緒戦
市庁舎の周辺、あるいは上の方に石や岩、木切れや沼小鬼が飛び交う。
時折、何かがグシャリッ!とか、バキャッ!とか嫌な音を立ててどこかにぶつかるが、最初の一撃以外でこちらに損害は出ていない。
「こっちからもっと攻撃しなくてもいいの?!」
市庁舎の三階を石壁で補強している俺に、あんちゃんが下階から声をかけてくる。
威勢がいいのかビビってるのか。
「あんちゃんは弓使えねーだろ。縦深防御とかそんな感じだからいいんだよ。多分! そんなことより子供たち歌いっぱなしだぞ!」
穴の開いた壁を補修がてら、リセイネルさんともう一人のハーフエルフ、クーリンディアさんの射撃用に射眼を設置するも狙いにくいと大変不評。
外側は狭く内側になるほど広くしてあるので、安全性を確保しつつ射角を維持したつもりなんだけど、まあ感覚的な問題らしい。
それでもこの距離を、動く的相手に何本も命中させているのはちょっと感動もの。
ただ、射手が二人だけなので弾幕的な運用ができない。
距離が離れているのもあるが、射撃してくる位置さえわかれば結構躱せるものらしく、うまく身を翻したり小さな楯で受けたりする沼小鬼も何体かいて思ったほど数は減っていない。
的の大きい沼鬼に当てても不機嫌になる程度で、まさに嫌がらせにしかなってない。
投石は続いているが、クーリンディアさんには適宜休憩を挟みつつの牽制継続をお願いして、下階に降りる。
小堡を拡張した外門砦のザシャくんに第二防衛線の指揮を任せ、フェデルマさんとリネイセルさん、あと何度言ってもそばを離れないモットーくんを従え、時折飛んでくる飛行体に注意しながら中庭に戻る。
「どんな塩梅?」
「おお、こんなもんでどうじゃい」
橋を渡り城門塔を抜け、中庭の一角で作業しているドワーフたちに声を掛ける。
渡されたのはクッコロ騎士団専用の杖状投石器の試作品。
焼けた石を投擲するために、大きなスプーンというかラクロスのスティックのような杖の先端が鉄製の杖状投石器。
ドワーフたちは醸造者や樽職人なので、本職の鍛冶師ではないけれど、人間より手先が器用なので巨人用武器作成を依頼しておいた。
扱いが簡単らしいとウワサの投石紐も用意した。
投石紐は楯を構えつつ扱えるので、後方のみんなに自衛手段として渡している。
ただ弓より扱いが簡単とはいえ、自分で試した時は石が後方へ飛んで行った。
フレンドリーファイヤとかマジ勘弁なので要練習です。
フェデルマさんが、ドワーフから受け取った石杖投石器を確かめる。
「試し射ちが必要ですね。崖の上でやらせます」
戦場の三女神を城門塔に残して、
「着弾、いまっ!」
的なことを崖の上でやってる。
今頃になって、あの時にカール自走臼砲を駄女神からもらっておけばよかったなと少し後悔。
大量破壊兵器使用はBAN対象らしいし、再利用できるかもわからないけど構造を知るだけでも何かの役に立ったかもしれない。
興里には別のものを頼んでおいたが、姿が見えない。
探しに行って扉を開けたら濡れ場とか、マジ勘弁なのでまあ今はそっとしておこう。
あれ、業物たちにはどっちに見えてるんだ?
まあ衆道は戦場の習いだしどっちでもいいか。
中庭周辺の幕壁を補強していると、辺りに良い匂いが漂う。
年単位の籠城戦になるとは思えないので、食事は豪華にと伝えてあり、戦時とは思えないほど活気に満ちている。
守りたい、この笑顔。
あれ、何の冗談にもなってない。
そういえば、あいつらって糧秣確保どうしてるんだ?
リセイネルさんに指示して、外の斥候に敵の兵站輜重状況の確認を命じる。
昼を過ぎた頃には、敵からの投石(投小鬼)が散発的になり、次第に収束していった。
結局今日は、土塁や石壁に幾つか命中した以外、すべて明後日の方角に飛んでいき、初撃を除いて特に被害もなく終わる。
初撃でかなりビビったので、結構な拍子抜け。
破城槌を担いだ沼鬼が前に出てきたらしいので、目標と言うか目的を思い出したのかもしれないが、投石(投小鬼)を止める理由にはならない。
「なんで投石(投小鬼)やめたんだと思う?」
「単純に飽きたのではないでしょうか?」
フェデルマさん曰く、最初の直撃で味をしめて(楽しくなって)、試してみたものの全く当たらないので飽きた、と。
「作戦行動じゃなくて、遊んでたってこと?」
「バカですから」
そうか、筋脳だったんだな。
ずっと筋脳だといいな。
緒戦における被害はゼロ。
相手については、おそらく投げ沼小鬼による損害が一番大きそう。




