【閑話】 創造主たる女神
「ねえねえちょっとー、聞こえるー?」
びっくりして70年代の漫画みたいに飛び上がる。
小さい時から俺はむちゃくちゃビビリだった。
後ろから友人に「わっ!」と軽く声をかけられるだけで、飛び上がるんじゃないかってくらいに驚くので面白がられてなんども脅かされた。
しかも来るとわかっていて、驚かないようにしようと身構えても、体が反応してしまう。なのでもう諦めた。いや、話が逸れた。
「うぁぇーーーーーーーぃ!」
大きい声が出てしまった。いや実際かなり驚いたし。
「おー聞こえてるんだねー、ってか何その声w」
うるさいよ。ドキドキする心臓を抑えつつ、返事をする。
「えーと……どちら様でしょうか?」
「私は美人な女神で創造主だよ、ミュルトゥスのウェヌスって呼んでねー」
音声チャットだからって、好きなこと言ってるな。長いからウェヌスでいいかな。
「なんかバグがあるなーって思って探したら、君を見つけてねー」
あれ? 冗談が本当になったかな?
「そうなんですか、何かの不具合だと思うんですが、ウェヌス様は元に戻せますか?」
女神とか色々スルーしつつ、質問してみる。
「なんかこういうのって難しくてよくわかんないんだよねー」
何言ってんだこの女神。
「えーと、意図的にこのゲームに呼んだとかではなく、不具合的な感じですか?」
「そーなんだよー、何してくれてるの君ーって感じ?」
俺が言いたいよ。ってかなんで疑問系なんだよ。キレそうなのを抑えつつ話を続ける。
「ウェヌス様がこの世界を作ったんですか?」
「そうだよ!ほらなんか最近ネット小説にハマっちゃってさ。なろう、だっけ?あんな感じで勇者を召喚とかしてちやほやされたくなっちゃってさー、でもイチから天地創造とかかったるいっしょ?だから既存のデータを流用してちょちょいっとね」
この女神、堂々とパクリを公言しやがった。レビューって信じられるものなんだなー。
「天地創造っていうか、これゲームですよね?」
「その辺はまあ、追い追いとね」
もういいや、期待するだけ疲れるし。
「そうですか、では元に戻せるようになったらまた声かけてください」
「ちょっと待ってよ、こっちだって用事があって声かけたんだから」
「用事っすか?」
丁寧に喋るのやめていいよね?
「そうそう、こっちでも不具合検証するから、ちょっと手伝って欲しいんだよね」
「お手伝いですか、何すればいいですか?」
「まあ、簡単に言えば、テスター?っていうのかな。色々と試してもらってフィードバックしてもらえると助かるんだよねー、何か不具合とかあるー?」
何か不具合とかあるー?じゃねーよ。やばい、こいつダメなやつだ。
「ログアウトできないくらいで特に問題はないですねー、あ。取扱説明書とかwikiとかあると助かるんですけど」
あまり関わりにならないほうが良いと判断しました。
「不具合ないとかw そんなわけないじゃんww だってみんなブロックだよwwwww」
知ってるよ。パクリ元も。いやあんまり知らないか。
「そういうゲームじゃないんですか?」
「さっき言ったでしょ、異世界を作って小説の女神になって印税生活でウハウハしたいって」
言ってたような言ってないような。
「じゃあ、この四角いのが最終的には現実みたいになるんですか」
「もちろんだよー」
それよりも先に、俺を現実の世界に戻してもらえると嬉しいんですが