性別詐称
「目を離した隙に、いつの間にか外に出てしまったみたいで。申し訳ないです」
カールさんが謝ってきた。
「まあしょうがないですよ、子供ですし。商隊の皆さんもひどくお疲れのようなので、とりあえず様子見ですかね」
「そうですね。ああ、そうだ。木材って余ってませんか?もしよかったらブタとニワトリの小屋を作っておきますよ」
釘やらはないので、小麦から藁を選別・乾燥させて縄を作成。木柵と一緒に渡して設置をお願いする。
「いやー、すごいですね。あれって本当に魔法じゃないんですか?」
釣小屋を見ながら、ファサールさんと鉄鎧の傭兵っぽいごつい人、あと変質者くん改め、あんちゃんが一緒に歩いてくる。
「まあ、錬金術みたいなものです。魔法は使えません」
「あれで十分魔法みたいなもんだがな。俺はバルズス。この商隊に護衛として雇われてる。砦に入れてもらって正直助かった」
なんか滅びの言葉みたいな人きた。左目に大きな傷跡があって、古兵って感じ。怖い。40代後半ってところか。
「この嬢ちゃんとは同郷らしいな」
「そいつ男ですよ」
「「え?!」」
二人があんちゃんから距離をとる。
「あ、バラしちゃまずかった?」
「なんでもいいです、自分でもどうしたら良いのかわからなかったですし」
あんちゃんの幸せをお祈りするよ。
ひとまず、主塔の前に簡易の椅子と机をつくって、4人で情報交換をする。
ここでも驚かれたけど、スルー。
と言ってもこちら側からの情報は、3組が別の場所からここに飛ばされたこと。カールさんたちは村ごと飛ばされたこと。昨日の夜はゾンビと対峙していたこと。ここが島だということくらい。あとウェヌス様情報。駄女神情報は伏せておく。
あんちゃんは道に迷った以外は伏せている。話せる内容はそんなにないしな。
ファサールさんたちの話は、昨日から道に迷って、ゾンビの集団を捕食している屍食鬼の集団に鉢合わせにあって、命からがら逃げてきたとのこと。
屍食鬼とゾンビって捕食者と被捕食者の関係なのかしらん。
「要するに今の所、ここがどこだかわからないということですね」
ファサールさんが子供のような笑顔で楽しそうに答える。
「若、そんな楽しそうにしている場合じゃないですぜ」
「いやいや、面白いじゃないですか、だって魔物ですよ、冒険ですよ」
「はぁ、また悪い癖が出てますよ。明日になると思いますが、一息ついたら、何人か斥候を飛ばしておきます」
「そうですね、お願いします」
そう言いながら、ファサールさんがざっくりした地図を広げてみせる。
「この地形や地名に見覚えはありませんか?」
そして驚愕の事実。
文字が読めないw
いや、想定の範囲内だ。言葉が通じたけど文字はどうなんだろうと気にはなっていた。
ゲームでは多分、英語を翻訳したものが表示されてたと思う。
文字の形は、ルーン文字とかキアス文字っぽいような気がする。
駄女神の設定ならトールキンから拝借した可能性は十分ある。
時代設定的に10世紀前後の中世ヨーロッパプラスファンタジーの鉄板っモノぽいから、ルーン文字の可能性もある。
まあ、どちらだとしても読めるわけじゃないので考えてもしょうがない。
あんちゃんに目配せするが、頭の上に疑問符が出てる。
ひとまず、作業中のカールさんとザシャくんを呼びに行く。いや、あんちゃんに呼びに行ってもらう。なんとなく暇そうにしてたので。話聞いてるかすら怪しいけど大丈夫かな。
ザシャくんに見てもらったところ、読めるらしい。
カールさんは文字自体を読めないとのこと。
地図にある地名については、知っている地名も地形もないとのこと。ザシャくん曰く国名だけはどこかで聞いたことがあるような、ないようなというくらい。
ザシャくんのいた地域の国名を幾つか挙げてもらったところ、ファサールさんが食いつく。
「その地名は知ってます! 伝説上の地名だと思ってましたが、実在したんですね」
ラ○ュタは本当にあったんだ、的なノリで小躍りしている。
この人も残念なイケメンか。
「さてそろそろ商談をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
落ち着いたファサールさんが、姿勢を整えてこちらに向き直る。




