聖ウェヌス
「本当に助かりました、ありがとうございます」
荒い息を整えながら、村人の男性が頭をさげる。
女性と子供は座り込んでいる。
剣士もこちらに話しかけてくる。
「私は聖ウェヌス騎士団、ヴィルヘルム様に仕える従騎士のザシャと申します。失礼ですが、ここはどこなのでしょうか?」
剣士ではなく従騎士でしたか。そういえば若いな。14歳くらいか。
あとなんか嫌な名前を聞いた気がする。
さてなんて答えよう。
「バァンと申します。それが私も困っていたのですよ、あなたたちはどうされたのですか?」
質問に質問で返してみた。
【はじまりの土地】だ、と言っても、は?って顔されるだけだろうし。
あと本名を言う勇気もないので、いつもゲームで使う名前を名乗っておく。
ちなみに本名は番場。
村人の男性が話し出す。
「私はカール。向こうにいるのが妻のエミリアと子供のテオ、その友達のユリアです。」
子供は6歳くらいか。埋葬したゾンビと同じくらいだな。
カールと名乗る男性が続ける。
「昨日の夜、私たちの村がゾンビに襲われたんです。森に逃げ込んだところを騎士様に助けていただいて」
そう言うとユリアが泣き出した。
カールの顔が歪む。
「40人ほどの小さな農村なのですが、多分ほとんどがやられてしまったと思います。」
話を聞くと、村人たちはゾンビに対抗しようとしたようだが、噛まれた村人がゾンビ化してどんどん増えていくので、最終的に手がつけられなくなってしまったようだ。
その後、森に逃げたところで、別のゾンビの集団に遭遇してしまい、ユリアの両親が亡くなったそうだ。
対岸のゾンビの集団の中にいるらしい。
従騎士のザシャが、うつむきながら話す。
「私たちは領地の見回りをしていたはずなのですが、突然森に迷い込んでしまい、そこでゾンビの集団に襲われて。ヴィルヘルム様はゾンビになる前に自ら首をはねて自害されました。」
……話が重いわ。
カールが続ける。
「私の村の近くには本来、森などないはずなんです」
「カールさんの村は、聖ウェヌス騎士団の管轄か何かなんですか?」
「いえ、私たちの村は騎士団領などではなく、セオドア様の治める名もない寒村です」
「ウェヌス様は知っていますが、聖ウェヌス騎士団というのは聞いたことがありません。」
カールの奥さん、エミリアが付け加える。
「私もセオドア領というのは聞いたことがないですね。国の名前はなんというのですか?」
「国の名前ですか? なにぶん無学な農民ですので、申し訳ございません。」
どうも、みんな違うところからコチラに呼ばれてきたようだ。
多分、犯人は駄女神。
「バァン殿は何かご存知でしょうか?」
ザシャがすがるような目でこちらを見てくる。
なんか子犬みたいでかわいいな。
金髪碧眼でどこぞの貴族か?
庇護欲と将来のイケメンに対する嫉妬が混ざって、変な笑顔が出てしまった。
「実は私もここがどこだかよくわからないのです。ただ、ウェヌス……様ならわかります」
嘘は言ってないが、どこまで喋って良いのやら。いや喋ったらまずいだろ。
「ぐー」
テオくんのお腹がなったところで、みんなの緊張が少し解けた。




