新・コボルト3
「ふうっ」
とりあえず、今日はこれくらいで勘弁しといたるわ!
「さて、帰ろうか」
「いやいやいや、何が起きたか説明しようよ」
なぜか文句を言うあんちゃんと同意するように何度も頷くザシャくん可愛い。
可愛いのはザシャくんのみ。
「グリム童話のランプルスティルスキンっていうコボルトの話を知らない?」
「どんな話なんですか?」
リアルでは絶対口に出してはいけないググレカス、と言う言葉を当然のごとく飲み込んで説明する。ググれないし。
「要約すると……」
貧しい粉引きが王様に、うちの娘は藁を紡いで金に変えることが出来る、と嘘をつく。
その娘は、糸車と藁とともに塔の上に閉じ込められる。
王は翌朝までに金を紡げなければ命をとると娘を脅す。
娘は代償として「将来生まれる自分の娘」と引き換えに、コボルトに金を紡がせる。
その後、娘は約束を反故にしようとする。
コボルトは自分の名前を当てられたら許してやるという。
「で、さっきみたいに自分で歌って、名前がバレて自噴するっていう話」
ちなみにこの話で、「子供が取られなくてよかったね」とかいう感想を漏らす人間とは、基本的にお近づきになりたくない。
「それ、うまくいかなかったらどうする気だったんですか?」
「だから逃げるって事前に相談したよね」
あんちゃんがとても不満そうだ。
でもこっちに被害が出ないなら、温泉を諦めればいいだけだし。
問答無用で襲いかかってくるとかならともかく。
「昨日のコボルトが嘘つきって話と、マウロがあいつらに聞いてくれって言ってた時に、なんとなく話が通じるんじゃないかなって思ってさ。まあ、こんなにうまくいくとは正直俺だって思ってなかったけどね。話が通じるかなぁ、くらいで」
おとぎ話に出てくるコボルトはイタズラ好きだけど、良心的なのも多くて、逆に人間に騙されたりするんだよ。あいつらがどんな性質なのかは知らんけど。
二人が呆れ顔でこちらを見てくるけど、ゾンビの時よりは気分がいい。
「お前たちなら必ずや、やり遂げると思っておったわい」
地霊の件を水の精のマウロに報告すると、したり顔で答えてきた。
このジジィは、いちいち嘘くさい。
「まあそういうわけで棲み分けられるようには手を打ったから。あんまり問題起こすなよ」
「えらい言われようじゃの。まあ感謝しているのは本当じゃ、心からお礼を言わせてもらおう」
マウロは両手を胸の前で組んで、深々と頭を下げた。
「では約束通り、この土の精どもをお主に託そう」
「契約だー」
「けいやくー」
「それよりも、この温水って入浴しても大丈夫なのか?」
「マウロ爺、こいつまたオレたちのこと無視してるぞー」
「まただー」
「おお、コボルトがいなくなったおかげで問題なく入れるぞい」
よし! 温泉だ。共同浴場だ。混浴だ。いや、混浴はナシだろ。ナシかな?どうだろう。
やっぱり露天風呂がいいよな。露天だけでもいいのかな。でも屋根は欲しいし。俺はサウナが苦手だけどつくったほうがいいかな?
いつもの変顔を晒してそうな気がしたので、妄想の海へダイブした意識をなんとか引き戻す。顔を引き締めて辺りを見渡すと、隣のザシャくんの土の精を見る目がヤバい。
いや、なんか口元もデレデレですけど。そんなにこいつら好きなのかな?まあ、かわいいけど。犬耳。
「ザシャくん。よかったら、こいつらと契約する?」
ハッと我に帰るザシャくん可愛い。
「も、申し訳ありません。我々聖騎士団はウェヌス様以外の信仰を禁じられておりますので……」
断っているけど、ザシャくんマジ涙目w
なんか、ため息つきつつ、「コーくんマジカワユス」とかつぶやいてる。やだ怖い。
「じゃあ、あんちゃんは?」
「は?なんで俺?」
「何を無関係な顔してんだよ、お前も当事者だろ」
「でもなぁ、特に何もしてないし」
なにかに悩むイケメン変質者。爆ぜろ。
「ほら、あいつらをアイドルにプロデュースすればよくね?ヤックデカルチャー」
「……うん、そうだな。わかった。やってみるよ」
お、承諾した。何かを決意したイケメン滅せよ。
「じゃあお前と契約するぞー」
「するぞー」
「ちょい待て」
お前ら気がはやいよ。
「なんだよ、邪魔すんなよ」
「すんなー」
「いやいや、お前ら馬鹿か。契約内容とか先に説明しろよ」
「そこの女が死ぬまで、俺たちが命に代えて守ってやるよ」
「まもるー」
今回の対価がそれってどうなんだろう。
かなり破格に聞こえるが、命の代償としては釣り合う感じなのか?
っていうか、精霊相手でもゲームの女設定は有効なんだな。
「こいつが死んだら、その後は立場が逆転とかしないよな?」
「しないぞ、そこで契約終了だ」
「おっわりー」
ファウストとは違うなら問題なさそうだな。まあ問題があっても俺は無関係だし。
あんちゃんの方を見ると頷き返してきた。
「じゃあ、契約しようか」
「「おー」」
土の精のコーネリアス、土の精のシーラ、そしてあんちゃんが三人で握手。
「契約完了だー」
「かんりょー」
「終わりかよ!」
特に光ったりエフェクトが出たり効果音が出たりとはナシだったので、ふつーに突っ込んじまった。
突っ込んだら負けのやつだろ、今のは。
「というわけで、ここの温泉利用はまた相談させてもらうから」
とぼけられたりはないと思うが、一応断りを入れておく。
「もちろん自由に使ってもらって構わんぞ。ああ、埋め立てたりは勘弁じゃがな。ファッファッファー」
「「ファッファッファー」」
何が面白かったかは謎だが、これで温泉ゲットだぜ。
俺たちの共同浴場はこれからだ!




