シロエとクマ 2
もちろん、悲しんだのは王子だけではありません。
木苺のようせいはそのできごとを"いちからじゅうまで"全て見ていたのです。シロエが大好きだったようせいは、王子をにらみつけて言いました。
「わたしたちの大切なシロエをよくも傷つけたな!」
おこったようせい達はとてもおそろしい顔をして、王子にまほうをかけました。
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
しかし、そのまほうは王子には当たりませんでした。
王子の家来が彼をかばい、その大きなからだでまほうをうけとめたのです。
「おぉ、ウズよ……なんていうことだ」
王子はその日、美しい娘のシロエをうしなうだけではなく、国一番のすばらしい家来のウズも、うしなってしまったのでした。ようせいは、シロエを傷つけた王子におこっていたのですが、王子ではなく家来にまほうがあたってしまったことに、とてもおどろいていました。
本当ならそのようせいのまほうは"死"のまほうで、王子の家来はたちまち死んでしまうはずです。家来のウズは息もたえだえに、最後にこう言ったので、王子は泣きながらほかの家来と一緒にかえっていきました。
「王子、早く国におかえりください。これはぜんぶ、わたしがやったことなのです……」
ようせいはそんな家来のウズがとても心のやさしい男なのだとしると、かわいそうになって死のまほうを解いてやりました。しかしウズはそのよこでたおれる娘のシロエを見てこう言いました。
「ようせいよ、わたしはこの娘さんをどうにかして助けることはできないのか」と。
ようせいはもちろんそうしたかったのです。しかし小さな木苺のようせいには、そんな大きなまほうを使うことはできません。なのでようせいは、そう言ってくれたウズにひとつだけ方法があるのだとつたえました。
「この林のおくの小屋に、それはそれはおそろしい"まじょ"がすんでいるんだ、"にんげん"がだいきらいだけど、彼女のまほうはとても大きい。まじょから命の水をもらってこれば、シロエは助かるはずだよ」
ウズはそれをきくなりたちあがって、林のおくに歩いて行きます。
シロエはウズがいなくなってすぐに、小さな町の住人が見つけたのでした。見つけた青年ももちろんシロエが大好きでしたからおいおい泣きました。シロエは家にかえっても、もう話すことはありません。おかみさんは心の強い人でしたが、顔をまっさおにしてたおれてしまいました。
小さな町は、人々(ひとびと)がシロエのしんでしまったことに、ふかくふかく悲しんだせいで、その悲しみは"まほう"を呼び、まほうの雲は小さな町をおおいかくしてしまいました。小さな町にたいようが顔をだすことはなくなってしまったのです。