騎士爵位授与式
ファンブルしました。
マジクソゲー。
鹿狩りの月 30
市庁舎の3階でザシャくんの騎士爵位授与を執り行う。
執り行うとか大袈裟に言ってみたけど、教会でも厳かな大広間でもないし、赤い絨毯すらない板の間。
3階に住民全員は(詰めれば入れるけど)入れないので、住民の代表と司祭様。あんちゃん、興里、あと土の精スターズ率いる子供たちのヴァレッタ聖歌隊。
荘厳な旋律に流れる歌詞が「荒ぶる神ども言向け和し」とか「伏わぬ人ども退け撥ひて」とか「天の下治らしめしき」とか古事記的なのが聞こえてくる。
これは多分、翻訳精度の問題だと自分に言い聞かせて突っ込まないようにする。
詠唱と名前はともかく子供たちは可愛いです。
叙任式は事前にザシャくんに聞いておいた流れに沿って進める。
司祭様はいるけどあまり関係ないそうです。歴史的には騎士の戦士的側面が薄れ、爵位など権威と結びついてくると叙任と聖職者の関わりが増えるらしい。
ザシャくんが俺の前に跪く。
跪くザシャくんの肩に置くのは剣ではなく手刀。
右手で手刀をつくり、手のひらを下にしてザシャくんの右肩首筋に手刀を添えて忠誠を確認。
「汝、我の楯となり剣となるか」
「主はわれらを鞫き給ふもの 主はわれらに律法をたて給ひし者 我、主の騎士となり主の楯となり主の剣となりし者」
忠誠を誓った後、手刀の手のひらを返し、頭の上を通して左の肩に移し肩から手刀を離す。
ザシャくんが立ち上がり叙任式終了。
「これからもよろしくね」
ちなみに忠誠対象は俺個人だそうです。国家とかではなく個人的な主従関係。
まあ国とかないしね。
あと多分だけど、俺のセリフ短くしてくれたザシャくんいい子。
これからは、「サー ザシャ」とか呼ばないといけないのかなと思っていたけど、今まで通りでいいと言われた。
すごく助かります。
ザシャくんは敬称に様を使うようになったけど、今まで通りでいいよと一応伝えておく。
騎士爵位授与が終わった後は、お披露目と言うか祝賀会というか、市庁舎の1階や小堡で大宴会。
呼んでないのに、いつの間にか輪の中にいるクッコロ騎士団。
なぜか楽隊とヴァレッタ聖歌隊の音楽バトル勃発。
審査員をさせられたけど、全裸にはならないです。
ご飯食べてる時はみんな楽しそうで、こっちも嬉しくなるね。
島の農業試験場では、骨粉だけでなく豊穣系の妖精精霊巨人たちを巻き込んでの土壌改善祭り。
土地にそれほど負担をかけなくても、小麦については備蓄確保の目処が立ちそうということなのでここは大盤振る舞い。
暇を見つけては、地形を利用して小堡を複数拡張したおかげで、曲輪構造というほどでもないけど軽い迷路化(真っ直ぐ攻め込まれない程度)。
外部とつながる門と、複数の小堡をつなぐ小さな門に門番を交代制でおく。
門番は、人間の各氏族同士で話し合ってもらい、自治防衛の部隊を組織してそこから派遣。
亜人は数が少ない上に単独行動の方が能力を活かせるようなので、直接色々な仕事を依頼している。
人間は9割が農奴で、元傭兵崩れの柄の悪いのが何人か。あと司祭。元傭兵を中心に防衛訓練も依頼しようとしたが、なんか血の気が多いだけで防衛戦とか全然話が通じない。
「敵は倒す。これが俺の正義!」
いや、実戦経験があるってだけで頼もしいと言えば頼もしいのだけど。
とりあえず、大盾のほか、7mほどの長槍と3mほどの槍斧を用意して小堡の各門付近での防衛訓練。
門の内側に重い長槍を乗せられるバリケードを設置して、槍衾風防御陣。
とかいう考えを話していたら、農奴には剣や槍を持つ権利がないとか言いやがるから、権利あげといた。
というか、武器も持たずに門番する気だったのかい。
嗚呼面倒臭い。
ハーフエルフに用意してもらった短弓を渡してみたけど、使える人間はいなかった。
マジか。
傭兵含めてさすがにゼロだとは思わなんだよ。
インベントリでつくったデフォルトの弓と矢は、訓練なしでも使えるけれど、矢の素材が特殊で全然足りない。
クロスボウを用意したいところだけど構造がいまいちわからない。なんとなく想像でつくったものは、弓が飛びませんでした。
実物があれば、素材さえ用意できれば多分インベントリでつくれるのに。
訓練その他、細かい箇所はザシャくんと相談することに。
最初からそうすればよかったよ。
今日はお祭りなのでそれほどでもないけど、やっぱり例の食害事件以来、人間と亜人の雰囲気がギスギスしてる。
簡単な団結方法は外敵の存在だって誰かが言ってたけど、でっち上げるほどの手腕もないし、実際外敵とか来ない方が助かる。
だって豚や牛すら解体したこともないし、ましてや人を殺したことはない。
実は人間の農奴の方がその辺りの経験が豊富だったりする。
まあ博愛主義者ってわけじゃないから、正当防衛の拡大解釈くらいいくらでもするけど、最初の一人を殺すなんて経験は、してみないことにはわからないし、できれば経験したくない。
とか考えてたら、ゾンビになったユリアちゃんの両親を殺したことを思い出す。
なかったことになんてならないのに。
そうだった。経験者だったな。
また面倒臭い方向に思考が向かう。
やだやだ、メンドイメンドイ。
「バァン様!」
みんなからの祝辞がひと段落したのか、ザシャくんから呼び止められる。
「おつカレー」
「今日はありがとうございます」
「そんなに硬くならなくてもいいよ。今まで通りでいこう。そのうち騎士団とか用意しようね」
「はいっ!」
ザシャくんは可愛いなぁ。
モットーの報告書
輝く月 17
住人数についての報告
報告者:モットー ドリュアス
追加難民:1名
人間(1)
死亡:3名
ヘルマン(人間 男性 27歳)
死亡理由:戦死
グィード(人間 男性 43歳)
死亡理由:戦死
ザシャ(人間 女性 15歳)
死亡理由:戦死
住民総数:114
内訳:
招来者:3
人間:92
ドワーフ:8
ハーフエルフ:3
人狼:3
熊猫人:2
吸血鬼:1
人虎:1
龍人:1
以上




