コボルト
「コボルトが居ます」
ザシャくんが左手に持った盾で俺たちの動きを制し、小声で注意を促す。
丘から降りて、蒸気が立ち上る温泉と思われる場所に向かう途中、コボルトの集団に遭遇する。
なんでまた黄金繋がり?なんの嫌がらせだよ。
まあ、黄金絡みのおとぎ話は多いからね、しょうがないね。
はぁ。
コボルトが5体。身長はテオたちよりも小さいかもしれない。森が少し開けたところでなにやらガヤガヤ騒いでいる。
子供が何かイタズラしてやったぜ、的な笑い声。下卑た笑いだけどなんか楽しそう。
「コボルトの爪には毒があるそうです、どうします?」
うーん、どうしよう。
「毒! に、逃げようぜ!」
あんちゃん慌てすぎて声が裏返る。そして振り向くコボルトたち。
「ギィシャーーーーー!」
即座にインベントリから石の剣を取り出し、あんちゃんに渡す。
が、うまく掴めず取り落とす。
あちゃー。
先に渡しておけばよかったが、彼にはインベントリもないし佩剣するベルトもない。
いや、剣吊帯をつくっておけばよかったのか。
ザシャくんが凧型楯を構える。
後衛がもたもたして、戦闘態勢を整える前にコボルトが襲いかかって……、
こない。
あれ?
どうもコボルトたちは、こちらに向かってくるどころか、森の奥へ逃げ出してしまったらしい。
ビビリか。
なんとなしに芽生える仲間意識。俺だけしかいないが。
「彼らは臆病ですからね」
ザシャくんが剣をしまいながら説明する。
彼らに俺を含んでないよね?
コボルトは、病弱そうな灰色の肌に大きな鼻と耳、口からは犬歯が覗く、薄汚れた服を着た痩せた小人という感じ。
狗頭じゃなかった。
下手すると、鈴木土下座衛門に改名しなきゃいけない羽目になるからな。
妄想中の変顔を二人に見られながら、コボルトが騒いでいた付近を眺める。
「おお、これって銀じゃないですか?」
喜ぶあんちゃん。
「多分、コバルトじゃないですか?」
苦々しくつぶやくザシャくん。
採掘してみると確かにコバルトだった。
何かと錬成してコバルト合金の剣とかにできないかな。
「そういえば、ゴブリンとコボルトは別の種族なの?」
「コボルトは細身で臆病、ゴブリンは一回り大きくて好戦的ですね。」
「ゴブリンは知ってますけど、コボルトってどんな魔物なんですか?」
おや、あんちゃんはコボルトを知らない?
「えーと、ゲームとかに出てこない?」
「あんまり記憶にないですね」
これはジェネレーションギャップなのか、それとも触るゲームの違いなのか。
「コボルトは銀を腐らせるから嫌われてるんですよ」
「え、銀って腐るんですか?」
ザシャくんの説明に驚いている。
「酸化して黒ずんだりするのは腐るっていうのかな?コバルトってヒ素を含んでたりするし、ものすごく硬くて冶金しにくいし、おまけに銀に似てるから向こうの世界でも鉱夫に嫌われてたんだよ。銀だって騙して売り払ったりとかもあったらしいよ。」
「へー」
「コボルトはドイツ語、ゴブリンは英語。元をたどれば同じような妖精なのかもね」
「えーと、このコバルトがコボルトが腐らせた銀だとすると、コボルトが腐らせる前の銀がまだ埋まってるってことですかね? あれ?コバルトとコボルトってどっちが魔物でどっちが鉱物でしたっけ?」
「「!!」」
あんちゃん、意外と(変なところで)鋭い。
早速、その辺りをほっくり返す。
「銀だね」
「金もありました!」
「マグマの影響かな?」
「ゲーム実況だと金とかは、もっと深くないと取れなかったっぽいですけどね! もっと掘ればもっと出ますかね!」
目がドルマークだよあんちゃん。
ドルマークの由来はスペインドル銀貨らしいから、それは多分適切すぎる!
えーと、俺たちは何をしにここに来たんだっけ?




