新・コボルト2
砦に戻ると、ブタとウシとニワトリが増えていた。
付近をうろついていたのを、カールさんが捕まえてくれたらしい。
「あの、ブタをバラしたいのですがいいでしょうか」
「あ、はい。どうぞ」
カールさんが捕まえたんだから許可とかいらないのに。
「あ、そうだ。ちょっと待ってください」
インベントリから、野菜を幾つか取り出すとブタがニンジンに興味を示す。
ブタ二頭にそれぞれ与えると、子ブタ誕生。
「「「!!」」」
ザシャくんとカールさんが驚く。ついでに俺も。
あんちゃんに聞いた中途半端なゲーム知識で試した甲斐があった。
ウシとヒツジは一頭しかいないので、ニワトリに種を与える。
子ニワトリ誕生!
あれ、ヒヨコどこいった?
ちなみに連続して与えても増えなかったので、クールタイムが必要なのかもしれない。
驚きで口を開けたままのカールさんに、可能ならウシをもう一頭捕まえておいて欲しいとお願いしておく。
コボルトスレイヤーの朝は早い。
スレイヤーは言う。「で、コボルトはどこだ」さりげなく語るが、そこには年季と、確たる信念が見えた。
いや、ここにコボルトスレイヤーはいない。
翌朝、コボルトの洞窟の入口に昨日と同じ面子。
「いざとなったら、盾とか捨てて全力で逃げるんでヨロシク」
まずは退路の確保として、洞窟から5mほどの場所に空堀兼簡易落とし穴を設置。
一部を退路用の足場として、大型盾を持ったあんちゃんを配置。長槍を構えてもらい、投擲用に短槍も何本か。牽制にはなるかなと。
「撤収が難しい場合は、ここで応戦ということで」
あんちゃんに待機をお願いして、ザシャ先生と二人でコボルトの洞窟の入口まで進む。今日も歩哨の姿はなし。
昨日よりは静かだが、それでも騒がしい洞窟の入口を半分ほど塞ぎ、ついでに塞いだ足元に深さ5m、幅2mほどの空堀を掘って安全を確保する。
備えよう。
そして洞窟の中に向かって、叫ぶ。
「おーい!ルンペルシュティルツヒェン、聞こえるかー!」
マック■ク■スケを呼ぶ姉妹のように叫ぶよ。
ってか名前長いよ。
あ、ザシャ先生がびっくりした顔で見てる、可愛い。
洞窟の中が、急に静まり返る。
もう一度。
「ルンペルシュティルツヒェーン、出ておいでー、出ないと目玉を刳り貫くぞー」
ちょっと違ったかな?
うーん。
まあこれでダメなら、撤収だな。
そんなことを考えていると、洞窟の中からドタバタガチャガチャと騒がしい音を立て、一匹のコボルトが這い出してくる。
正確には、洞窟の隙間からぴょんぴょん顔を出している。
「おい! お前は何で俺の名前を知ってる!」
いや、さっき洞窟の中で歌ってたから。自分で。楽しそうに。
『昨日はコバルト作りで今日は掘削、明日はパン焼き、明後日はビール作り。ルンペルシュティルツヒェンは働き者』って。
「お前は悪魔から聞いたな! お前は悪魔から聞いたな!」
コボルトのルンペルシュティルツヒェンは激しく地団駄を踏む。
いや、だから今お前が歌ってたんだよ。
「自分の身を引き裂く前に話を聞け。お前の真名において命ずる」
どうかな?
ルンペルシュティルツヒェンの様子を伺う。
「うぐぅ……何の用だ!」
話が通じるようで助かるよ。
「一つ提案がある」
入口の隙間から苦々しい顔で睨んでいるが、聞いてくれてはいるようなので、さらに話を続ける。
「実はここから北西に少し行った台地に、地下坑道をつくりたいと思っている。よかったらお前たちの力を貸してもらえないか?」
「……」
「もし引き受けてくれたら、報酬に毎日パンと牛乳を用意しよう」
「……7人分、毎日、過不足なく忘れずに用意できるか」
「わかった、約束しよう。台地は少し離れた場所だから、後日案内する。これは前金代わりのミルクと小麦だ」
インベントリから、バケツに入ったミルク(昨日カールさんが捕まえてきたウシのミルク)と小麦の束、ついでに白いパンを取り出す。
塞いだブロックを少し広げ、用心しながらそれらを手渡す。
「し、白いパン!」
アルプスの老婆のように目を見開いて、白いパンを貪るルンペルシュティルツヒェン。
おばあさんはもっと上品だったか。
クローゼットにあれだけ大量の白パンを見つけたら、そりゃロッテンマイヤーさんじゃなくても捨てるよな。
あれ、捨てたのチネッテだっけ?
「ヒャッハー! 旦那! 穴掘りなら任せてくだせぇ!これでこんな時化た洞窟ともおさらばだー!」
バケツと小麦の束を抱えて、穴の中に降りていくルンペルシュティルツヒェン。口には白いパンを咥えながら。
洞窟の中からはまた下卑た、そして楽しそうな歌声が響き渡る。




