善意で敷き詰められた道
白い部屋改め鋼鉄の部屋から戻ってくる。
収穫はゼロ。
もう、あの部屋いらないんじゃないかな。
大体クリア条件が、駄女神を落とすって意味わかんねーよ。
バカジャネーノ?
はあっ。
駄女神に会うと高確率でため息が出るような気がする。
あたりはそろそろ夕刻。
偵察に出ていた部隊は、暗くなる前に全員無事帰還。
土塁を閉じて夜に備える。
やっぱりあれから魔物を見ない。
駄女神の言った通りなら、砦全部を松明で埋め尽くさなくてもいいってことだよね。
街灯とかあった方がいいとは思うけど、わき潰しのためだけに、そこらじゅう松明にするってのはちょっとアレだと思っていたのでまあ、助かる。
ウェヌス様珍しくGJ。
地下でクラフトでもして過ごそうかと思っていると、丁稚のモットーくんに声をかけられる。
「ファサール様がよろしければご一緒にと」
さすが商人の丁稚だけあって丁寧だ。
偵察結果を共有してくれるそうです。アリガタヤアリガタヤ。
少なくともさっきの白い部屋にお呼ばれするよりは、収穫のある話が聞けそう。
案内されたファサールさんの天幕の中は、思ったより立派だった。
色とりどりの絨毯が床や壁に使われてとても華やか。
遊牧民な雰囲気なのかな。
出されたミントティーをすすりながら、偵察隊の話に耳を傾ける。
北から北西と南西方面を軽く見てきた結果、北側と西側は大きな平野に森と泉が点在。
ところどころ洞窟が口を開けていたそうだ。
東の海に沿って北上したところ、また大きめの川があり、川に沿って北西に進むと、湿地帯が広がる。
南西方面は森が深く乗馬での偵察は諦めたとのこと。
あと近場にマグマが流れる場所があり要注意とのこと。
西側はしばらく平地と森が続き、途中に二箇所ほど村を発見。
そのどちらもゾンビの巣窟になっているようで、遠目で確認するだけにとどめ村を迂回。
それ以外では、途中ゴブリンやコボルドなどの小鬼を何度か見たとのこと。
どちらかの村がカールさんたちの村なのかもしれない。
生きている人がいる気配がしたという斥候もいたけれど、ここは意見が分かれた。
「ゾンビですか。金のリンゴでもあれば、助けられるかもしれないんですけどね」
ファサールさんが、ぼそりと呟く。
おおっ! ゾンビナオールきたか!
「ゾンビになった人を治せるんですか?!」
あ……
でも、俺、
そうだ、俺、ユリアちゃんの両親殺しちゃったんだっだ……
「まあ治せると言っても、腐ってしまったり欠損した部分はそのままですし、何より自我が戻らないって話ですけどね。そもそも金のリンゴ自体が神話レベルのレアアイテムですし」
ファサールさんがなんか言ってるけど、頭に入ってこない。
だめだ、心臓がめちゃくちゃ脈打ってる。
どうしよう、俺、ユリアちゃんの両親殺しちゃったよ。
ああ、気分悪くなってきた。
そのあとの話はあまり覚えていない。どこかでふらっと外に出てしまったような気がする。
主塔でテオくんとユリアちゃんが飛びついてきた時は、本当に死にたくなった。
二人の頭を撫でながら、
「本当に撫でていてもいいのか」
「お前にそんな資格があるのか」
そんな声が聞こえてくるような気がした。
だめだ、また涙が出てきた。
辛すぎて、逃げるように見張り塔へ登る。
「金のリンゴって知ってる?」
昨日と同じようにザシャくんに話しかける。
「はい、ゾンビ化した人間を元に戻せるっていう神話ですよね」
神話か。でも俺作れるんじゃないかな。ゲームの設定なら。
「大丈夫ですか?」
心配そうにザシャくんがこちらを覗き込んでくる。
「あんまり大丈夫じゃないかも」
14歳の子供に愚痴ってる大人って最低だな。
「我を洗い清め給え」
昔見た映画で皿洗いの少年がボーイソプラノで歌っているシーンを思い出す。
松明を見ながらぼんやりしていると、後ろからザシャくんにハグされた。
ハグされながら、夫婦喧嘩している時に、子供がニコニコしながら抱きついてきたのを思い出す。
ザシャくん優しい子。
ふうっ。
日本人なので他人とハグなんて考えられないと思ってたけど、うん、落ち着いたよ。
「ありがとうザシャくん、もう大丈夫」
ザシャくんの眩しい笑顔のおかげで、なんとか持ち直せそうな気がする。
どんな顔でユリアちゃんと接すればいいかはわからないけれど。
交代の時間だったけれど、そのままザシャくんが隣にいてくれた。
俺はそれに甘えて見張りもそこそこに、ザシャくんの隣で今日採取した材料を使って夜通しクラフトを続けた。
地獄に落ちれば許されるんだっけかな。




