乱戦
市庁舎から外門砦に降りると、人狼たちはすでに闇に紛れていた。
外門砦からは窪地が見渡せるはずが、どこに潜んでいるのか全くわからない。
おお、ハイド・イン・シャドウ。
こちらは二人の護衛に守られながら、囮の豚を外門砦前に繋ぐ。
雑用重点。
護衛は巨人鉱製の両手剣を持った剣士のアルフォンスさんと、地面にめり込むほど重い、狼重鉱製の大型盾を軽々と使いこなす壁盾兵のゴットホルトさん。
ポリカーボネートもジュラルミンもないが、インベントリで見つけたこちらの世界オリジナルと思われる鉱石を使ってご要望の剣と盾をつくって二人に持たせた。
採取した希少金属。
引張強度(硬くかつ粘り強い)が大きく軽い巨人鉱。
硬くて非常に重い狼重鉱。
軽量かつ非常に硬い(耐破断・衝撃性に優れた)狼鉱。
非常に硬くて重い虹白金鉱。
狼重鉱はタングステンよりさらに重く硬い鉱石のようで、ドワーフたちに見せてみると、面白がって加工し始めたがうまくいかず、最終的には、
「本職の鍛冶師にでも相談しろ!」
と、怒鳴られた。
ウチに鍛冶師のドワーフいないじゃん。
まあインベントリで加工できるけど。
この間まで使ってたのが石の剣(と黄金の防具)だったのにこの変わりよう。
玄武岩や花崗岩、安山岩あたりをマイニングしていると、砂鉄と一緒にそれなりの量が採取される巨人鉱は別にして、含有量がかなり少ない希少金属を無理やりインベントリで集めて纏めているので数を揃えられない。
希少金属製の武器が量産の暁にはトロールなぞあっという間に叩いてみせるわ!
まあ、二人とも喜んでくれていた様なのでいいか。
程なくして泥小鬼たちが、目の色を変えて窪地になだれ込んでくる。ついさっきあんな目にあったのに、みんな豚まっしぐらかよ。
泥小鬼の先頭集団が豚に喰らい付き、豚の絶叫が上がるのと同時に、背後から音もなく襲い掛かる人狼隊。
悲鳴をあげる暇すら与えず、子供たちが各自1匹ずつ、ルフさんが3匹同時に。
人狼隊のスリーマンセルが一瞬の間に5匹の後頭部や喉笛を噛み砕く。
さらに2匹を仕留めるルフさん、両手の爪と口の周りが血だらけ。マジすげー。
後方からの襲撃に気がついた泥小鬼たちを、今度はザシャくんとクーリンディアさんが市庁舎の3階から、外門砦から小烏丸と弓式神たちが射掛ける。
さらに混乱する敵を、まるで狩りをするような動きで恐怖を煽るように追い立てる人狼隊。
おかげで敵は大混乱。
人狼隊の誘導が巧みで、俺の腕(とインベントリ製の弓)でも余裕を持って仕留められる。
全く危なげなく、1匹また1匹と倒されていく泥小鬼。
うん、余裕。
およそ1/3ほど倒したあたりで、クーリンディアさんの叫ぶ声が市庁舎から響く。
「泥鬼が侵入しました!」
窪地の泥小鬼はまだ約30匹ほど残っている。
余裕かと思いきや、急展開。
やっぱり突出した敵の殲滅はちょっと欲張りすぎたか。
ルフさんにも声は届いたようで、市庁舎側に目配せした後、立て直す余裕を与えないよう泥小鬼を蹴ちらす。
「五虎退、二匹連れてついてこい!」
あの目配せは退却経路は市庁舎側ということだと信じて移動する。
市庁舎の1階部分は、敵を誘い込むための一箇所を除き全て土塁で塞いであるので、まずは外門砦から市庁舎の3階へ登り、そこから1階に降りる。
間髪開けず飛び込んでくる人狼隊と、一拍置いてなだれ込んでくる泥小鬼たち。
入り口まで進んで迎え撃つつもりが間に合わずに、市庁舎の1階で乱戦状態に巻き込まれる。
外門砦に小烏丸たちと剣虎一匹を置いてきたのは俺の判断ミス。
うん、指揮官の才能とかないわ。
俺を守るように前に出る壁盾兵のゴットホルトさんと剣士のアルフォンスさん。
迫り来る泥小鬼たちに左右から剣虎が躍り出る。
巨大な顎と前爪で一瞬で3匹の泥小鬼を屠り吹き飛ばす。
その惨状を目の当たりにした泥小鬼が、転びながら逃げ出そうとするが、後ろから来る仲間に踏みつけられる。
その勢いのまま10数匹の泥小鬼がゴットホルトさんの持つ大型盾に突撃してくる。
が、ビクともせず受け止める。
大型盾に止められ、勢いを失った泥小鬼たちをアルフォンスさんが両手剣で薙ぎはらい、さらに剣虎が数匹を噛み砕く。
しかし、その隙間をすり抜けた泥小鬼が、薄汚れ切れ味の悪そうな短剣でゴットホルトさんの右足をメッタ刺しにする。
耐え切れず片膝をついたところを、別の泥小鬼が飛びかかりゴットホルトさんの喉笛に喰らい付く。
歌う月7
住人数についての報告
報告者:モットー ドリュアス
死亡:人間1名
詳細は別紙にて
住民総数:112
内訳:
招来者:3
人間:86
ドワーフ:8
吸血鬼:4
ハーフエルフ:3
人狼:2
熊猫人:2
人虎:1
龍人:1
猫人:2
以上




