妖精の女王
妖精の女王メイヴの神域、コナハト。
聖なる泉を探して七難九厄の末(誤用、しかも探し始めてから10分も経ってない)、辿り着いた5人のパーティ。
浴槽の精のヴァーニャ。
半海豹のセシュ。
水の精のマウロ爺。
俺(人間重機兼、□次元ポケット)。
従騎士のザシャ。
(並び順・敬称略)
異色過ぎる。
立派な牡牛に突進されることも、魔物との戦闘もなく無事到着。
そこは前にも来たことがある場所。
周囲に幾つかの岩が浮いた、海側にそそり立つビルのような崖。
ここ神域だったんだ。
最初に来た時も気にはなったけどスルーしたんだよな。
「ここなの?」
「はい、ここが神域コナハトです」
アザラシの格好では歩きにくいということで、毛皮を体に巻いただけの半裸の美女半海豹のセシュさんが答える。
「この巨石、すごく目立つのに意識があまり向かなかったのは人払いの結界でもあるせいかしら」
「いやじゃのぅ、帰りたいのぅ」
妖精だか精霊だかの三人が目に見えて浮き足立っている。
「結界なぞありはせぬぞ」
目の前の巨石から、心臓を鷲掴みにするような声が地響きのように聞こえてくる。
「お主らが無意識のうちに避けておっただけじゃ」
鳥肌がやばいことになってる!
やだ、俺も帰りたいT_T
巨石が徐々に人型に変わっていく。いや、巨石自体は人型の背後にそのままあるから、そう見えただけなのかもしれない。
「お主が神託にあったバァンか」
赤毛の女性が姿を表す。
ハシバミの小枝をよりあわせた輪冠。金の刺繍で縁取られた紫とも黒ともつかないローブ。古代アイルランドの民族衣装のような装束。
右肩に金鵄、足元に牛ほどもある巨大な、緑がかった黒い毛の犬妖精の番犬をはべらす、激しく美しい女神。
その躯体は巨石と同じくらいの大きさがあり、おそらく10mは超えてる。
おかげで、足元の妖精の番犬の大きさを勘違いしてしまいそうになる。
あー、巨人って初めて見たな、すげー。
脳内では間の抜けたことを考えていたが、ウェヌスと会った時には感じなかった凄まじい畏怖を身体中の細胞が訴えてくる。
これは関わっちゃダメなやつだろ。
「妾が戦いと性愛の女神 妖精の女王メイヴじゃ」
その一言で俺以外のみんなが膝をつく。ザシャくんも。
「その昔、この島はエリンと呼ばれていた」
俺も膝をつけばいいのか?でもなんか体が動かない。
「じゃが……」
そう言って、こちらを見ていた目を細める。
目を、逸らしたい。けど逸らしたら殺される。多分。
「イル・ベルトにヴァレッタ、じゃったか」
エリンでいいです、大丈夫です。
「まあ良い、お主らがなんと呼ぼうが構わぬ」
いえ、エリンでいいです、大丈夫です。
「妾は島。古来このエリンの主権は妾にある」
「妾には王を聖別し王をつくる力がある」
「エリンを治める者はまず妾とともに寝て祝福を受けなければならぬ」
「あ、そういうの間に合ってますから」
「……ほぉ」
細めていた目をさらに細めて凝視してくる。
気持ち眉間にしわがよってるようにも見える。やめてw
「断るか……。古来よりのしきたりを無視する者の治世は短いぞ」
メンドクセー!
寝る?
あのでかいのと?
そもそもどうやんだよ?!
俺の体より、お前の太ももの方がでかいだろw
助けを求めるように周辺を見渡してみるも我感ぜずを貫く所存ですか。
ユウジョウどこー?
いやいや。
そもそも、どう考えてもそれ、デス・ノボリじゃん。バカなの。
あ、そういえば跪くの忘れてた。
死ぬかな、俺。
妖精の番犬
犬(クー)の妖精(シー)。足音を立てずに駆ける。
くるんと丸まった尻尾を持つ長毛種(暗緑色)。牛並みに大きいので乗れる。夢が叶う。
侵入者に吠えて警告する。三回目でかみ殺される。怖い。
ケルト神話では3と言う数字が重要だそうです。ここからケルベロスに転化するのかな?
モットーの報告書
鹿狩りの月 25
住人数についての報告
報告者:モットー ドリュアス
追加難民:1名
人間(1)
住民総数:106
内訳:
招来者:3
人間:86
ドワーフ(8)
ライカンスロープ(4)
ハーフエルフ(3)
ヴァンピール(1)
ウェアタイガー(1)
備考
先日の魔物による食害により人間と亜人種間で小競り合いあり。
以上




