新・コボルト 1
「次はコボルト退治か!なんか異世界モノっぽくなってきたな!」
何が楽しいのか、はしゃぐあんちゃん。
まあ最近、鉱夫とか山師みたいなことしかしてないしね。でもさっき、剣を取り落としてたよね?
「本当に戦うんですか?」
「そんなことしないよ」
心配そうなザシャくんに笑いかける。
「えっ、戦わないってことは温泉はあきらめるのか?」
だからお前はなんで驚いてんだよ。あとさっき、剣を取り落としてたよね?
「コボルトが何匹いるかもわからないし、そもそも俺たち戦闘向きじゃないだろ。全部ザシャ先生に任せる気か? それともあんちゃんが俺Tueeeしてくれるの? コボルト殺すべし。慈悲はない、的な。イヤこれは俺Tueee系じゃないけど」
「じゃあなんで、コボルトの洞窟に向かってるんだ?」
コボルトの洞窟は、温泉地(予定)のすぐ南に口を開いていた。
「ああ、さっき水の精のマウロ爺さんが言ってたことを確かめようと思ってさ、まあ下見は大事だよ」
洞窟の入り口に歩哨の姿はなし。
洞窟に近づくと、中からガタゴトという騒々しい騒音と楽しそうな歌声が響いている。
「何か歌ってますね」
「ああ、これは確定だろ」
「ん? 何が確定なんですか」
一旦下がって三人で作戦会議。
「な、中で苗床になってる人がいたりしないよな?」
キョどるあんちゃん。張り切ったりビビったり大変だな。
「まあ、その時は殲滅でいいんじゃね?あんちゃんが」
「バァンさんは、た、助けないんですか?」
「その話はさっきもしたはず。俺はコボルトスレイヤーじゃないし。案外、人間と妖精の間に生まれた魔術師マーリンみたいに立派になるかもよ?」
「……」
ちょっと怒らせちゃったかな。まあでもコボルトスレイヤーとか本当にめんどくさい。
「今日はもう昼も過ぎてるし明日また出直す、ということでよろしくー」
ダベりながら砦に戻ると、今日も周辺を探索していた斥候さんが戻ってきていた。
一人は怪我をしてた。
二人とも騎乗してたはずなのに、馬一頭に二人が乗っており、一人が腕から血を流して呻いている。
コボルトに襲われたとかなら、話が大きくなるな。
「大丈夫ですか?」
「湿原あたりを見回っていた時に、馬がティボットにはまっちまってな……」
深さのある水穴にはまって、馬が引き上げることができずに溺死したらしい。
あー、俺も最初の頃はまったなぁ。(マ○ク◯あるある)
「挙句、帰る途中でスケルトンに森から射掛けられて、このザマだよ」
スケルトンか。この世界が変わってからはまだ見てなかったけど、森の中に隠れてたのか。
でもそこはエルフだろ、女子高校生。
「治療しますので、こちらに」
ザシャくん可愛い、やったー。
「ああ、助かるよ」
ザシャくんが、例の大祓っぽい詠唱をしている間に、もう一人の斥候さんに話を聞く。名前なんだったかな?
「北西の湿地帯の先に進むのに乗馬では無理だな。船か徒歩じゃないと」
「湿地帯の先に何かありそうですか?」
「それは行ってみないことにはなんとも」
そりゃそうだ。
「ああ、そういえば湿地帯の西に、鉱石がたっぷり眠ってそうな大きな台地があったぜ」
気になるだろって顔でウインクされた。おっさんに。
「一度見てみたいですね」
「おお、じゃあ今から一緒に行ってみるか?軽く見て回っても日暮れまでには戻れると思うぜ」
馬の世話をしてくれていたザシャくんに馬を引いてきてもらう。
名前はまだない。
斥候さんに馬具を借りて、再度乗馬体験!
ちなリアルでは、子供の頃、観光地でおっさんに引かれた乗馬以外の経験なし。
うん、高い。俺の高所恐怖症が有頂天。
「もうついたのか!」「はやい!」「きた!台地きた!」「メイン台地きた!」「これで勝つる!」
「もう少し速度落としますか?」
「お、おね、お願い、しまぶ」
舌噛んだ。
振り落とされないように必死すぎてよくわからないけれど、多分10分もかからず台地に到着。
湿地帯の入り口の横には、確かに鉱石が眠っていそうな匂いがプンプンする台地がそびえる。
台地沿いに半周程度を見て回った印象では、砦の島よりかなり大きいように見える。
「上も見ておきますか?」
「今日はこれで。ありがとうございました、砦に戻りましょう」
帰りも、すごく……早いです……馬。




