのが私でも感じられた。おそらくこの偉そうな女の子(いや元は男の人なんだけど)も察したのか、顔を歪めて舌打ちをする。


「小賢しい真似しやがって……出てきやがれ!」


 少女は周囲に立ち込める影に怒鳴る。しばらくして黒い影のひとかたまりが蠢いて、それは黒猫の形を取る。先程の黒猫だ。


「乱暴な言動……銘、和泉守兼定『人間無骨』の十文字槍……そう、お前が兼山城主、森勝蔵長可(もりしょうぞうながよし)……!」


 黒猫の口は動いていない。私達の頭にその声は直接響いてくる。大人びた女の人の声だ。

 っていうかあの子の名前……「もりしょうぞう」が名字?で、「ながよし」が下の名前かな?


「お前もあの陰陽師も目障り……ここで(わらわ)の餌となるが良いわ!」


 黒猫の一声で私達を囲んでいた影が空中に登って集まり、それは龍を象った。

 黒猫が喋っていることも、影が龍になってしまうことも信じられない。どうして私はこんな所に来てしまったのだろう。


「抜かせ!人間無骨に突けぬ物など無いわ‼︎」


 ドスの効いた「ながよし」さんの怒声が響く。

 あの人……元の姿に戻ったらきっと強いんだろうけど、女の子の姿で勝てるの⁉︎


「娘、こちらへ来い!」


 家来さんが私を呼んだ。強くなる風に背中を押されるようにして私は家来さんの手を取った。タコが多い力強い手だ。


「あの、大丈夫なんですか?あの人!」

女子(おなご)のお姿ではどうにも分からぬが……元のお姿の時は無敵の御方だ!」


 信じるしかない、と言う家来さんも内心ではすごく心配なのだろう。顔にそう書いてある。

 そしてやはり、私達の心配は的中した。吹き荒れる強風と龍の大きな咆哮が一度しただけで少女の華奢な身体は吹っ飛ばされた。


「痛ぁっ⁉︎」

「ッだぁーッ⁉︎」


 しかも、何故か私の体へダイブしてきて、倒れ込んだ。


「くそッ!」


 謝りも無しか。

「おい」と声をかけられ、私の上に少女が覆い被さるように乗ってお互い手を握った状態で倒れている事に気付いた。

 気のせいかな……女の子の額と握ってる手の間から薄紅色の淡い光が見えるような。


「おい!何で俺の額と手が光ってる!」


 気のせいじゃないみたい。なんだかこの子、だんだん心配そうな顔になっている。それとは反対に強くなる光。

 女の子の額の光は徐々に形が鮮明になり、それは五つの花弁のようだ。

 花弁の先にが小さな切れ込みが入るのが、小さな動きだが見えた。


「桜ーーー……」


 私がそう呟いた途端、握っていた手の方の光が突如強くなり、私達の周りにその光と同じ色の花弁が音を立てて舞う。

 私達はその花びらの勢いに負けてお互いの手を放した。


「これは……桜か?こんな季節に……」


 家来さんが驚きながら花弁に手を差し伸べた。家来さんの指が触れるとその花弁はふわりと幻のように消える。


「陰陽師め……!目眩しのつもりか!」

「目眩しだけじゃ済まねぇぞ」


 私と美少女の手が離れた時、それは現れた。桜が集まり、桜色に刃を光らせる。

 少女は赤い柄を片手で握り締め、地に刺さっていた桜色の槍を引き抜いた。


「咲けよ、仇桜」


 その凛とした一声の後、地を蹴って影に向かって飛びかかるように駆け、その槍を振るう。

 大和撫子……まさにその四字熟語が似合う。自分の背丈以上はありそうなその長い槍を携え影を一掃する姿はあまりにも美しく、私は思わず綺麗、と呟いた。


「おのれ陰陽師、おのれ森勝蔵長可!この侮辱必ず近いうちに果たしてやるわ!」


 黒猫の怒声が少し遠くで聞こえた。その後に、何か「ながよし」さんに言っていたけど良く聞き取れなかった。そして、すぐに黒猫は少女の桜色の槍によって突き倒された。


 黒猫は幻のように消えた。少し遅れて少女は元の男の人に戻った。

 そして私を大量の汗がどっと襲った。体も重いし、短時間だったのにすごく……疲れが……


「おい、女」


 低いドスの効いた美青年の声を最後に聞いて、私の意識は途切れてしまった。


 私……どうしてこんな所に来てしまったんだろう……

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